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Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

がん化学療法副作用の末梢神経障害の鍼灸治療に関するメモ

2013-11-11 | 西洋医学的鍼

【2013年のシステマティック・レビュー】
 まず、臨床研究として、2013年7月の『エビデンス・ベースド・コンプリメンタリー・オルタナティブ・メディスン』に掲載された「がん化学療法由来の末梢性神経障害に対する鍼の実験と臨床のシステマティック・レビュー(A Systematic Review of Experimental and Clinical Acupuncture in Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy)」は、この問題に関する総説論文となっている。

 結論としては、「1つのコントロールされたランダム化試験が鍼は、がん化学療法による末梢性神経障害に有効であるかもしれないと示している。全ての臨床試験に方法論的な問題がある」と指摘している。

 方法論的問題というのは、「鍼のツボの選択というのは、多くの学派からなる異なる鍼のアプローチがあり、それは、中医学、メディカル・アキュパンクチャー、日本式鍼、フランス式耳鍼、トリガーポイント鍼、ツボ指圧、エレクトロ・アキュパンクチャーなどである」と指摘している。これはわたしも鍼灸のシステマティック・レビューを読むたびに同じ不満を感じている。 
 月経困難症について韓国の研究者が出したシステマティック・レビューなどは、体鍼と耳鍼と頭皮鍼と高麗手指鍼をごちゃ混ぜにして評価していて驚愕した。しかし、このシステマティック・レビューでは、逆に、そこから非常に興味深い議論が出ている。 

 最初の化学療法副作用の末梢神経障害の鍼の臨床試験は、耳鍼だったことを書いている。ASPと呼ばれるフランスの貫通式の半永久耳鍼を真鍼として、日本の耳ツボで使われる植物のタネ王不留行をプラセボ偽鍼として比較試験の結果、貫通式のASP耳鍼は著しく症状を改善したが、植物のタネ刺激は全く改善しなかったことを記述している。

 体鍼のツボの分析も詳細にしている。特に奇穴の八邪八風が体鍼で頻回使われていることを注目している。このツボが選ばれた理由として、八邪八風が病変の同じデルマトームに所属しており、鍼による脊髄反射が背景にあるのかも知れない(The rationale behind the choice of points located nearby or in the same dermatome of the affected limb/region might lie in the activation of spinal response after acupuncture)」としている。

西洋医学的鍼の理論では、鍼は3つの層で働く。
(1)局所(2)脊髄(3)中枢神経である。

(1)局所はサブスタンスPやCGRPなどの血管拡張物質の放出である。これはフレア現象を起こし、局所の血流を改善し、組織治癒に働く。
(2)脊髄レベル;ゲートコントロールなどデルマトームのセグメンタル・エフェクト。
(3)中枢神経系:脳神経系におけるエンドルフィン、エンケファリン、セロトニン、ダイノルフィンなど。

 そして、電気鍼の2Hz通電が100Hz通電より効果的という動物実験からは、(3)中枢神経系のエンドルフィン、セロトニン、ノルアドレナリンによる鎮痛が深く関わっていることが推測できる。耳鍼も、局所や脊髄文節(デルマトーム)とは関係しないので、(3)中枢神経系と化学療法による末梢神経障害との関わりを示している(←病変は末梢神経なのに!!)

 もう一方で、臨床的によく使われる八邪や八風の取穴は(1)局所、(2)脊髄レベル(デルマトーム)、(3)中枢神経系のいずれもの層に働きかけていることがわかる。

【基礎研究】
  イタリア・ローマ、細胞生物学と神経生物学研究所のルイジ・マニが2011年にイタリア生物学雑誌に発表した「電気鍼と神経成長因子(NGF):臨床応用の可能性Electroacupucture and nerve growth factor: potential clinical applications)」が非常に印象的だった。2013年11月の「神経因性疼痛に対する鍼の効果の背後にある分子メカニズム(Molecular mechanisms underlying effects of acupuncture on neuropathic pain)」も非常に印象的だった。
  鍼は、神経成長因子の放出を促し、脊髄レベルではエフリンBS受容体のメッセンジャーRNAを増やす。これは、神経のシナプスの再生やシナプス結合の促進が行われている証拠である。特に、電気鍼が著しく、増加させたが、手技鍼も増加させたという結果が興味深い。

【日本発エビデンスの可能性】
 ここまで、英語の研究論文を調査していたが、まとめると、臨床的効果は確実にあり、動物実験では、2-10Hz電気鍼が最も効果的という方向性だと思う。
 日本では、昭和大学医学部が実験動物を使った基礎研究を発表し、臨床研究では、大阪大学大学院、東京大学、埼玉医科大学、筑波大学、国立がんセンターなどが発表をしている。東京大学の発表や福田文彦先生の発表は、陽陵泉(GB34)ー懸鍾(GB39)、陰陵泉(SP9)ー三陰交(SP6)の鍼通電+太衝(LR3)の置針。

 他の日本の研究では、今月の『医道の日本』の埼玉医科大学の山口智先生の論文では、切皮程度の置鍼。津田昌樹先生は、東方会式の接触鍼と温灸。三重大学の看護師さんのグループは温灸。帝京大学は、焦氏頭皮鍼+ノジェ式耳鍼と非常にユニークなものになっている。

 患者さんのことを第一に考えるなら、温灸、接触鍼、切皮程度の置針や局所を使わない頭皮鍼や耳鍼で臨床効果が出れば一番良いと思う。


【現時点でのわたしのまとめ】
 わたし自身は、アロディニアに対して、弁証論治により、温灸と接触鍼で効果を出しているので、ファーストチョイスとなる。2Hzパルス鍼が効果を出しているというのは、中医学の分析では、オ血だと考えている。接触鍼で通経し、温灸で温陽理気活血通絡する。
  西洋医学アタマで考えると、(1)局所レベル、(2)セグメンタルレベル、(3)中枢神経レベルで考えるべき。
 (3)中枢神経レベルに作用させるために、耳鍼とYNSAなどの頭皮鍼を導入する。
 (2)セグメンタルレベルに対して、責任高位のデルマトームあたりにある華陀夾脊穴や背部兪穴を使う。

 (3) 局所は、温灸中心で行うが、温灸で効果がなければ、得気して、陽陵泉(GB34)ー懸鍾(GB39)、陰陵泉(SP9)ー三陰交(SP6)の2Hzパルス鍼や八風・八邪の置鍼は使うと思う。

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※「がん患者に対する鍼治療(3)化学療法による末梢神経障害に対する鍼治療の実際

小内愛(こうちあい)、山口智(やまぐちさとる)
埼玉医科大学東洋医学センター
『医道の日本』Vol.82 No.11 2013 104-111

※「がんの化学療法の副作用による手のしびれの一例
津田昌樹
『医道の日本』 72(5): 141-143, 2013.

※「パクリタキセルによる末梢神経障害に対する温灸の効果に関する検討
『三重看護学誌』14(1), 67-79, 2012-03-15 

※「多発性骨髄腫の化学療法による末梢神経障害に対する頭皮鍼治療及び耳介療法の効果
西山比呂史, 黒木佳奈子, 南部隆, 福田悟, 森田茂穂, 高橋秀則
『慢性疼痛』 29(1): 139-143, 2010.


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