野の草(1)水引草
山里を歩いているとさまざまな植物に出会う。しかし、残念ながら、その植物の名も生態もほとんど知らない場合が多い。せっかくなのにもったいないことだと思う。デジカメという有力な記録機器を持っているので、日本の野生観察をかねて、これから少しずつでもそれらの植生の実態などの、――調査まではできないにしても、時間の合間を見て観察と記録ぐらいはできると思う。動物は動きまわるので植物のように被写体として記録してゆくことはむずかしい。それでも、カエルや沢ガニ、バッタ、ニッポンザルなどは観察し記録できるかもしれない。
先にも10月18日から名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開かれたばかりだ。京都の賀茂川でも日本の固有種であるオオサンショウウオの交雑が進み、日本固有種の絶滅が心配されている。秋の野原を見ても、セイタカアワダチソウやブタクサなど西洋からの外来種の植物の姿は目立つけれども、オミナエシやフジバカマ、萩、キキョウなどといった、日本古来の山野の寂びた景色を構成していた草花は今はもうほとんど見られないようになっている。懐かしいそれら日本の秋の原風景は、もはや遙か昔に閉じこめられた記憶の中にしか見ることができない。
日本の固有文化と人間の多くが敗戦を契機にアメリカナイズされたように、植生の世界でもセイタカアワダチソウやアメリカザリガニのように、アメリカ進駐軍と時を同じくして日本に支配的になった動植物も多いようだ。生態の多様性を守ることは文化の問題でもある。