6月27日(土)テレビを主舞台にした再び三度の「お笑い」政治の増幅を視野の片隅にしつつ、今日も板橋の現場を歩く。「現場」とはときに激烈な物言いではあっても、暮らしに根ざしたそれぞれの思いが潜んでいる場所のことである。ある駅前通りのある居酒屋に元区議がやってきてこう語ったという。「あんたのところは有田を支持しているのか」。店の前にポスターを貼ってくれた女将が不気味に思ったのは、引き続いておかしなことがあったからだ。「警察官だ」と名乗る男が店に来て、こう問うたという。「有田はここにどのくらい飲みに来るんだ」。警察官がこんなことを聞くとは思えない。きっと警察官を騙った嫌がらせなのだろう。民主党区議を励ます会に呼ばれて一度だけ顔を出した店での出来事である。その駅前通りをスタッフと歩く。支持者が貼らせてくれたポスターが消えている。ある食堂店頭にあったものが、横にある公共物に移動されている。店に「不都合でもありましたか」と聞けば「あらっ、誰がこんなことしたんでしょう」と驚いていた。あるパン屋横で色褪せたポスターを貼り替えていたところ、血相を変えた若い男が「誰の許可を得て貼っているんだ」と言ってきた。「ご主人に許可を得ていますよ」と言っても「おやじがそんなことを言うはずがない。剥がせ」と言い募る。店に入って何度も会話をしてきたご主人に確認すれば、その息子さんらしい男に気兼ねしてか、苦笑いをするばかり。「うちは●●党に頼まれているんだ」と男性は尖った言葉を吐いた。選挙が近いと実感する。吉村昭さんの遺作短編集『死顔』が文庫になった。川西政明さんの解説は吉村さんの死生観をコンパクトにまとめてくれた。人には誰も踏み込むことのできない心の領域がある。浮世の馬鹿げたことどもの、いかにつまらないことか。吉村さんの静謐な筆致と人間観察を再読しつつそう思う。7月31日で吉村さんが亡くなって3年になる。