今日もエジプトは上機嫌。
細胞が活性化してくるような良い天気。
ベランダから見えるピラミッドが「おいで、おいで。」と言っている。
そうだ!「ヤッラ!アハラマート!」(ピラミッドへ行こう)
マンションの前の通りで、乗り合いマイクロバスを探す。
何度乗っても、乗り方がわからない。
なぜなら時刻表もなければ、停車場所も行き先もわからない。
ほとんど地元民しか利用しない、この難解な乗り物をこなすには、度胸とコツが必要なようだ。
胸のあたりで手で三角形を作れば「ピラミッドへ行きたい」との意思表示。
ピラミッド行きの乗り合いバスが通りかかれば、どこに立っていても止まってくれる。
そしてドライバーに声を掛ければ、どこでも降りることが可能だ。
中に乗り込むと、アラビアン-POPがガンガン響いてくる。
私と嫁の隣りは、お洒落で美しいお嬢さん。
元気なドライバーに、アシスタントらしき人、後ろにはコーランを唱えている人もいる。
そのコーランが佳境にさしかかると、A-POPのボリュームを下げるという配慮をみせるドライバー。
後ろに座った娘が、私の隣のお嬢さんに知り合いのように声を掛ける。
「三人分の運賃をドライバーに渡して。」と頼んでいる。
乗り合いバスの乗客たちは、みんなで助け合う。
娘も何人かの運賃を集計してドライバーに渡し、各々のおつりを配ることもよくあったらしい。
「外国人の私に頼むって、どういうこと?」と思ったが、コミュニケーションがとれて結構楽しかったとか。
料金は50ピアストルから1ギニー。(7円~14円)
娘は日本円で3円ほどのおつりを、きっちり返してもらっていた。
一度おつりが返ってこないので請求したら、
「今、細かいのが無いんだ。でも外国人なのに、そんな少ないおつりが欲しいの?!」
とドライバーに大笑いされたから
「当たり前!お金は大事。」と笑って言い返したとか。
沢山のアヒルと同席したり、子どもからお菓子をもらったり、おばさんがみんなに詰めるように命じて、席を作ってもらったり、
仲良くなった人に降りる時ハグされたり、女の子の一団とおしゃべりしたり、見ず知らずの人に運賃を払ってもらったり…。
タハリールの客待ちのドライバー達とも顔見知りになり、何も言わなくても行き先まで連れて行ってくれた。
なかには親切なドライバーがいて、マンションのまん前で降ろしてもらうこともあった。
乗っていた乗り合いバスが、急に始まった検問から逃げ出し、
ハリウッド映画のカーチェイスのように怖い思いをしたこともあったらしい。
一度、膝に手を置いてきた痴漢らしき男に遭遇。
その手を掴んで「おりろ!」と言ってその男をバスから降ろしたことも。
中の乗客、特に若い女の子達に拍手されたという武勇伝も聞いた。
庶民の知恵が作り出した、庶民の味方のこのシステムに、娘はずいぶん恩恵を受けた。
苦学生の財布にも優しく、何より地元の人々との心温まるふれあいがあった。
エジプト人の人情の裸の姿があった。
その人情に娘は何度心を慰められただろう。
今日も定員オーバーの乗り合いバスは、A-POPをガンガン響かせながら、
明るく元気にトコトコ走り回っていることだろう。
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