阿部ブログ

日々思うこと

日産自動車のBA(ビジネス・アナリスト)での取り組み_増補版

2012年02月13日 | 日記
○日産自動車の情報部門:
日産自動車株式会社(以下日産自動車)では、データセンター3拠点(栃木、フランスのパリ、アメリカ合衆国のデンバー)と、開発センター3拠点(厚木、インドのチェンナイ、スペイン)で、約1000名のIS要員が勤務しており、主にシステムの企画に携わっている。

○クルマ造りのプロセス改革:
日産における自動車クルマの開発プロセスは、「①キックオフ」、「②スタイリングフリーズ」、「③量産開始」という3つの大きなマイルストーンがある。②のスタイリングフリーズから量産開始(SOP:Start of Production)までの期間をKPI(Key Performance Indicator)として、これを短くするという活動を2001年から行い、従来であればスタイリングフリーズからSOPまで約21カ月かかっていたところ、シミュレーションを繰り返し、実際にクルマを作って確認する回数を3回から1回に減らし、熟練設計者のノウハウをコンピュータに取り込んで品質レベルを向上させる等の取り組みで、半分の10.5カ月にすることができた。
クルマ造りの開発プロセスを10.5カ月に短縮出来たのは、3次元CADやCAEを駆使しつつ、フローチャートなどを使ったプロセス分析を行い、プロセス全体の組み直を検討した。

またプロセスフローの標準化やナレッジの共有化とシステム化を推進した結果。
この取り組みにより設計変更も、従来より75~85%減少したし、開発コストもトータルで15%下げることができ期間も半減した。
この改革により日産の全てのクルマの開発プロセスに適用することとなった。

○グローバル情報システム本部のBEST戦略:
2005年、グローバル情報システム本部としてBEST戦略を策定した。
日産自動車におけるBEST戦略は 世界トップレベルのIS 部門を目指した戦略であり、世界トップレベルとは、Effectiveness とEfficiency という2 つの指標で、ともに世界の上位25%に入ること。その目標達成のためには、2004 年のベンチマークで明らかになった、次の課題解決を目指すもの。
・ 複雑性がビジネスの成長を維持するIT の可能性を妨げている
・ アプリケーションとインフラの複雑性によりアプリケーション管理コストが高い
・ IT プラットフォームの限られた部分しか集中化されていない。また、SLA が最低限し
か締結されていない
・ 将来技術に対して投資が不十分である、と言う上記4点である。

BESTとは、
①「Business Alignment」(業務部門とIS部門の関係強化)、
②「Enterprise Architecture」(情報基盤の最適化)
③「Selective Sourcing」(ITベンダーとの関係の見直し)
④「Technology Simplification」(テクノロジの標準化と簡素化)
の頭文字を取ったもの。BESTの目標は、①業界のベスト・プラクティスに基づくISプロセス再構築、②情報システムユーザースキル標準(以下、UISS)に基づくIS部員のスキル向上、③IS/ITベンダーへの新アウトソーシングの3つが掲げられた。

「BEST プログラム」の推進により、Efficiency の評価は、2007年度時点で上位25%に到達した。だが、Effectiveness の評価では、定義した次の3つのKPI で、上位25%に到達してない状態にあった。
・ Development Period:開発期間を現在の10ヶ月から6ヶ月以下に短縮する
・ Major Project Overall Delivery Ratio:主要プロジェクトについては、Contract のタイミング(設計が完了した時点)で約束したクオリティ、コスト、納期をプロジェクト完了時にきちんと守れた比率を測定する
・ Service Quality:サービスの品質(SLA)を保証する。(数値は未定義。将来定義する予定)

○Change 2012 プログラム:
日産自動車のIS 部門は、Effectiveness の評価での目標達成に向け、プロセス、人、技術を3 本柱とした変革が不可欠と判断。2008年から2012 年までの5カ年計画として「Change2012 プログラム」を策定し、約50名のIS要員による推進を開始した。
UISS 導入は、「Change2012 プログラム」の中で、「人」の変革を推進するための手段の1つに位置づけ、4名のIS 要員によって推進する体制を整備した。

○UISS(情報システムユーザースキル標準):
IS部員の役割の見直しについては、UISSをベースにしており、ITアーキテクトとISアーキテクト、プロジェクトマネジメント、そしてビジネス・アナリスト(以下、BA)に職種を分け、全体のロール体系として定義している。
BAについては、ある程度の経験が必要で中堅クラス以上のロールとして設定している。
このBAのロールは2008年にBAのロールは定義されBAの責任、スキル、知識を定め、この定義に基づいて、BAのコンピテンシーをUISSに基づき設定。

○IS開発プロセスにおけるBAの役割
BAは経営目標と戦略にリンクしたIT戦略の策定を担い、戦略を実現する為の業務とITの在り姿を明確化する事に貢献する。開発プロセスにおいては要件定義において主導的な役割を担い、システム導入後の業務とITの在るべき姿を定義し、企業価値向上の観点からシステム要件を選抜・統御する。その後の内部/外部設計にも一部係るが、その後のプロセスでは、移行検証工程でBAが主体的に導入までを担任する。

日産のBAは、IS部門全体、戦略や経営目標にどのように貢献できるのかについて思いを巡らせ、あるべき姿とその解決方策を考えるのがBA役割。即ち要求に基づいて、業務やITで可能となる事柄を明確にしながら、実現する業務の姿を決める。そのためには、基本認識、要求の把握・確認、分析、評価のサイクルを回す必要がある。

このBA役割概念図を作成した当時はBABOK1.6が出ており、我々の取り組みと比較してみたが、表現の仕方は異なるものの、ほぼ同じであると認識した。但し一部足りないプロセスがあったので、それを足した。日産独自の取り組みを行って来たが「うちの取り組みもあんまり外れてないな」と安心している。

○BAの取り組み当初:
最初は、2007年と2008年に「偉人会」という活動を行った。これは、経験豊富な「偉人」と「門下生」による勉強会。BAのあるべき姿を議論したり、ビジネス分析のスキルを勉強したり、英語のBABOK_Version1.6を輪読したり、起業家精神の醸成を狙ってビジネスモデルの自由研究などを行うなどの活動を継続した。

○BAのキャリアパスと教育体系:
BAになるためのキャリアパスと教育体系も整備している。入社年次ごとのタスク(主な仕事)と必要なスキル、トレーニング(研修)をチャート化している。またBABOKをもじって「BABOOK」というBAの教科書も独自に作成し、BABOOKに基づいてBAの講座も開催して人材の育成を図っている。

○BAとビジネスプロセス・モデリング:
日産全体のビジネスプロセス全体のプロセスモデルをグローバル情報システム本部のBA主導&主体で実施した。新しいシステムを開発するときに、このプロセスモデルをベースにToBeモデルを作成する。これによりグローバル情報システム本部自体の戦略についてもBAが策定できるよう、スキル向上と教育制度の充実、及びメンタリング活動も含めて実施している。
ビジネスプロセスをモデリングしてToBeモデルを考える場合、やはりITが欠かせない。つまりIS部門の中にいるBAがToBeを考える事が必要である。ここに価値がある。

○データモデリングの重要性:
プロセスモデリングだけでは不十分。やはりデータモデルを精緻に定義しないとダメ。データモデルを作ってはじめて、それを支えるシステムの構築が可能となる。IS部門のBAが、プロセスモデリングができ、かつデータモデリングをこなせるようになるとこれほど強力無比な存在は無いだろう。

○BABOKの有効性:
BABOKは参考にはなる。BABOKを全部読んだからといって、BAができるかというと、それは全く違う。やはり実践あるのみ。

○フルアウトソーシングからアウトタスキングへ:
前述のUISS の導入は、世界トップレベルのIS 部門への変革を支える手段であると同時に、システムの保守・運用に関わる現状の課題を解決する手段でもあった。日産自動車では、1999年の「日産リバイバルプラン」に基づき、IT コスト削減を目的としたフルアウトソーシンという形態で、システムの保守・運用を推進してきた。ところが、アウトソーシングにより、保守・運用業務がブラックボックス化。コスト削減の対象を明確化できないという弊害が顕在化した。
そこで日産自動車は、2011 年3 月のフルアウトソーシング契約満了を契機に、役割分担や責任分担を明確にし、プロセスのタスクベースでアウトソースする「アウトタスキング」の採用を決定した。UISS の導入は、日産自動車として社内で持っておく機能(コアタスク)と外に出す機能(アウトタスク)を明確にし、コアタスクを担う人材を育成していくためにも有効な手段であった。

○UISSに基づく日産自動車ロールモデル:
2005年に策定した「BEST プログラム」に基づき、日産自動車では、IS部門として必要なロールモデルを作成した。具体的には、基盤系を担当する“IT スペシャリスト”とその上位ロールの“IT アーキテクト”、アプリケーションを担当する“IS スペシャリスト”とその上位ロールの“IS アーキテクト”、“ビジネスアナリスト”、“プロジェクトマネジメント”である。しかし、この時点ではまだ、ロールと具体的なタスクとの関連付けを定義できていたわけではない。

具体的なタスクがイメージしやすいように、「Change2012 プログラム」の中で、約5ヶ月かけて14ロールへ細分化を行い2009年4月に公開。この後、IS 要員は、自らロールを決定し、そのロールを意識して業務を遂行する。

○タスクとロールの関連付け:
UISS のタスクフレームワークを分析した結果、IS 部門としては「事業戦略策定」から「システム監査」まで、16項目すべてが必要であるとの結論に達した。ところが、役割分担を明確にするために、小項目に対し各ロールにRACI(Responsible, Accountable, Consulted, Informed)を割り振ってみたところ、必要な項目は395にも達し、全体としては分かりにくいものになった。そこで、自社に適した粒度という方針に基づき、90ある中項目を4ヶ月かけて30項目に集約し、各ロールに割り当てた。

○キャリアフレームワークの設定:
要求スキルは、UISS のタスクに関連付けられたスキルをロールに割り当て、再定義した。
ただし、単純に引き継いだだけでは、冗長になってしまうケースもあり、整理、簡略化を行い、ロールごとのスキルを明確化した。これにより、「あなたに求められているスキルはこうです」という明確な定義をIS 要員に展開することができた。

○スキルレベルの定義:
スキルレベルは UISS を参考に、6段階で定義した。UISS のレベル6は「国内のハイエンドプレーヤー」だが、日産自動車のレベル6には、CIO の「これくらいはできないと駄目でしょ」という思いをこれに込めた。このレベル定義により、対象となる約350名のIS 要員は、自らがどこにランクされるかを明確に把握できるようになった。

日産自動車では、ガートナーが提供する「ISライト」のフレームワークを活用。
このフレームワークは、75の質問に回答することで、IS部門が必要とする「技術面」、「行動面」、「ビジネス面」の25のコンピタンスを診断できるもの。これを活用し、日産自動車は、スキルとロールのクロスリファレンスを作成している。

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