荒川三歩

東京下町を自転車で散策しています。

東京藝大コレクション展で出逢った人

2020年10月19日 | 散文

上野公園の立て看板です。このコレクション展はいつも注目しています。「事前予約不要」と書いてあります。よし! 行こう! 美術館はこんな風に、予約で縛られることなく、気分次第でふらりと行くのが好きです。

 

この展覧会は、黒田清輝や青木繁や小磯良平や佐伯祐三等々の卒業生の作品の他に「序の舞」等のコレクションを観せてくれます。

 

更に、「第2部では、歴代藝大生の自画像群を特集。卒業生の自画像制作は、西洋画科の卒業課題としてはじまり、現在まで脈々と受け継がれた伝統で、巨匠たちの若き日の姿、技量を伝える点でも興味深い。

(この部分の文章と写真は、同展覧会のHPを転載しています。)

退出します。 上記第2部では約6000人の卒業生自画像の中から約100点が展示されています。選ばれたそれなりの有名人達だと思います。それらを鑑賞していて、「えっ!?」って声が出そうでした。私の叔母が師事していた画家の自画像があったのです。私を連れ回してくれた叔母なのでその方にも会っている筈ですが、肖像画は青年であり会った時は既に老人だったこともあって全く記憶の回路が繋がりません。こんな眼差しの鋭い個性的な顔をしていたんですね。若い頃は、、としみじみ眺めました。

 

外に出ました。藝大キャンパスは秋色です。 

 

その方には他にも縁があります。私の二男の高校の美術教師が彼の息子さんなのです。私の苗字は数が少ないです。美術教師がひょっとしたらと思って二男に問いましたが、二男は大叔母が画家をしている程度ことしか答えられません。もっともその答えで十分だったのです。教師は叔母にとって師匠の息子であり、姉弟弟子でもあります。教師から叔母に問い合わせがあり、叔母から私に知らせがあって、縁の不思議に驚いたものです。今治出身の美術教師と今治出身の親を持つ高校生が東京の一隅で先生と生徒になったところ、上記の縁があったのです。

教師は彫塑家です。その作品は故郷今治にも数点あります。当時叔母に言わせると、高校教師をしながら結構作品が売れていて、教師の分際でドンペリばっかり呑んでいるらしいです。まだご健在でしょうか?

 

この機会に、叔母のことを書き遺しておこうと思います。 

 

叔母は4男4女の末っ子に生まれたので、父の長男に生まれた私にとっては同じ家に暮らす姉のような存在でした。彼女が死ぬまでずっと「姉ちゃん」と呼んでいました。叔母も私を弟のように可愛がってくれました。社交的で弁が立って背が高くてスタイルが良くて賢くて美人で酒飲みでお節介焼きで、万事控え目で人前で話しもできない兄弟姉妹の中にあって、突然変異で生まれたような人でした。当時の男性社会にあってオジサン達から、「このコが男やったら家名を上げたのに、惜しいのう」とよく言われていました。私の自慢の叔母でした。

 

私が高校生から大学生の頃、何度か「あんたあ役者にならんけん」、「役者になったらええのに」と言われ、その度に私の父(彼女の兄)から「跡取り息子に要らんこと言うな!」と叱れていました。私は私で、曲がりなりにも芸術家の美意識で言っているのだろうから、と満更でもありませんでしたが、そんな雲を掴むような夢のような話に現実感はありませんでした。そもそも、叔母は弟子に対して「あんたあそれええがね」、「ええ色出とるがね」、「その服センスええがね」等々、褒めて伸ばす先生でした。それを知っていることもあって、心を動かされることはなく、それこそ自分がなれば良いじゃないかと思っていました。叔母はそう言って私を励ましてくれているのだろうと思っていました。

時が下って、叔母が高齢になって記憶に障害が出た頃入院しました。帰省時にお見舞いに行ったら弟子の婦人がお見舞いに来ていました。叔母は私を彼女に紹介するに、「わたしの甥で、東京で役者しとんよ」と言うのです。ビックリして私を見るお弟子さんに対して、苦笑いしながら首を振ったものです。ひょっとしたら、叔母は本気でそのように考えていたのかも知れません。叔母の言うことを聞かなかったお陰で、こうして遊んで暮らしていけています。

 

叔母が亡くなったとき、従姉妹(叔母の娘)から親族代表挨拶を頼まれました。両親やもう一人の伯母の時は大丈夫だったのに、叔母の時は泣けて泣けて思っていたことの半分も伝えられませんでした。

・・・藝大卒業生自画像から叔母を想い出しました。

 

美術館の向こうの空の下は音楽学部のキャンパスです。そういえば、義理の姪があそこで学んでいたなあ・・・

もう叔母を語ることは無いと思います。

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