アラブ特有の重い頑丈な扉を開けると
広々としたリビングを背に、アビールがニコニコ笑って立っていた。
再会に感激!アビールは変わらず元気で若々しい。
調度も豪華で、アビールの暮らしぶりが豊かだと窺えた。
絨毯が敷きつめてあるので、日本のように玄関先で靴を脱ぐ。
その玄関で目に入った物が、大きなアラブ風のナイフ!
革命時に、この辺りも治安が悪化。家族を守るため、自衛団に加わったアビールの夫が持った物だと教えてくれた。
カイロから随分離れているこの地にも、争乱は確実に飛び火していたのだ。
東日本大震災の応援パレードにアビールも参加し、それが新聞に掲載されたと誇らしげに見せてくれた。
日本人ガイドのアビールは日本人の友人も多く、心から案じていてくれた。
アビールは、食事の支度に取り掛かった。
おなじみのモロヘイヤスープを手際よく仕上げていく。
祖母から受け継いだという調理器具もあって、物を大切に使い続け受け継いでいく。
キッチンの食器棚の取っ手がナイフ、フォーク、スプーンで可愛い!
テーブルに出来上がった料理が次々と並べられていく。
私達の為に、昨日から準備に取り掛かってくれていたようだ。
チキンを煮てからオーブンで焼く フィラーフ・ムハンマラ。
ナスにご飯を詰めて、トマトソースで煮込んだ マハシ。
ポテトのオーブン焼き。
モロヘイヤスープと焼きたてのエジプトパンの アエーシ・バラディ。
ナスを炒めてピリ辛のオイルに漬けた ビティンガーン。
エジプトの漬物トルシー。
どれも美味しかった…。心のこもったご馳走で美味しかった…。
特に家庭料理の代表であるマハシは絶品の味だった。
エジプトでは家庭料理ほど美味しい物は無いと思うが、特にアビールは料理名人だ。
エジプトの地で累々と受け継がれてきた家族を思う母の味。
ご馳走様でした。
バルディースがお姫様のような部屋を見せてくれた。
ベッドの上には、せんと君とひこにゃんが!娘からのしばらくのお別れのプレゼントだ。
バルディースの弟、バッサームが塾から帰ってきた。
少しはにかんで、カダフィ大佐の絵を描いたと見せてくれた。
まだ小学生の彼が、題材にカダフィーを選んだことに驚いた。
しかも、よく観察されて描かれている。
ベランダから望んだ町並みは、結婚したばかりの頃、住んでいた名古屋城近くの団地の風景に少し似ていた。
若い夫婦が多く、子供達が元気に外で遊び、団地の谷間に喚声が響いている。
笑ったり怒ったり泣いたり、懸命に家族と向き合ったあの頃の日常が、懐かしく愛しく思い出された。
アビールは今、そんな幸せな日常の真っ只中にいるのだ。
明るい西日が差し込んでくる頃、私達はアビール達に別れを告げた。
美味しいお料理と温かな家庭をいっぱいご馳走になったひとときは、この旅の忘れられない思い出の1ページとなった。