阿部ブログ

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凝縮系核反応の研究開発動向に注目~次世代のエネルギー源

2016年05月18日 | 雑感
今年4月、東北大学の電子光理学研究センターに「凝縮系核反応共同研究部門」が設立された。この研究部門設立の背景には、内閣府の「革新的研究開発推進プログラム」(ImPACT)のプログラムである「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」のフィージビリティ・スタディの一つに選定された事がある。高レベル放射性廃棄物は、10万年以上、生物界から隔離する必要があり、原子力の負の遺産であるが、凝縮核反応がこれを低減化する可能性があるとして期待されている。
凝縮系核反応とは、固体のように原子や電子が多数集積した状態で元素が別の元素に変換する現象を言う。凝縮系と言う言葉は「固体」を意味し凝縮系核反応は別名「固体内核反応」とも言われている。通常、元素変換を行うには、原子炉や加速器が必要だが、凝縮系核反応の研究開発は、比較的簡単な装置で行える利点がある。元素変換は、太陽内部において水素同士が融合してヘリウムに変換しており身近な物理現象である。この元素転換の際には莫大なエネルギーを生んでいるのはよく知られているが、この凝縮系核反応においても、過剰な熱エネルギーの発生が観測されており、新たなエネルギー源として研究が行われている。2009年には米海軍(Space and Naval Warfare Systems Command:SPAWAR)やNASAが研究を始め、2012年にはミズーリー大学、2015年にはテキサス工科大学が凝縮系核反応の研究センターを開設している。既に欧米ではベンチャー企業が試作品の開発に着手している。
しかし、凝縮系核反応の研究を現在まで主導してきたのは日本である。特に三菱重工の「パラジウム多層膜による核変換」現象の発見は、世界の注目を集めた。東北大学の凝縮系核反応共同研究部門には三菱重工で核変換技術の研究に携わってきた岩村康弘氏が特任教授で参画し、凝縮系核反応のメカニズムと熱利用、放射性廃棄物の低減化についての研究を開始した。凝縮系核反応は「試験管の中の太陽」とも言われ核変換によって生じる熱を利用した次世代クリーンエネルギーとして期待され豊田中央研究所など民間での研究も行われてはいる。しかし、日本は基礎研究では世界最高レベルにあると評価されることが多いが、研究成果の商業化には失敗する確率が高いと指摘されている。だが、凝縮系核反応のエネルギー利用については、確実にビジネスとして成功させる為、産官学の緊密な連携のもと、継続的かつ長期的な投資を可能とするオールジャパン体制での取組が重要である。

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