安曇野ジャズファンの雑記帳

信州に暮らすジャズファンが、聴いたCDやLPの感想、ジャズ喫茶、登山、旅行などについて綴っています。

吉田 類著「酒は人の上に人を造らず」(中公新書)

2019-12-13 20:04:30 | 読書

吉田 類著「酒は人の上に人を造らず」(中公新著)を読みました。元は、中央公論の2015年10月号から2017年9月号までに掲載されたものです。東京の下町や北海道から九州までの各地で訪れた酒場と出会った人を描いて、そこに著者の生い立ちなども絡め、興趣に富んだ文章が綴られています。 

   

BS-TBS「吉田類の酒場放浪記」の文章編の感もあるのですが、例えば、「パリのバックパッカー」と題し、パリに滞在し画家修業をしていた時にロンドンやマドリードを巡った話など題材が広くとられていて、そちらの話も面白いものです。

東京の酒場の描写は活き活きとしていて、通ったお店や街には思い入れがあるようです。門前仲町や木場の酒場の様子を描いた「東京下町パラダイス」、JR神田駅の立ち飲みショット・バーでの危うい体験を綴った「立ち酒はハードボイルドの後に」、新宿ゴールデン街や思い出横丁、博多屋台について記した「横丁の月」あたりが特に印象に残りました。

「酒縁はめぐる」と題したあとがきに代えてを読むと、「酒場で見ず知らずの客と乾杯し、すぐその場に馴染んでしまう。」という土佐人流の飲み方を地でいっているのが吉田類さんのように思えます。そういった資質、素地があってこその酒場放浪記であり、この文章でもあります。

本書に出てくる俳句・短歌のうち気に入ったものを記します。
独酌に雨後の月冴ゆひとしずく(吉田類)
瀧嵐このうま酒を酌む時の恋にかも似る酔心かな(吉井勇)

(本書は4つの章に分けてあります。各章の扉です。)