ひょうきちの疑問

新聞・テレビ報道はおかしい。
2020年のアメリカ大統領選以後はムチャクチャ

エンデの遺言 ~根源からお金を問う~3

2009-10-31 07:36:50 | 国際金融

旧東ドイツの町『ハレ』。ベルリンの壁崩壊、東西ドイツの統合によって、旧東ドイツには、新たな経済システムの波が押し寄せました。体制が変わり多くの市民たちは資本主義の原理の元での生活を始めました。自由と競争の中で既存の多くの企業が倒産し、町には失業者が溢れました。現在のハレのマーケットです。東ドイツ時代に比べ、町には物が溢れています。ハレの人々はこの変化をどう受け止めているのでしょうか。

「統一でどんな変化がありましたか?」

「個人的には何の意味もなかったわ。バナナを街で見かけるようになったのが、大きな変化かしら。
あら 驚いた?お金も増えた。可能性も増えた。でも仕事も増えて、忙しくなったわ。」

「一生懸命働けば何でもできる。ベンチで酒を飲んでちゃ、何にもならない。とにかく働かなきゃ」

「東独時代はお金があまり無かったから使わないことが身についているの。お金はものを買うときの交換手段よ。左右されちゃいけないわ。今ではお金があると幸せになれると言うけれど、それは違うと思うわ。」

ドイツ統一の2年後、このハレの町でコミュニティを作り直そうという試みが始まりました。デーマークという独自の経済単位を作り、現金を使わず通帳上で物や仕事を交換するシステムです。交換リングと呼ばれています。交換リングはどのように機能しているのでしょうか。

交換リングの会員、クリスティーネさんは、愛用のトレイが壊れてしまい、同じ交換リングに属する木工所に修理を頼みにやってきました。
交換リングは、お金を発行していません。お金の代わりに、会員同士が通帳を持ち、物や仕事を交換するたびに、その値段や料金を決めて記入するシステムになっています。
この日は作業代として15デーマークを支払うことで商談が成立しました。クリスティーネさんは、通帳の支払いの欄に15と書き込み、これまでのトータルから差し引きます。木工所の通帳には、+15と書き込みます。最後に互いに確認のサインをします。
デーマークには利子はつきません。
コミュニティの中の労働や物の交換は全体としては常にプラス、マイナス0になる仕組みです。
現在、交換リングの会員は200人。会員の間では、デーマークでさまざまな物や仕事が交換されています。この輪が広がればますます多様なサービスが受けられるようになるはずです。

シュトローバッハさんは、デーマークでカウンセリングを受けられると聞き、カウンセラーの家を訪ねました。
シュトローバッハさんは東ドイツ時代の仕事を失い、家族との関係もうまくいかなくなってしまいました。心の拠り所を求めて、交換リングに参加して新しい生活を作り上げたいと思っています。
カウンセリング代として10デーマークを支払います。交換リングでマイナスを持つということは、その分を誰かに返さなければなりません。そこで新しい関係が生まれます。
マイナスのデーマークは、共同体の一員である証になるのです。

「私にとって大切なのは、人と一緒に何かをすることです。ただどこかへ行って買い物をするということではなくて、デーマークで何かをしてもらったり、自分から何かを提供したりするときは、必ず人とコンタクトをとる機会があります。それが私にはとても重要なのです。
お金、お金、お金、お金が全てじゃない。それが私には素晴らしいのです。」
<ゲルトラウト シュトローバッハ>

ハレの若者たちに開放されているデーマークの事務所。マルティン・バーチさんは失業中ですが、交換リングに参加することで生計を立てています。3年前からここで部屋を借りて会員から求められる仕事をしてデーマークを稼いでいるのです。

「この部屋代のために月20時間庭師や管理人として働きます。15時間いろいろな仕事をして食事代を稼ぎます。こうして部屋代と食事代が節約できます。残った時間は自由にできるんです。」
<マルティン・バーチ>

今バーチくんの通帳に記されているデーマークはマイナスです。しかしそれは普通のお金の借金とは違います。たとえマイナスでもデーマークには利子がつきません。金利が雪ダルマ式に増えることはありません。「できることは何でもやってみる」とデーマークの交換のために自家製のパスタを作り始めました。
市内にあるカフェで月に1回デーマークの会合が開かれます。会員たちは手作りの品物や不用になった小物を持ち寄ってデーマークで交換します。新しくデーマークに加わりたいという人がやってきました。システムの説明を受け会費と通帳代として10マルク支払い、入会手続き完了です。デーマークはその場からすぐに使えます。

会員達は交換リングの活動をどう感じているのでしょうか。

「いろいろな人と知り合えたし、自分の思いつきを実行に移せました。本当のお金だったらこうはならなかったでしょう。」

「交換リングには本当に助けられました。今までこんなに快適と思えるところは無かった。」

大銀行の拠点として、世界の資本が集中するスイス。

ここに個人間ではなく、零細な商店や中小企業のための60年の歴史を持つ交換リングがあります。
バーゼルに本店を置きスイス国外に6つの視点を持つヴィア銀行。
ヴィアは、我々という意味です。1934年世界恐慌の嵐が吹き荒れる中、スイスの商店や中小企業は新しい経済システムを編み出しました。スイスフランとは別にヴィアという利子のつかない独自の単位を作り取引を行うというものでした。
ゲゼルの理論を母体として誕生したシステムですが、今では実際の紙幣の発行をやめ、ヴィアという単位での取引だけに限定しました。運営はヴィア銀行が行い、会員はスイス全土に及んでいます。現在ではスイス企業の17%にあたる76000社が参加し全体のネットワークとしてスイス経済に根をおろしています。

グランツマンさんは、家電ショップの経営者。ヴィアの交換リングのメンバーです。ヴィアが使えるかどうかは店の入り口に表示されています。ヴィアの取引システムは基本的に個人間の交換リングと同じです。通帳に記帳する代わりにカードでの電子決済が可能になりました。4年前にヴィアとスイスフランの両方が扱えるカードシステムが導入され、ヴィアでの取引額は大きく増加しました。製造業から、ホテル、レストランまで、ヴィアに加盟する事業所はバラエティに富んでいます。カタログには商品やサービスの紹介と共に、その代金の何%をヴィアで受け取るかが示されています。この制度はあくまでも通常の通貨による取引と同時に平行して実施されているシステムです。1ヴィアは1スイスフランに相当します。
グランツマンさんは20年以上、ヴィアで取引をしています。従業員二人と見習いの徒弟3人の小さな店ですが、この店の経営が順調なのはヴィアの交換リングに所属しているからだと話しています。

「ヴィアはいいことばかりですよ。新しい客がつきますし、ヴィアが動けばスイスフランもついて来ますしね。」
<ハンス グランツマン(家電ショップ経営者)>

ヴィア銀行のドゥヴォワさんに、スイス経済にヴィアが果たしている役割を聞きました。

「スイスでは80%が中小企業です。この数字で、私たちの存在意義を理解していただけるでしょう。私たちが中小企業をどのように支えているかですが、一つには、ヴィアのシステムがスイスフランにプラスアルファのビジネスをもたらしているのです。フランとヴィアが並存することで、お互いにプラスになっています。さらに、ヴィアに加入することで連帯が強まり購買力が一つの輪の中で維持されて、外に逃げていかないことが私たちの強みです。」
<エルヴェ ドゥヴォワ(ヴィア銀行)>

[内橋 克人(経済評論家)]
東と西の対立、つまり東西冷戦構造崩壊いたしまして1990年代に入ってまいりますと、ますます市場原理というものを至上のものとする、最高のものとする、そういう一辺倒型の市場主義が世界を覆ってきたともいえます。そういう中で世界は今ある意味で同時多発的に共生という、共に生きるという、共生セクター、共に生きる領域を求めてさまざまな運動というものが台頭してきたと思います。その場合に共生セクター、共生の原理というのは、連帯とか、あるいは信頼さらに、共同というところにあると思います。
一方の競争ということで考えますと、競争セクターはやはり人々を分断して対立させて、そして競争を激しくさせて、その間に、対立した人の間にマーケットを置くという、そういう形の競争セクターが、いわば世界を設計したわけであります。共生セクターというものを望む人々のさまざまな試みの中で共生セクターを、真に実のあるものにしていく、効果のあるものにしていく、そのためには、現在流通している貨幣というもの、通貨というものを、そもそもそこから新たな問題提起をしていくと。考えてみれば、経済というものは元々、人々の生きる、働く、暮らす、これを統合した存在として、生業として、或いは営みとしてあったはずであります。
これを原点から、私たちはもう一度考え直すその一つのよすがとして、新しい通貨・貨幣というものを考え直すことは、大きな力というものを共生セクターに与えることになるのではないかと、そういうふうに思われます。

オーストリア、チロル地方、このアルプスの保養地で未来のお金のシステムを考えようという、国際会議が開かれました。
会議には金融関係者や経済学者を中心に、さまざまなジャンルの専門家がヨーロッパやアメリカから参加しました。
かつてのローマ会議のように、世界の経済の専門家や市民が一同に介して金融システムを真剣に話し合いたい。エンデが生前実現を願っていた会議への第一歩です。会議は4日間に及び、テーマの一つは、ゲゼル理論のヴェルグルでの実践でした。

リエターさんは、多国籍企業の顧問を務め、ジョージ・ソロスと並ぶ投機家でした。ベルギー中央銀行に招かれて、新しい通貨ユーロの実現にも参加しました。現代のマネーゲームの最先端にいて、このままの金融システムでは未来はないと考え始めました。このリエターさんが注目したのが、ゲゼルでした。

「私は問題点の中心は、金融システムにあると信じます。
1971年、ニクソン大統領が、ドルを金本位制から切り離したときから、私たちは歴史的に前例のない時代を生きているのです。
現実的な経済に対して安定させる何の保証もない通貨の時代が始まり、その不安定な通貨が世界を混乱させているのです。
今日の不況は1930年よりも酷いかも知れません。当時の不況はアメリカやヨーロッパに限定されていました。
我々が今もっている世界規模の経済システムこそが問題なのです。
異なる通貨システムは異なるタイプの関係性を築くと思います。私たちが常識だと思って使用している通貨は、国や企業に競争を強いる性格を持っています。金融システムが競争を前提として機能しているのです。もし私があなたと協力関係になりたかったら、実際にそれを築くような別の通貨が必要なのです。目的に応じて道具は使い分けるべきです。
ですから、私たちには複数のお金が必要なのです。
経済の未来は私たちがどんな関係を持ちたいかで決まります。世界中で何千も使い始めた地域通貨は、その関係性を回復する一つの新しい道具なのです。」
<ベルナール リエター(カリフォルニア大学バークレー校)>

『今日のシステムの犠牲者は、第三世界の人々と自然に他なりません。
このシステムが自ら機能するために、今後もそれらの人々と自然は容赦なく搾取され続けるでしょう。
このシステムは消費し、成長し続けないと機能しないのですから。成長は無からくるのではなく、どこかがその犠牲になっているからです。
歴史に学ぶ者なら誰でもわかるように、理性が人を動かさない場合には、実際の出来事がそれを行うのです。
私が作家として、この点でできる事は、子孫達が同じ過ちを犯さないように考えたり、新たな観念を生み出すことなのです。そうすれば、この社会は否応なく変わるでしょう。
世界は必ずしも滅亡するわけではありません。
しかし、人類はこの先何百年も忘れないような後遺症を受けることになるでしょう。
人々はお金を変えられないと考えていますが、そうではありません。
お金は変えられます。
人間が作ったのですから。』
<ミヒャエル・エンデ>


1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ヴィア (すげよ。)
2011-01-25 21:13:46
初めてヴィアというものを知りました。驚きました。今の日本には必要なシステムのように思います。ただ日本に合ったヴィアが必要で、考察する必要があるように思います。ヴィアよりももっと良いものが出来るのではないかと思います。今後の日本が楽しみだ。
返信する

コメントを投稿