阿部ブログ

日々思うこと

Logistics 4.0

2017年01月31日 | 雑感
国家戦略として製造業の競争力強化を実現するためにインダストリー4.0を掲げるドイツにおいても、物流のさらなる効率化への期待が高まっている。フラウンフォーファーIML(物流・ロジスティクス研究所)やドイツを中心とする複数の民間企業が推進するロジスティクス4.0は、IoTを製造業の物流部門に適用するもので、インダストリー4.0を実現するために不可欠なものである。

物流部門においても、トラックや鉄道、汽船などの普及による陸上・海上輸送の機械化に始まり、自動倉庫や自動仕分けの実用化による荷役の自動化、WMS(倉庫管理システム)などの普及による物流管理のシステム化といった革命が大きく業界構造を変えてきたが、今やIoTによる第4のイノベーションが実現しつつあると、ロジスティクス4.0は定義する。

第1の革新は、19世紀後半から20世紀にかけての「輸送の機械化」である。古来、大量・長距離輸送の要は海運を中心とする船舶に委ねられてきたが、鉄道網の整備、トラック(貨物自動車)の実用化により、陸上での輸送力が格段に強化された。 一方で、船舶に関しても汽船/機船の普及により、運航の安定性が大きく向上した。 ロジスティクスにおける20世紀は、大量輸送時代の幕開けであったといえる。
第2の革新は、1960年代からの「荷役の自動化」である。 自動倉庫や自動仕分といった物流機器の実用化により、倉庫内の荷役作業が一部機械化されることになった。 コンテナ船の普及による港湾荷役の機械化も大きな変化といえる。第3の革新は、1980年代からの「物流管理のシステム化」である。WMS( Warehouse Management System)やTMS(Transport Management System) といった ITシステムの活用が広がることで、在庫や配車などの物流管理の自動化 ・効率化が大きく進展した。NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)を始めとするインフラシステムの整備が進んだのもこの時代である。そして、現下進みつつある第4の革新、即ち「Logistics 4.0」は、「IoTの進化による省人化・ 標準化」である。

IoTの進化の効用は、サプライチェーンの各領域において“人の介在”を必要とする作業を大幅に減少させる、所謂「省人化」にある。自動運転や倉庫ロボットといった新しい技術は、今まで “人” による操作や判断を必要としたプロセスを機械に置き換えるものである。 その行き着く先は、完全なる自動化・ 機械化の実現にある。とはいえ、短期間に全てのプロセスが自動化・ 機械化されることはないだろう。 過渡的には、部分的な自動運転の実現やパワードスーツの活用などにより、特別な経験やスキル、体力、長時間労働などを必要としない、物流業務の“非3K化”が進むと予想される。

Logistics 4.0 による省人化によって、最も大きな変革がもたらされる物流プロセスはトラック輸送である。 国内の貨物輸送に占めるトラックの分担率は、トンベースで90%超、トンキロベースでも50%を超える。そして人件費が高い日本では、トラック輸送に要するコストの 40%近くをドライバーの人件費が占める。つまり、自動運転の実現は、物流のコスト構造に大きなインパクトをもたらすといえる。
自動運転のトラックは世界最大のトラックメーカーであるダイムラー(Daimler)や新興トラックベンダーにって自動運転トラック車の開発が進められている。ヤマト運輸とディー・エヌ・エー(DeNA)は、2017年に宅配便の配達に自動運転技術を活用する実験を始めるとしているが、ダイムラーは、既に自動運転トラック「Freightliner Inspiration」を公開し、隊列走行実験にも成功している3。

ダイムラーは、2025年までの実用化を目標に自動運転トラックの開発に取り組んでいる。2015年に公開された自動運転トラックFreightliner Inspirationは、交通量の多いドイツ・シュトゥットガルトの幹線道路を最大時速80kmで自動運転した。Freightliner Inspiration は、430馬力を誇るが、レーダーと各種センサが使用され、航空機と似たオート・パイロットによって制御される。但し、路面表示の不備や天候の不順などによりドライバーの運転が必要となることも前提とした、部分的な自動運転の実現が当面の目標である。技術的な問題のみならず、法律や自動車保険制度の見直しも必要であり、完全な自動運転を実現するまでには、まだまだ時間が掛る。しかし高速道路での部分的な自動運転であっても、長距離ドライバーを長時間運転という過重労働から解放でき自動走行中に仮眠を取ることも可能となる。
米国では年間約800人がトラック運転中に死亡しており、それは過去45年間の国内線の航空事故による死亡者よりも多い。またトラック運転手の平均年齢55歳と高齢で、アメリカトラック連盟の発表では、2015年時点で5万人のドライバーが既に不足している。自動運転のトラックは、人件費を抑制し、睡眠不足等による死亡事故なども減らせると期待されている。トラックの自動運転実用化を目指すスタートアップも存在する。Otto社とStarsky社である。Ottoは、Google Xで自動運転車の開発に関わっていたAnthony Levandowskiらが立ち上げたスタートアップで、現在は、既存のトラックに後付可能なADASキットの開発に取り組んでいる。またステルスモードであるが、Starskyも注目されており、トラックの自動運転も非常に関心の高い領域となっている。
トラックも自動車と同じく、コネクテッド・カー機能を実装して、各車相互連携しながら自律走行や隊列走行を行うようになるだろう。また前述のUPSのORIONのようなシステムとの連携により配送最適化のみならず、集荷から配送までの全体最適が行える時代も到来する可能性もあるだろう。

1970年代、日本においても自動倉庫や自動仕分といった物流機器が普及し、メーカーの在庫拠点を中心に荷役の自動化が進んだ。しかしながら、その普及の範囲は限定的だったといわざるを得ない。対象とする荷物の形状や特性に即した専用のシステムとなるがゆえに、多種多様な荷主の荷物を取り扱う営業倉庫では活用が難しかったからである。倉庫ロボットの登場は、この荷役作業における自動化の範囲を飛躍的に拡大するものといえる。なぜなら、現在“人” が対応している作業をそのまま機械に置き換えることが可能だからだ。

Amazonは、2012年にロボットメーカーの Kiva Systemsを買収し、ピッキングプロセスの抜本的自動化を進めている。 同社の倉庫ロボット“Kiva” は、掃除ロボットを少し大きくしたような形状であり、保管棚の下に入り込むことで、出荷する商品を保管棚ごと持ってくることができる。Amazonでは、ピッキングの作業員を1日に 20km以上も歩かせる労働環境が問題になっていたが、“Kiva” を導入した物流センターでは“作業員の歩行”が不要となった。“Kiva”は、既に1万5千台以上が導入され、各物流センターの労働生産性を大幅に高めることに成功している。Amazonは、保管棚から商品を取り出すことのできるピッキングロボットの開発も進めており、“人の介在” を必要とするプロセスは尚一層少なくなると目される。

日立製作所は、Amazonの“ Kiva”と同等の機能を有する無人搬送車“Racrew”を2014年に開発した。“Racrew”は、日立物流の物流センターに導入されており、ピッキングプロセスの省人化に寄与している。2015年には、商品の取り出しから梱包までのプロセスに対応した自律移動型双腕ロボットを公開するなど、Amazonと伍する技術革新がなされつつある。フォークリフトに関しても同様の技術革新が進むと予想される。自動運転や倉庫ロボットと同様の自律制御技術が確立されれば、ガイドの必要性や荷役作業の低速性といった従来の無人フォークリフトにおける課題を解消できる。 昨今の技術革新の速度を鑑みるに、倉庫内のフォークリフトが全て自律制御される日も遠くはないだろう。

物流の現場では、作業員の労働負荷を軽減する技術革新が進みつつある。 装着者の筋肉の動きを補助するアクティブリンクのパワースーツ。作業員を自動追尾するZMPの台車ロボット“CarriRo”など、IoTを活用した新しい物流機器の活用が広がっている。 これらの物流機器は“人の介在”をなくすものではないが、省人化へのステップは着実に進んでいるといえよう。IoTの進化は、物流に関するあらゆる機能 ・情報を広く繋ぐ効果をもたらす。 調達 ・ 生産から小売 ・ 配送までのサプライチェーン全体が繋がることで、どこに、どれくらいのモノがあるのかをリアルタイムで把握できるようになる。 企業 ・ 業界間で物流機能 ・ 情報が共用されることで、物流会社や輸送手段/ルートをより柔軟に組み替えられるようになる。“モノ”以外の情報も繋がることで、最適な物流をより総合的に判断できるようになる。 即ちLogistics 4.0 は物流インフラの標準化による社会全体の革新といえる。

Boschは、生産・物流に関する情報を取引先の企業と共有するバーチャル ・ トラッキングを導入している。 取引先との物流において使用されるコンテナやパレットには RFIDタグが取り付けられており、入出荷のデータ管理を自動化するだけではなく、在庫の適正化にも活用している。 生産や輸送の状況もリアルタイムで共有されており、需給の変動や輸送環境の変化に応じた生産 ・ 物流計画の弾力的な見直しを可能としている。Boschのバーチャル・トラッキングにも同様のことが当てはまる。 複数の企業間で共用可能なシステムであることを考えると、他業界への展開も十分に想定できる。 つまり、IoTが進化し、物流のデジタル管理が進むと、企業・業界間での差異性が縮小するといえる。