阿部ブログ

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IED(Improvised Explosive Device)~即製爆破装置~

2012年07月26日 | 日記

最近の爆発物テロで、多用される爆弾にIED(即製爆破装置)がある。
このIEDの定義は、米国防総省によれば「破壊、無力化、撹乱、混乱を生じさせるため応急的に設置または作成された破壊、殺傷、有毒ガス、焼夷の効果を有する装置をいう。また装置の多くは軍用品以外から作られる事が多い。」
(Joint Publication 1- 02「Department of Defense Dictionary of Military and Associated Terms」12 April 2001)

因みに防衛省ではIEDを「即製爆破装置」、または「簡易爆弾」と表現している。

IEDは、前述の通りテロ組織による爆弾テロに多用されており、特にイスラエル軍のレバノン侵攻地には、メルカバ戦車を破壊するなど、多大な被害を与えている現状がある。
それと、爆発物テロは簡単な訓練で自爆テロが可能であり、一人百殺ができて、社会的混乱を引き起こせるというメリットがあり、アフガニスタンなどの紛争地帯で頻繁に実行されている。
少々古い数字で恐縮だが、2003年~2007年の5年間に生起した大規模テロは55件と言われる。そのうち51件が爆発物を使用したテロである。

このIEDに使用される爆薬は、軍用爆薬、産業用爆薬、手製爆薬が考えられるが、イラク、アフガニスタン等の紛争継続地域では、軍用爆薬の入手が容易で、使用するテロリスト側にとっても、運搬、加工等に際し安定性が高くIEDの原料として最も良い爆薬であり頻繁に利用されてきた。

IEDに用いられる高性能爆薬(High Explosives)にはTNT爆薬とRDX(Research Department explosives)がある。

有名なTNT爆薬は、1902年にドイツではじめて砲弾の炸薬に使用して以来、現在まで軍用爆薬の最も基本的な爆薬として利用されてきた。TNT爆薬の爆速は、約7,000m/secで、爆轟圧は17.7Gpa。
このTNTは爆薬として極めて安定性に優れ、加工が容易である事は広く知られる所である。

RDXは、第二次世界大戦中の1940年頃から、TNTと同様に砲弾の炸薬として使用された。
RDXの特性としは、高密度に圧搾した場合、安定性に問題が生ずる為、TNTと混合してCompB(Composition B)として利用される場合が多い。
このRDXの爆速は、9,000m/sec、爆轟圧34.1Gpaであり、TNTに比較して威力が飛躍的に向上しているた。

いずれにしてもこのTNTとRDX が今後とも、世界の軍用爆薬の基本デあることは間違いない。特にRDXは、可塑剤を添加したC4爆薬として、1987年の大韓航空機爆破事件や、2004年シベリアボルガ航空機爆破事件に使用されている。

爆弾テロを行う組織にとって、やはり軍用爆薬の入手は困難であり、IEDの爆薬としては、市販されているダイナマイト、硝安油剤爆薬、含水爆薬(スラリー、エマルジョン爆薬)が爆発物テロに使用されている。
特に、硝安油剤爆薬は入手が容易で大量に確保可能なので、車両に大量積載して広範囲を破壊する車両爆弾として、1995年のクラホマ市庁舎爆破事件や、2006年インドムンバイ列車爆破事件に使用され多大な被害を与えている。

それと注目すべき産業用爆薬としては、セムテックス(Semtex)と言う可塑性爆薬がある。
当然の事ながら、産業用爆薬は軍用爆薬に比し威力が低いが、このセムッテクスは軍用爆薬のC4と同じ威力を有する。
このセムテックスは、パレスチナゲリラ、イスラム過激派、IRA などが多用したため、2001年にチェコ政府も生産、輸出の管理強化した。しかし時既に遅く、1975年~1981年にかけてリビアに700トンのセムテックスが輸出され、今回のアラブの春の時にも反政府勢力に利用されて、最終的にカダフィ政権を打倒するに至っている。

また、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、IEDの原料となる爆薬の入手をテロ組織が出来ないようにする為、世界的に管理が再強化された。これによりテロ組織は、市販の薬品を調合して手製の爆薬を製造する手法にシフトしている。
特に硝安油剤爆薬、TATP(過酸化アセトン:TriAcetone TriPeroxide)及び液体爆薬(Liquid xplosives)が利用されるようになっている。

日本においても、革マル派などの組織が多用した、硝安油剤爆薬は、手製爆薬としても製造が簡単で、原料の入手も容易。この硝安油剤爆薬は農業用肥料として世界各国で使用されている硝安に数%の軽油を混合するだけで簡単且つ大量に製造できる。2008年のきた皇居爆発物発射事件にも硝安油剤爆薬が使用されている。

TATPは、アセトン及び過酸化水素水に触媒として硫酸又は塩酸のような強酸を混合することで合成できるが、合成され乾燥されたTATPの結晶は衝撃、摩擦、熱に対し極度に敏感でり、極めて危険であり、テロ組織にとっては市販薬品から入手できるので、利用度の高い爆薬となっている。

また、液体爆薬(Liquid Explosives)については、2006年8月、英国ヒースロー空港で、未遂であるが、米国向け航空機にペットボトルに仕込んだ液体爆薬を持ち込み爆破しようとした事件がある。
現在、液体爆弾は、爆発物探知器では探知できず、警備当局にストレスを与えている。このため、皆さんも経験している事であるが、機内への100cc以上のペットボトル等の液体の持ち込みが禁止されているのは、この液体爆薬対策の為である。

この液体爆薬は、ニトログリセリン、PLX(Picatinny Liquid Explosives)及びアストロライト(Astrolite)などが代表例である。液体爆弾は、取り扱いが危険である為、テロ以外には使用されないが、前述のように検知されない為、危険度の高い爆薬であり、今後も更なる警戒が必要である。

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