京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

感染症の起源と歴史

2020年05月12日 | 環境と健康

 今世紀に入ってコロナウィルスによる世界的な感染症の拡大は3度目である。2003年SARS(重症性急性呼吸症候群)、2012年MERS(中東呼吸器症候群)と2019年COVID-19(新型コロナウィルス感染症)である。この他に2009年にはブタ由来のインフルエンザウィルス(H1N1)によるパンデミックがあった。

COVID-19の収束はいまだ見通せないが、感染症の歴史を振り返り、なぜ繰り返しこれが人類を襲うのか、それにいかに対処してきたのかを知るのは大切なことだ。

 現在の採集民族は他の霊長類集団と同様の感染症に苦しんでいるが、それ以外の人類の主要な感染症の起源は、農耕が開始されてからの新規なものが圧倒的に多い。麻疹、風疹と百日咳などのウィルスの生存が持続可能なためには、数十万のまとまった人口が必要で、これは農耕文明によって初めて可能になったのである。農耕により大規模な人間と家畜の世代の交代が生じた。家畜は野生の動物と頻繁に接近して、病原菌の移動の効率的な媒介者となった。ジフテリア、インフルエンザA、はしか、おたふくかぜ、百日咳、ロタウイルス、天然痘、結核などが、家畜から人に伝達された。一方、B型肝炎、ペスト、チフスが類人猿とげっ歯類から人に伝播した。

 ヒト病原体のほとんどは旧世界で発生したものである。これは旧世界の方が圧倒的に生物多様性が大きかったためである。それはヨーロッパが新世界を征服するのを容易にした。ヨーロッパの植民地化に抵抗する先住民は、剣や弾丸によるよりも新たに導入された旧世界の感染症で亡くなった。一方、旧世界のヨーロッパ人には、黄熱病とマラリアが到着するまでは比較的安全な環境であることがわかっている。

 

 動物由来感染症(ズーノーシス)では、動物からヒトに直接あるは間接に微生物が感染する。ヒトの病原体は約1400種も同定されており、このうち動物由来感染症の病原菌は半分以上の870種を占めている。さらに新興感染症の175種の病原菌の3/4が動物由来である。これらの病原菌と宿主(ヒト)との間には軍拡競争が続いている。感受性の高い宿主は減少・消耗するか、あるいは免疫能が進化して、発症率が低下していき延びる。場合によっては宿主の体内に病原菌を保持するキャリアーとなることもある。

Wolfeら(2007)は感染の段階で、ズーノーシスを次の5つに分類分けをしている。

Stage1 動物間においてのみ伝播サイクルがある。

Stage2 動物間において伝播サイクルがあり、ヒトにも感染する(狂犬病、日本脳炎、炭疽病)。

Stage3 動物からヒトに感染し、ヒトからヒトへの感染はまれ(エボラ、マールブルグ)

Stage4 動物からヒトに感染し、アウトブレーク(頻発感染)する(デング熱、COVID-19)

Stage5ヒトの間でのみアウトブレークする(エイズ、天然痘、麻疹)

 

              

(参考論文より引用転載)

人類の歴史で繰り返し襲った凶暴な感染症はペストである。これの病原菌はグラム陰性桿菌のYersinia pestisである。北里柴三郎が発見した。病原体を持つノミの咬傷によって感染し、リンパ球を初発の感染部位としする腺ペストを発症する。リンパ節は膨張しやがて、肝臓などの臓器で菌が繁殖する。死亡率は30-50%と高い。血液を通じて全身に菌が繁殖すると皮膚の出血斑を伴うので黒死病と呼ばれた。また頻度は少ないが肺ペストがあり、空気感染する。

 

 COVID-19の消長に関して、今後、梅雨や高温多湿の真夏に向かってどのように推移するのか関心がよせられている。地球温暖化は気温、湿度、降水量などを変化させる。これら気候要因は感染症の流行に影響を及ぼす。たとえば温暖化によって媒介蚊の生息域が拡大し、マラリアやデング熱の流行地域が広がっていることが問題になっている。デング熱は熱帯・亜熱帯性の発熱性の感染病であるが、ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。2014年に東京代々木公園で、蚊に刺された人が感染して大騒ぎになった。

 

温暖化によって健康被害を受ける可能性がある集団を脆弱人口というが、この割合が大きい社会のリスクは大きくなる。脆弱人口は都市部の高齢者、貧困層、慢性疾患者、幼児や密集住居者などである。温暖化と都市部の大気汚染によって循環器系疾患によって総体として住民に免疫力の低下が起こる。これは武漢やニューヨークでの爆発感染の背景の一つと考えらる。

 

 人間の感染症はほとんど動物起源であり、人は新しい病原体に攻撃され続けている。それ故に、こういった病原体を監視するための継続的な取り組みが必要である。これは、将来我々を脅かすかもしれない動物の病原体をすばやく検知し、それが世界的に広がる前に制御するのが目的である。

 監視は、動物ハンター、野生動物の解体業者、獣医師、取引に従事する労働者、動物園の労働者など、野生動物に高いレベルで曝露している人々に焦点を当てる。そのような人々は動物ウイルスに感染している可能性があるので、長期にわたって監視し、接触している他の人々まで追跡することができるシステムを構築するべきである。今回、SARS-Co-2が発生したとされる武漢の海鮮市場のような人々もそういったモニターの対象としなければならない。地域的モニターに限らず、世界的ネットワークのものでなければならない。これはWHOが担うべき役割である。この組織が特定の国や組織に政治的に利用されない本来の中立の姿にもどり、今後のパンデミックに備えてほしい。

 

 

参考文献

Nathan D. Wolfe, Claire Panosian Dunavan & Jared Diamond Origins of major human infectious diseases, Nature 447, 279-283, 2007

追記 (2020/03/09)

コロナウィルスは約1万年前に誕生した。人類の農耕文明が始まったころである。コロナウィルスンL63は1200年頃(鎌倉時代)、229Eは江戸時代、OC43は1900年頃(明治時代)に誕生した。人口の増加と新規コロナウィルスの進化は関連している可能性がある。

追記(2022/03/13)

天然痘は4000年ほど前にラクダと暮らしていたエジプト人を起源とする説がある。アフリカのげっ歯類に寄生した天然痘の祖先ウイルスがラクダに入り、それが進化してさらに人に感染した。コーディー・キャッディーの説である。

 

 

 

 


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