阿部ブログ

日々思うこと

現代日本における「総力戦研究」の必要性

2010年07月13日 | 日記
戦前の我が国における調査活動において、特に優れた3つの成果を挙げることができる。一つは満鉄調査部による(1)「支那抗戦力調査」、(2)総力戦研究所の各種調査、それと新庄主計大佐による所謂(3)「新庄レポート」である。

新庄レポートは、当時エンパイアーステートビル7階にあった三井物産ニューヨーク支社の一画にオフィスを設け、参謀本部から命じられた「米国の国力調査」を、主に公開情報を詳細に分析した結果を報告書として纏めたもので、基礎データの収集は、物産社員の支援を受けながら行なった。

実際に新庄大佐には、ニューヨーク支社調査課の春見二三男氏が部下して配され、大佐の肩書きは「三井物産 紐育支店 嘱託」であった。

さて新庄レポートの結論は「日米工業力の差は重工業1:20、化学工業1:3であり、この差を縮めるのは不可能。この比率が維持出来たとしても、米国被害100パーセント、日本被害5パーセント以内に留める必要があり、日本側被害が増大した場合、戦力の差はさらに絶望的に拡大する」と言うものであった。

公開情報のみで3ヶ月と言う極めて短い期間で纏められた優れた調査活動と思う。

(新庄大佐は、米国にて病死。葬儀は奇しくも真珠湾攻撃の12月8日であった。)

残念な事に、戦前の優れた調査報告の数々は、帝国政府・参謀本部など中枢には正しく理解されず政策・戦略等に反映されることはなかった。

敵を知り己を知らば、百戦して危うからず、と孫子は言うが、現代日本においてはどうだろうか?7月13日付けの日経9面「経営の視点」に「環境車の鍵を握る化学産業~日本勢の優位どこまで」と言う記事が掲載されている。

これによると日本の電池産業の世界シェアは60%であるが、その材料となると80%を超えるという。但し、国内の化学会社が世界中にその優れた電池材料を日本としての戦略もなく販売すると半導体産業と同じ過ちを犯す可能性があると指摘する。

また基本的組成が変わらない有機電解液は技術革新の格好の標的で、増産だけに気をとられていると足をすくわれるとも重ねて指摘。敵を知るのは難しいかもしれないが、オールジャパンとして己を知り、例えば日本企業群として「環境車・電池産業+α」が世界を席捲するための総力戦研究・調査など、本当は現代においてこそ必要なのではないだろうか?