礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

日本語のアクセントは高低二種類だけ

2024-01-27 00:07:31 | コラムと名言

◎日本語のアクセントは高低二種類だけ

 金田一春彦『日本語』(岩波新書、1957)から、「日本語のアクセント」の項を紹介している。本日は、その二回目。文中、太字は、原文のまま。

 とにかく、日本語のアクセントは高低アクセントである。高低アクセントは前述のように外国の言語にも珍しくない。そういう中で、日本語のアクセントはどういう特色をもっているか。
 第一に、日本語のアクセントは、前節でちょっとふれたように、高低二種類の段から出来ている。
  シガ(箸が)――低低型 
  ハガ(橋が)――低低型
  ハシガ(端が)――低高高
 これは、他の国語に比べて段の数が少いことを意味する。パイクによると、セチュアナ語、 ミクステコ語は高中低の三段からできており、マザテコ語は最高・中高・中低・最低の四段からできているという。日本語は、最小限度の段しかもっていない。
 第二に、日本語で高低の変化はおもに、一つの拍から次の拍に移るところで起こる。たとえば、東京語のシガは、からシへ移るところで声が下り、ハガでは、ハからへ移るところで声が上り、からガへ移るところで声が下る。一つの拍の中で上ったり下ったりすることはない。
 シナ語などでは、たとえば、アルシーアル(二十二)は、三拍の語であるが、アルの中で声が高から低へ下り、シーの中で声が低から高へ上り、終りのアルの中で、声がまた高から低へ下る。グロータース神父が、シナ語は歌っているように聞え、日本語は一本調子に聞えたというのはいかにもそうだったろう。
 第三に、日本語では、高低の配置にかなりの制限がある。例えば、東京語の四拍の語にあるアクセントの形式は、マキリ、アガオ、カラカサ、モノサシの四種類だけである。イギリスの女流音声学者I・C・ウォードによると、西アフリカのイボ(Ibo)語では、三拍の語のアクセントに、次のような種類があるという。
  osisi(棒) uketa(犬) nketa(対話) nnene(鳥) ndede(葡萄酒) udodo(蜘蛛) onoma(みかん) otobo(河馬)
 ここには、高と低との、あらゆる組合せが見出される。これに対して東京語のアクセントは、
 ⑴ 第一拍が高ならば、第二拍はかならず低。第一拍が低ならば、第二拍はかならず高。すなわち、第一拍と第二拍とはいつも高さがちがう。
 ⑵ まんなかの第二拍が低で、第一拍と第三拍が高ということはない。つまり高の拍がはなれて二箇所に存在することはない。
 という制限の中に存在する。
 このようなことから日本語のアクセントでは、型の種類がきわめて少数に限定されるわけだ。そこで、日本語では、〈アクセントによって区別される語はそれほど多くない〉という結果が生ずる。「工業」と「鉱業」、「市立」と「私立」。これらは、アクセントで区別されたらどんなによかろうと思われるが、たいてい同じアクセントをもっており、何という働きのないアクセントよ、とののしりたくなる。三拍の語の中から、ヤマ(小山―地名)、オマ(女形)、オヤマ(霊山)、カシ(岡氏)、オシ(お菓子)、オカシ(お貸し)というような、アクセントで言い分けられる同音語の例を探し出すのは、相当に骨が折れる。【以下、次回】

*このブログの人気記事 2024・1・27(10位の石原莞爾は久しぶり)

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