風のそよぎ
風の戦ぎ、
山から落ちる、水のせせらぎ、
カラスやウグイスたちの鳥の鳴き声、
芝刈り機のエンジンの音、遠くから聞こえてくる。
私の全身を撫でながら過ぎてゆく、
山頂から吹き下ろしてくる風。
眼を瞑ると、
梅雨明けの青空から日差しは消え、
私の瞼の血の色である深紅の世界に、
鎖される。
私のこの全身の感覚が、
今自分の生きていることを実感させる。
死とはこの五感のすべてを喪失した、
無の世界に他ならない。
しかし、たとい
私の生がなくとも、世界はある。
私は私の前世を忘れてしまっているが
いつか、
無限の時間と空間を旅した後に、
いつかどこかで再び私自身に出逢うことがあるに違いない。
だが、そのとき新しい私は今の私を思い出すこともない。
それが反復であることすら気づかない。―――――
道路の側壁に腰を下ろし、
そこから市内を眺望していても、
誰一人行き過ぎる人もいない。
空を見上げると、
先ほどまであった小さな入道雲の子供は、
姿を消し、
真っ白なかき氷の山に姿を変えている。
うとうと寝そべっている私に、
「おい、A」と、
少年時代の友人が呼びかけたような錯覚にとらわれる。
キュウリも茄子もまるまると太って、
その重みに茎も傾いでいた。
収穫して行って、彼らの身を軽くしてやろう。