岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

自然談話会のお知らせ(2)

2009-03-16 05:34:47 | Weblog
(今日の写真は昨年3月、ちょうど今ごろの弥生尾根のブナ林内で写したものだ…。
 青森県自然観察指導員会の「弘前グループ」が昨日、久渡寺山周辺で「雪上観察会」をしたようである。
 昨日と違って風は弱く、日射しがあったので最高の「雪上」観察会になったのではないだろうか。
 久渡寺山にも、多くはないがブナがあるのでこのような早春の風情を味わったのではないだろうか。そんな思いで、この写真に登場してもらった。それとも、ブナの生えている場所は頂上付近なので、そこまでは行かなかった…のかな。)

            ◇◇ 自然談話会のお知らせ(2)◇◇
◇◇ スミレの繁殖戦略…
(承前)

2.スミレの閉鎖花…
 春が過ぎると花も咲かないのに次々に実がはじける。スミレの株を良く見るとうつむいた、細くとがった感じのつぼみ状のものがついている。これが閉鎖花だ。
 中を覗くと、雌しべが雄しべの花粉に首を突っ込んでいる。雄しべは2本だけになっている。
 閉鎖花をつける植物にはスミレの類、ホトケノザ、センボンヤリ、フタリシズカ、ツリフネソウ、ミヤマカタバミなどがある。

3.エライオソームとは…
 「アリ」を誘引する物質(オレイン酸などの脂肪酸、グルタミン酸などのアミノ酸、ショ糖などの糖)を含んだ種子の付属体のことである。
 学問的には「珠皮」に由来し、種子が発生時に胎座(たいざ)に付着していた「へそ」と呼ばれる部分にできる。
 このエライオソームの付いた種子を「アリ」が見つけて巣へ運び、運ばれた種子は巣の中でエライオソームの部分だけが食べられ、そのあとの種子は巣の中のゴミ捨て場に捨てられたり、巣の外へ土と一緒に捨てられたりする。
 いずれにしても種子は発芽能力を失うことなく、運ばれることになるわけである。
 「アリ」にとっても、栄養に富むエライオソームを獲得できるので、双方が利益を得ることになり、アリと植物は「双利共生の関係」にあるといえる。このような方法で、種子を散布する植物を「アリ散布植物」と呼ぶ。
 日本における「アリ散布植物」としてはスミレ属、イチリンソウ属、フクジュソウ属、ケマン属、クサノオウ属、エンレイソウ属、カタクリ属など200種類くらいはあろうと考えられている。
 スミレの仲間は、種子を弾き飛ばす仕組みを持っているものが多い。しかし、「アオイスミレ」はそのような仕組みを持っていない。
 果実が地表面すれすれのところで熟し、親株の根元に種子をこぼすだけである。従って、分布を広げるためには「アリ」の助けがぜひとも必要なのである。よって、「エライオソーム」の役割は大きく、その容量も非常に大きいのである。

4.スミレと昆虫の関わり…
 「アリ」の他にもさまざまな形で小さな虫たちがスミレと関係をもって暮らしている。「スミレ」がなくては生きていけないというほど深い関わりを持つものは、幼虫の時にスミレの葉を食べて育つヒョウモンチョウの仲間だろう。ヒョウモンチョウの仲間は種類が多く、それぞれ好きなスミレが決まっているという。
 しかし、決定的なものではないらしく飼育して与えればたいていのスミレ食べるそうだ。
 チョウといえば、蜜を求めてスミレを訪れるものもいる。代表的なものはギフチョウの仲間だろう。
 ミヤマスミレやタチツボスミレにヒメギフチョウが吸蜜しにやってくるのを観察したことがある。この蝶にとってはスミレの花は、小さすぎて密が吸いにくそうである。カタクリだとバランスがとれそうだ。
 吸蜜する昆虫には、アブやハチの仲間、小さな甲虫類もいる。その虫たちを狙って潜んでいるクモもいる。
 ハチの仲間などは、唇弁の「距」に穴を開けて蜜を持って行くものもある。これでは、「受粉の手伝い」という戦略にならない。上には上がいるものだ。
 一株のスミレに関わる小さな生命はまさに、多様なのである。

5.スミレの根と地下茎…
 小さな草本であるスミレが、植物社会の生存競争にうち勝っていくための大きな武器の一つが、「長くて丈夫な根や地下茎」である。
 ほとんどの植物が生きていくことのできない不安定な場所に、長い根や地下茎でへばりつくように暮らしているスミレは多い。
 その代表的なものは、タカネスミレの仲間だろう。大雨のあとに秋田駒ヶ岳に登ったことがある。砂礫が雨に流されて根茎が丸裸になりながらも、しがみつくように根をはっていた。

            ◇◇スミレの香りについて…

 シェイクスピアはスミレの香りを「ビーナスの吐息よりもかぐわしい」といった。
 これはヨーロッパのニオイスミレのことだ。ヨーロッパでは香料を採るために、このニオイスミレが昔から栽培されている。
 日本のスミレにも香りのするものがある。しかし、ニオイスミレに比べれば控えめな香りだ。たいていは花に顔を近づけないと感じないほどだが、時々、まず香りで存在を知らされるような強い香りを放っているものもある。
 岩木山ではスミレサイシン、アオイスミレ、エゾアオイスミレなどにも芳香のあるものが知られている。
 中には、タチツボスミレにも香りがあるという話しもある。私は摘んで、タチツボスミレの一輪を鼻先に持っていっても、香りを意識したことは今だにない。全然香りがしないのである。
 どの花にどんな香りがあるのかは、結局その人の「鼻にのみに委ねられて」いるようだ。

            ◇◇スミレの色について…

 西洋でも東洋でも、スミレの色は紫ということになっているが、スミレにはさまざまな色がある。紫にしても濃紫色・淡紫色・紅紫色といろいろあるし、他にも桃色・黄色・白などがある。色ならすべてそろっているといってもいいほどだ。大きく分けると紫系と黄色系の2つになる。
 淡紫色のスミレにも、時に桜色の個体が現れたりするので、桃色や紅紫色も基本的には紫系と考えていいだろう。
 こうしてみると、キスミレ類、キバナノコマノツメ類、シレトコスミレ類は黄色系、その他は紫系と分けることが出来そうだ。
 また、多くの種には白花が見つかっている。花が白くなる程度は段階的であって、タチツボスミレでは「距」に紫色が残るものをオトメスミレ、完全な白花をシロバナタチツボスミレとして区別している。
 「ニョイスミレ」や「ミヤマツボスミレ」などの白花にも、唇弁に紫色のすじが残っている。
 白花の見つかる頻度は種によって違うという。スミレサイシンやエゾノタチツボスミレなどは、場所によってはどちらが多いかわからないほど、ごく普通に見られる。
 これが黄色系となると本当にまれで、雪国なら相当な個体数があるオオバキスミレでさえ、白花が見つかったのは最近だといわれている。
 緑色のスミレも、いくつかの種で見つかっているが、何にかの間違いで花弁が緑化したものであり、一種の奇形花だそうだ。
 だが、やはり、春の野辺を彩る「スミレ色」は、紫系であろう。(この稿はこれで終了する。これについての「講話」は明日17日、19時から弘前市民参画センターで…)