作雨作晴


日々の記憶..... 哲学研究者、赤尾秀一の日記。

 

福田康夫氏の総裁選不出馬──日本政治の体質

2006年07月25日 | 政治・経済

九月に行われる自民党総裁選に福田康夫氏が出馬しないことになった。福田氏本人は、これまでも一度も総裁選出馬への意欲を明確に示したことはなかった。

小泉首相の靖国神社参拝問題が対中国や韓国との外交問題化し、その結果、日本国内にも小泉首相の靖国神社参拝に懸念を抱く人々の間に、靖国問題で慎重な姿勢を示す福田氏に支持と擁立の動きが見られるようになった。福田氏本人はそうした勢力の動きや世論の動向を見極めて態度を決しようとしていた。

そうした時に、北朝鮮のミサイル発射実験が行われて、それを契機として、国連安全保障理事会で対北朝鮮決議案が採択されることになった。その過程で、安部晋三氏等の外交努力とそれにともなう世論の安部氏支持と福田氏への支持の低下を見た福田氏は自民党総裁選の勝利の芽はないと判断して、はじめて公式に自身の総裁選不出馬を表明して、周囲の福田氏待望論を打ち消したものである。

このような一連の経過を見て分かることは、福田康夫氏が確固とした政策や政治理念をもった政治家ではなかったということである。もし、福田氏に政策に対する切実な欲求があったなら、勝敗を度外視しても、また、年齢などを言い訳にすることもなく、自民党の総裁選に立候補していただろう。かって小泉首相が自身の郵政民営化政策を実現するために、橋本龍太郎氏や小渕恵三氏ら旧角栄派の首相候補と総裁選で戦って、二度敗北を喫したように。

福田氏は結局、小泉氏のように政治理念に対する切実なミッションを持っていなかったのだ。福田氏は今回の不出馬の理由として、自身の年齢や靖国問題における国論の二分を懸念してなどという理由を挙げておられるが、それは本質的な問題ではない。福田氏自身に語るべき政策、理念がなかったということである。

しかし、それは単に福田康夫氏にのみにとどまらない。日本の「政治家」
の多くに共通している。彼らの求めるのは、政策や理念の実現ではなく、その本音の多くは「利権」である。だから、総裁選の出馬不出馬の判断の基準も、政策や理念の実現ではなく、首相の座を獲得できるかどうか、その勝敗のみが自己目的になる。現在の自民党員「政治家」の多くがそうである。


彼らが党派を組むのは、理念や政策が基準ではなく、権力の座にあることによる「利権」が核である。日本の政党は、共通の政策や理念の実現を目的とする政治家の集団たりえていない。その点においては、現在の自民党も民主党も旧態依然として本質的には同じである。利益選挙談合政治屋集団の水準から脱していない。その現実的な論理的帰結は、派閥政治である。日本政治は相変わらず、前近代的な派閥政治から脱却できていない。

今回の総裁選問題での森派閥会長の森喜朗元首相のように、派内の融和という政治屋の利権を優先して、国家の政策、理念論争という政治家としての根本的な大義を二の次にするということになる。

福田氏は自身の立候補によって、日本国内が靖国神社問題で国論の二分することに対する懸念を、不出馬の理由の一つとされているようであるが、それは言い訳に過ぎない。

たとえ、国内を二分するほどの大論争が存在したとしても、対中国や韓国などの外交問題に関しては、多数決原理に従って国論を一致させて対応するのが、真の自由民主国家の国民というものである。

たとえ国論を二分するようなテーマでも、その団結を失わず、自由な討論を展開するのが自由民主国家の姿である。もし福田氏が総裁選に立候補して、中国や韓国や北朝鮮の国民の目の前で、日本国民が靖国問題で国論を戦わせるならば、彼らの国と日本のいずれが本当の自由民主国家であるかを実証する機会にもなりえただろう。しかし、そうはなりえなかった。なぜか。中国も韓国も北朝鮮も、そして日本もその表向きの政治的な看板にかかわらず、その国家国民の体質はお互い似たもの同士だからである。

日本の政党政治は、かって論考したように、自由主義を理念とする自由党と民主主義を理念とする民主党の二大政党による政治以外にありえないと思う。日本の現実の派閥政治を、この政治の概念に近づけてゆくことが課題である。(「民主党四考」)

また、福田氏があえて論争を避けた小泉首相の靖国神社参拝問題については、小泉純一郎氏が一私人の個人の資格で靖国神社に参拝することを言明している限り、靖国神社に参拝するもしないも、正月に行くも秋季例大祭に行くも、また、八月十五日の日本の敗戦記念日にするも、小泉純一郎氏の完全な自由である。産経や朝日などのマスコミが、中国や韓国の尻馬に乗って、それを公的な問題にすること自体が問題である。それは、小泉氏の個人的な問題に過ぎない。その個人の自由を完全に保障するのが日本の国是である。まして、諸外国からの干渉の余地は全くない。(「小泉首相と靖国神社」)

 

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