阿部ブログ

日々思うこと

米NIHのBRAINプロジェクトの最新動向

2017年01月15日 | 雑感
米国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、The Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies(BRAIN)プロジェクトに第3次助成を発表した。NIHは、脳機能解明やアルツハイマー病などの革新的脳科学研究&開発のBRAINへの投資総額は$150 millionとなった。
 
https://www.nih.gov/news-events/news-releases/nih-nearly-doubles-investment-brain-initiative-research
 
BRAINプロジェクトは、人間の脳神経回路の機能を解明し、活動中の脳の動的な活動をセンシングするツールなどの開発を目指しており、2013年にスタートし、アルツハイマー病、統合失調症、自閉症、てんかん、外傷性脳損傷など脳障害の治療など幅広いテーマを掲げて研究活動を行っている。主な研究テーマは下記↓
 
●脳スキャン・ヘルメット:
脳細胞の活動状況をセンシングするイメージング・マシンを開発する。ウェストバージニア大学の研究チームが、ウェアラブル陽電子放射断層撮影スキャナを作る計画で、非侵襲でより自然な状態の間に、人の脳の活動を見ることができるようになる。
 
●シースルー魚の脳マップ作成:
ハーバード大学のチームがシースルー、即ち透明魚の脳をマッピングし、脳地図を作るプロジェクトで、これは人間脳をモニタリングする技術の基盤となる。
 
●ニューロンを活動/非活動など制御するためのデザイナードラッグ:
ノースカロライナ大学と薬物乱用対策を研究しているNIHのチームが共同し、DREADD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)と呼ばれるツールキットを開発。デザイナードラッグでニューロンの活動を活性化せたり、非活性化するなど制御する。既にDREADDは、マウス実験は、ニューロンのオン/オフし、食べたり歩いたりするッマウスの行動を制御することに成功。
 
●幹細胞の遺伝子特性:ジカウィルスとヒトの進化:
カリフォルニア大学のチームは、新生児の脳細胞をスピーディーに解析する遺伝子分析システムを開発。このシステムを使ってジカウイルスが、人間の脳神経細胞に感染する言う現象は人間の脳は進化の過程で発生したとの仮説を確かめる根拠を発見ている。
 
●一瞬で数千の脳細胞遺伝子配列を決定:
ハーバード大学の研究チームは、一度のシーケンスで数千人の遺伝子の配列を解析するドロップ配列と呼ばれる方法を開発。マウスでの実験では、網膜におけるニューロンの遺伝子を解析し分類している。この技術により、1日で人間の脳細胞の全てのライブラリを作成することが可能。
 
新たな助成研究のテーマは、下記↓
 
○細胞および回路のためのツール(Tools for Cells and Circuits):
超音波を使用し、特定の脳細胞と神経回路を制御する遺伝子を同定する新しいツールと手法の開発を目指す。
 
○大規模録音および変調 - 新技術(Large Scale Recording and Modulation — New Technologies):
深部脳の活動を記録する侵襲のプローブの開発と、脳の活動のモニタリング、及び操作する方法を探し出す。
 
○大規模録音とモジュレーション - 最適化(Large Scale Recording and Modulation — Optimization):
脳神経細胞の発火を制御する遺伝子の特定とモニタリング&操作により脳活動を正確に測定する方法を探す。
 
○大規模録音および変調 - 新しい概念と初期段階の研究(Large Scale Recording and Modulation — New Concepts and Early Stage Research):
無線技術で脳活動を記録する微小センサー「Neural Dust」システムを開発し、脳活動のモニタリング&操作の新しい手法を考える。
 
○人間のイメージングの次の世代(Next Generation Human Imaging):
一般的なグリア細胞に対するニューロンの活動を区別する脳活動を走査する手法を編み出しテストする。
 
○人間の侵襲的デバイスの次世代(Next Generation Human Invasive Devices):
脳卒中、パーキンソン病、および強迫性障害を含む様々な脳障害を治療する深部脳刺激法を編み出し試験する。
 
○非侵襲的ニューロモジュレーション(Non-Invasive Neuromodulation):
非侵襲の脳刺激技術を開発し、様々な脳疾患を治療するための既存のデバイスの性能向上を目指す。また、このプロジェクトは、脳卒中患者の手足麻痺等を更生・矯正するため、正確に脳を刺激する超音波に替わる技術を開発する。
 
○神経回路の理解(Technology Dissemination and Training):
人間脳に関する大量のデータを分析するための新しい解析技術を編み出し、様々な条件下で人間脳を分析するための侵襲的技術を開発する。例えば、非侵襲技術で電気的な脳活動をモニタリング&解析し、アルツハイマー病および自閉症の診断を可能とするプログラムの作成などがある。

溶融塩炉と高温ガス炉という第四世代原子炉

2017年01月15日 | 雑感
各国で第4世代原子炉(Generation IV:GEN-IV)の開発が進められている。
米国エネルギー省(United States Department of Energy:DOE)が2030年頃の実用化を目指して2000年に提唱した次世代の原子炉概念で、燃料の効率的ができ、だが核廃棄物は最小化さえる原子炉でしかも安全性が高い炉。
第四世代炉の候補には、
(1)超臨界圧軽水冷却炉(SCWR:Supercritical-Water-Cooled Reactor System)
(2)鉛合金冷却高速炉(LFR:Lead-Cooled Fast Reactor System)
(3)ナトリウム冷却高速炉(SFR:Sodium-Cooled Fast Reactor System)
(4)ガス冷却高速炉(GFR:Gas-Cooled Fast Reactor System)
(5)超高温ガス炉(VHTR:Very-High-Temperature Reactor System)
(6)溶融塩炉(MSR:Molten Salt Reactor System)
の6種類が提案されていたが、愈々2つの炉に候補は絞られた。
 
即ち、(5)の高温ガス炉と(6)の溶融塩炉である。
高温ガス炉は、大洗で開発が進められており、冷却材はヘリウムだが、極めて安全性の高い炉である。大洗の高温工学試験研究炉(High Temperature engineering Test Reactor:HTTR)は、福島第一原発と同じようにわざと全電源断にする試験を行い、何事もなく自然冷却すると言う結果を得ている。
そして、溶融塩炉だが、インドや中国が開発を進めているが、本命米国が溶融塩炉の開発に着手することとなった。2017年1月5日、DOEは、GEN-IVの覚書に正式に調印した。溶融塩炉の開発は著しく遅れるだろうと言われているが、米国では溶融塩炉開発を目指すドリームチームがベンチャーを立ち上げており、既に開発を進めている。日本は高速炉と高温ガス炉かと思いきや、文部科学省も溶融塩炉の研究支援に着手するとの情報がある。
実は昨年10月31日〜11月3日、IAEAで次世代原子炉に関する会議が開催され、日本も参加している。目下の所、レアアースに含まれるトリウム資源の扱いに困っているインドと中国が積極的投資を行っており、江沢民の息子が責任者となって実験炉2基を建設する計画を3月に公表。2030年までに2,000億円を追加投資すると言う。当初は300億円とのことだったが、中国の本気度が伺える。
前述の通り、米国も曖昧な方針を変えているが、既にDOEは、溶融塩炉の研究に取り組む企業に数10十億円程度の助成を行うと発表している。
溶融塩炉は、核物理学者だけでは開発出来きない。やはり化学者、流体系、金属化学系の専門家が必須で、今の原子力村に人材はいない。でも、溶融塩炉と高温ガス炉の開発は行うべき。また失敗すること請け合いの高速炉より、どれだけましか。
しかし、世の中変わったもんだ~日本で溶融塩炉と言えば故古川先生だが、彼は原子力村から蛇蝎の如く嫌われていたのだ。実は、大磯の古川先生のご自宅にお邪魔したことがあった。色々お話をお聞きし、資料も頂いてきたことが今では懐かしい。
 
高温ガス炉も良い。キャノングローバル戦略研究所の湯原先生が動いておられたが、残念ながら逝去されている。お通夜に行ったが、洗礼を受けたキリスト者だったとは存じ上げなかったが、海洋開発と原子力は、先生畢生の仕事でしたね。瞑目。