荒川三歩

東京下町を自転車で散策しています。

矢切りの渡し/たった一人の客

2024年07月11日 | 散文

梅雨時の「矢切りの渡し」です。

旗が出ているので営業中です。

声が掛かります。「乗る?」即答します。「乗らない」「あっそ」

船頭は寂しそうです。

声を掛けます。「今日はダメだよ。帝釈天参道に人が居ないもの」「分かってるよ」

励まします。「梅雨時はしょうがないよ」「分かってるよ」その時サラリーマン風の男の人が江戸川の土手を降りて向かって来ました。位置的に私の方が先に見つけました。「客が来たよ! 絶対客だよ!」

船頭が声を掛けます。「乗るかい?」「初めてなんだけど、いくら?」「片道200円、一周400円」「一周で」渡し舟に乗った客が聞きます。「出発は何時だい?」船頭が答えます。「時間は無いよ。ある程度客が来たら出すよ」

暫く待ちますが、ある程度どころか、一人も来ません。「今日は来ないから出すよ」と1人だけで出発です。

2人の後ろ姿が素敵です。

映画のワンシーンみたいでした。


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