京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

人類の社会的な集団の適正サイズは150人

2020年05月10日 | 文化

 人類において感染症のエピデミックやパンデミックがおき始めたのは、おそらく人々が集落を形成した以来のことと思える。それでは、本来、人はどれほどのサイズの集団でくらしていたのだろか?

 英国ハーバード大学の人類学者Robin Ian MacDonald Dunbar(ダンバー)教授は、各種の霊長類の大脳新皮質 (neocortex)の大きさがその種における群れのサイズと相関することを発見した(論文1)。大脳新皮質は、群れの増大に伴う情報処理量の飛躍的な増加に対応して、大きくなってきたものと考えられたのである。それまでは、大脳新皮質の進化は生態的問題の解決能に関連していると考えられていた。

 

Dr Robin Ian MacDonald Dunbar

この関係式から計算されたヒト(人)の群れサイズは、約150人ぐらいとされた。ダンバーはまた、クリスマスカードの交換に基づいた西洋社会における平均的なソシアルユニットは、やはり150人ほどだとしている(論文2)。

 ユヴアル・ノア・ハラリはその大著『サピエンス全史』において、噂話によってまとまっている集団の自然なサイズの上限を150人としている。この「魔法の数」を越えると、メンバーはお互いに人を親密に知る事も、それらの人について効果的に噂話をすることもないと述べている。この限界を越えるために、人類は神話という虚構が必要だったというのがハラリのご自慢な説である。

 縄文時代の三内丸山遺跡で約5500年前に集落が形成されはじめた頃、住居の数は40-50棟で人口は約200人ぐらいだったそうだ。これもDunbarの150人仮説に近い。

このサイズが、感染症の抵抗性に関して最適なのかは、今後の研究が必要である。

 

論文と参考図書 

1) RIM Dunbar:Neocortex size as a constraint on group size in primates. 3ournal of Human Evolution ( 1992) 20,469-493.

2) RA Hill and RIM Dunbar: Social Network size in humans. Human Nature (2003)14, 53–72.

亀田達也 『モラルの起源』岩波新書 1654 岩波書店 2017

 

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 新型コロナウィルス症(COVID-19)とインフルエンザのトレードオフ

2020年05月10日 | 環境と健康

 最近、血圧の薬をもらいに近所の医院に行くと、待ち合い室はガラガラで患者がいない。コロナ騒ぎの前までは、結構混み合っていた。どこの医院でも外来の数が減っているそうだ。院内でのCOVID-19感染を恐れた市民が敬遠しているのと、不要の外出が減って事故など少なくなったせいである。他に、COVID-19の対策として、<マスク-手洗い-うがい>を人々が励行して、インフルエンザの患者が減ったことや、感染防止のために日頃の健康状態と免疫を高めるようにという勧告も影響しているのであろう。要するに、新型コロナウィルスが日本人、特に老人に「活」を入れたのだ。

日経メディカル(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202003/ 564922. html)の報道によると、病院の53.4%で外来患者が減り経営にも大打撃を受けているそうである。とくに影響を受けているのは小児科、整形外科と消化器内科である。呼吸器内科でさえも少し減少している。患者が減っている理由を医師に尋ねたアンケートの中に、「いままでは不要不急の受診ばかりではなかったか」(50歳代病院勤務医整形外科)というのがあって笑ってしまったが、実際そのとおりだと思う。老齢者の中には病院通いが日常習慣になり、飲みもしない薬をもらってきては気休めにしている人が多い。

 季節性インフルエンザに罹る人の数は年により違うが1000万〜1500万人である。2019年中に、それが原因で亡くなったのは約3000人、間接死も含めると約1万人とされている。ところで、2019年12月から2020年3月にかけての季節性インフルエンザは、いつもとパターンが異なっていた。12月中は例年よりもインフルエンザの罹患者は多く、まれにみる大流行になるのではないかと危惧されていた。しかし幸いな事に、1月中旬になってから急にその数が減り始め、結局、例年の三分の一ほどにとどまった(下図)。

(ニッセイ基礎研究所公開の資料を引用・転載)

その理由として、暖冬説やワクチン有効説が言われている。ただ、12月も暖冬だったし、インフルエンザワクチンは効かないというのが定説になっているので、これらの説は間違っている。今年のワクチンが、たまたま効いたのなら12月の異常流行は説明できない。やはり、1月になって武漢肺炎のニュースに対応して市民がマスクや手洗いなどの衛生行動を取ったことが影響したものだと思える。1月中はまだ中国からの旅行客が街にあふれていた。

 今冬におけるインフルエンザの罹患者が減少した分、それによる死者の減数分は計算上では10000 x 2/3 =約6700人となる。今日現在、COVID-19による日本での死者は609人である。人数の比較(差し引き計算)をすると、この期間中に感染症で亡くなった人がかなり減った事になる。まだこれからCOVID-19の死者は増えるので、こういったプラスのトレードオフが今後も成立しているかどうかは分からないが、直近の日ごと感染者数の状況ではそうなりそうである。

 医者や無用の薬に頼らない「自立した健康」を、市民がこれからも目指せばさらに「病気」(神戸大学医学部教授の岩田健太郎さんによると、これは医者と患者によって作られる「共作概念」のようである)も、それによる死亡も減ると期待できる。COVID-19が真の健康とは何かを考え直す契機となれば良い。

 

参考図書

岩田健太郎『感染症は実存しない』インターナショナル新書 052, 集英社

 

追記(2020/05/14)

日本で1月以降にインフルエンザの流行が押さえられた原因として中国からのSARS-CoV-2ウィルスが観光客を媒介に入り込んだためとする論文が出ている。インフルエンザとコロナウィルスが競合したためであるとしている。

Y.Kamikubo, A.Takahashi, 『Paranamics of SAES=Co-2 by herd immunity any antibody-depenndent』(2020)

https://www.cambridge.org/engage/coe/article-details/5ead2b518d7bf7001951c5a5

 

追記 (2021/06/04)

あらゆる病原性ウイルスが競合し合うというのは都合の良い考え方で、あるウイルスが感染すると他のウイルスも共感染する事が多いと言われている。

D.プライド 『ヒトバイローム』ーあなたの中にいる380兆個のウイルスー

日経サイエンス 2021/07号 p46

 

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