今まで私は、歴史的な人物を演じる際には、必ずお墓や記念碑をお参りした。
ところが、2008年のNHK大河ドラマ『篤姫』で演じた井伊直弼の場合は、
スケジュール等の都合で、どうしてもお参りが出来なかった。
撮影終了後もチャンスが無く、ずっと行きそびれていた。
井伊直弼さんを演じるにあたっては、
直弼さんから数えて五代目に当たる御子孫の方の、
「今まで井伊直弼は数々の作品で色々に脚色されて、ただの冷酷で残虐な悪者に描かれて来たが、是非、井伊直弼の真実の思いを伝える作品を作って欲しい」
という言葉を、番組の茶道指導をされていた表千家の鈴木宗卓先生から承った。
井伊直弼さんは、
儒学・国学・曹洞宗の禅・居合道・柔術・剣術・槍術・弓道・砲術・茶道・能楽など、
文武両道を極め、
特に居合道では新心新流、茶道では石州流系の一派を自ら興した。
それはそれは恐ろしい程の才人なのだ。
【一期一会】
は、井伊直弼が生み出した言葉だ。
鈴木宗卓先生から、石州流の独特なお手前を習い、
『篤姫』の【井伊直弼の茶室の場】で披露した。
同時にこの場面は、
篤姫と井伊直弼が初めて本音で語り合う、大変重要なシーンとなった。
そして【桜田門外の変】。
「自分の役割を果たす為に命を懸けた男の生き様」
を演じ、伝える責任があった。
『篤姫』での仕事は、私にとってとても重要な経験になった。
それだけに、お参り出来ていないのがずっと気になっていた。
今回、ある旅番組で、豪徳寺を訪ねることが出来た。
閑静な住宅地に、突然現れる大きな森。
一万坪を超える広大な境内。
静かな佇まい。
とても立派なお寺だ。
その奥にある墓地の一画に、代々の井伊家のお墓が並んでいる。
大変な広さの敷地だ。
その一番奥に
井伊直弼さんのお墓があった。
やっとお会い出来ました
遅くなってしまい
申し訳ありませんでした
胸のつかえが、スッと降りた様な…
そして、様々な思いが湧いて来る様な…
ご住職さんに、豪徳寺の由来をうかがった。
彦根藩第二代藩主だった井伊直孝が、鷹狩りの帰りに前を通りかかった時、門前で白い猫が手招きをしていた。
気になった直孝は猫に誘われるままに境内に入った。
猫は和尚の飼い猫で【たま】という。
寺で暫しの休息をしていると、
間もなく雷鳴と共に激しい雨となった。
雨宿りをさせてもらいながら、和尚の法話を聞く事が出来、
大変喜んだ直孝が、井伊家の菩提寺とすることに決めた。
寺の伽藍を創建し境内を整備し、寂れていた寺を盛り返した。
寺の名前も直孝の戒名の『久昌院殿豪徳天英居士』から取って、豪徳寺となった。
以来、代々の彦根藩主の内、江戸で亡くなった方々と、その妻や側近達がこのお寺に埋葬されている。
という訳で【招福猫児(まねぎねこ)】の誕生である。
これが彦根の【ひこにゃん】になり、
豪徳寺商店街の【たまにゃん】となるのだ。
全国に様々な【招き猫伝説】があるが、ご住職は
「こちらが発祥の地です」
と仰っていた。
ちなみに豪徳寺に今は、飼い猫はいないそうである。
そして、境内には立派な三重塔がある。
よく見ると
いたるところに猫がいる。
そして
こんなに招き猫達が
【招福猫児】を買って福を願い、叶った人達がお礼に返しに来るのだ
何やらホンワカとした
とても幸せな気持ちにさせてくれる
懐の深い、優しいお寺だ
来る事が出来て、本当に良かった