岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

「岩木山の生き物・立体、総合的重層型シンポジウム」の報告(2)

2009-03-11 05:49:04 | Weblog
(今日の写真は「岩木山の生き物・立体、総合的重層型シンポジウム」案内の立て看板である。弘前文化センターの正面入り口に設置されたものである。今回も飛鳥さんの作品である。
 私たち主催する側では自動車で「来る」参加者が多いことを考えて、広くてしかも駐車料金が無料という「会場」を求める。
今回も会場決定には、このことを第一義として、第二義的には徒歩でもやって来られる近場を念頭に置いた。
 だが、1ヶ月以上も「前」だというのに、150名ほどが入る「会場」はなかなか見つからなかった。それは、「会場という建物」はあるのだが、すでに他の団体との「使用契約」が結ばれていて「使えない」というものだった。
 この会場は「探しに探した」結果、7番目にようやく「空いている」会場として、見つけたものだった。
 この会場は弘前市街地のほぼ中央にある。徒歩でもやって来られる。それはいいのだが、自動車で来る人にとっては「駐車料金」という負担を強いるし、狭いので多くは駐車出来ないという制約がある。
 この懸念が的中したのだ。当日、別な「芸能発表」らしき催事が同じ建物の大ホールであった。そのために、「駐車場」は混雑を極めた。係員から待ち時間が30分から1時間もかかると言われたと、遅れて本会場にやって来た人が言っていたという。
 それを聞いて、本会幹事が駐車場入り口まで行って確認したところ、「遅れてしまったので、このまま帰る」と言う人が30名ほどいたそうである。
 その人たちには申し訳ないことをしたと思っている。この人たちが会場に「現れて」くれたら、きっと会場は埋まり「立ち見席」も出来たであろうと考えると、残念でしようがない。)

◇◇「岩木山の生き物・立体、総合的重層型シンポジウム」の報告(2)◇◇

 小原先生の講演に続いて… ◆岩木山系の湧水と水生生物◆と題して…  
 弘前大学農学生命科学部准教授 東信行氏(本会会員)の報告が始まった。

 私たちが、沢や湧水で、普通に目にすることが出来る生きものというと、トンボとそのヤゴ、それに脈翅目と毛翅目の昆虫がいる。脈翅目にはヘビトンボがいるが、これらはトンボではないトンボたちである。幼虫は水生で石の下などに潜み、カゲロウ、カワゲラ、トンボの幼虫などを食べる。
 毛翅目にはトビゲラ類がいる。幼虫は水生で、木の枝や彼は、植物の破片、砂粒などに糸をかけ巣をつくる。
 甲殻類でニホンザリガニ、魚類ではイワナなど、それに、両生類ではサンショウウオであろう。少なくとも私は、沢や湧水でこれらの生きものしか目視したことはない。
 ところが、東先生は旧岩木町一町田地区の「芹(せり)田」とそこに棲む生きものについて語った。
 岩木山は登山道沿いには湧水は少ない。しかし、伏流水が山麓に「湧水」として噴出している場所は多い。旧岩木町の「水道・飲料水」はすべて岩木山の「伏流湧水」でまかなわれていたほどである。
 「一町田の芹田」もそれを利用した「農業作物」の「圃場」である。その「芹田」の湧水口の小屋のある場所に、冬になると集まる「魚」がいるというのだ。もちろん、夏場は芹田を占める水中にいるのだが、冬になると集まってくる。これは「湧水」の持つ水温変化があまりないという特性によるものだ。つまり、湧水の湧き口以外は凍結してしまうということなのである。
 私は沢で、魚類は「イワナ」しか見たことがなかったので非常に驚いた。

 それは「富魚(トミヨ)」である。これは硬骨魚綱トゲウオ目トゲウオ科トミヨ属に属する魚で、冷帯を中心に分布している。世界で10種程度が知られているだけである。
 日本では数種が「北海道から青森、秋田、山形、新潟、富山、石川にかけて分布」している。「トミヨ」は、海水、淡水に生息しているが、冷水を好むため、日本では、水温の低い湧水池やそれに近い流域などの淡水環境に生息している。
 このため、水質の変化や渇水の影響を受けやすい魚である。各地で絶滅の危機に瀕している生き物で、保護活動が行われているそうだが、「一町田のトミヨ」は大丈夫なのだろうか。
 「トミヨ」はその格好も不思議な魚だ。背ビレの前半では、棘(とげ)の間に膜がなく、ヒレではなく棘が並んでいる。危険を感じると棘を逆立てるのである。
 もう1つ不思議は、産卵期になると、オスが水草類を集めて、水中に鳥の巣のような大きさ数cmの巣を作る。そして、メスの「トミヨ」を誘う。メスが巣の中に産卵すると、オスが受精させる。ところが、その後のオスは健気である。オスは食べ物を摂らず、卵を守り、巣の中に新鮮な水を送るなどの世話を、つきっきりでするというのである。
 私は、残念ながら、この「トミヨ」が「何トミヨ」なのかを聞き逃してしまった。もしこれが「イバラトミヨ」であるとしたら、絶滅の危険性が最も高い魚であろう。
 戦後の土地改良事業や最近の住宅地造営で多くの湧水が失われた。農村環境の変化や宅地造成などで、弘前市街地の湧水も枯渇がひどい。これらが「イバラトミヨ」の激減を招いているのだ。
 湧水や清水にしか生息できないのが「イバラトミヨ」なのである。湧水を守ること、これが「イバラトミヨ」を守ることでもあるのだ。
 そして、このことが、「多面的な機能を持つ農村の自然環境の保全」ということでもあるだろう。別な言い方をすれば、「農村の原風景を残す」ことでもあるだろう。(明日に続く)