◎Moods cashey は「ムヅ カシイ」
服部之総の随筆集『moods cashey』(真善美社)(初版1947)から、「Moods cashey」という随筆を紹介している。本日は、その四回目(最後)。
パスク・スミス氏の著書にはこの『チェリー・ブラッサムス』という掲載雑誌のナンバーも年号も記載されてゐないので、この珍奇の資料のデートは内容から判断するほかはない。右文中に「日本帝国政府の紙幣」と書かれてゐるからといつて、明治以後のことだとするのはあたらない。条約はタイクンすなはち将軍の名で締結されてゐるけれども、外国側でそのタイクンのことを「日本皇帝陛下」と記した例は、一八五五(安政二)年十月十四日長崎で調印された日英仮条約の前文に、その言葉が用ゐてあるのでも知れる。したがつて、幕府発行の紙幣のことを「日本帝国政府の紙幣」と記載したとしても、文献のデートを疑ふ理由にはなるまい。
それにしてもこの文献が慶応三年以前のものでないことは、さきに述べたところから明らかである。してみると、横浜開港いらい八年の歳月を経てをり、ヨコハマ・ジャパニーズも、独自の風格をとゝのへたものとしなければならぬ。事実それは、ととのへてゐる――
Physician=Doctorsan
Dentist=Hahdykesan
Banker=Dora donnyson
銀行家が「弗〈ドル〉旦那さん」はよいとして、海上保険検査員のことを Serampan funney high kin donnyson にいたってはいう言葉がない。
大使=Yakamash'sto
兵士=Ah kye kimono sto
大使は租界の絶対権者だから、やかましい人に違いない。横浜の英国駐屯軍は赤い制服を着て「赤兵」と呼ばれていた。
それにしても水兵の Dam your eye sto はどう解すべきであらうか? ずいぶん私は頭をひねってみるのだが、その解答は、単語欄に見出された左の言葉におちつくほかはないのである――
Difficult=Moods cashey
歯医者がなぜ Hahdykesan(ハーヂケサン?)なのか、海上保険検査員がなぜ Serampan funney high kin donnyson(サランパン フネ ハイキン ダンナサン?)なのか、さっぱりわからない。
この随筆には「オチ」がある。水兵がなぜDam your eye stoなのか、頭をひねってもわからない、これは難しい=Moods cashey(ムヅ カシイ)。ということで、Moods cashey を以て、随筆のタイトルとしたのである。
服部之総の随筆集『moods cashey』(真善美社)(初版1947)から、「Moods cashey」という随筆を紹介している。本日は、その四回目(最後)。
パスク・スミス氏の著書にはこの『チェリー・ブラッサムス』という掲載雑誌のナンバーも年号も記載されてゐないので、この珍奇の資料のデートは内容から判断するほかはない。右文中に「日本帝国政府の紙幣」と書かれてゐるからといつて、明治以後のことだとするのはあたらない。条約はタイクンすなはち将軍の名で締結されてゐるけれども、外国側でそのタイクンのことを「日本皇帝陛下」と記した例は、一八五五(安政二)年十月十四日長崎で調印された日英仮条約の前文に、その言葉が用ゐてあるのでも知れる。したがつて、幕府発行の紙幣のことを「日本帝国政府の紙幣」と記載したとしても、文献のデートを疑ふ理由にはなるまい。
それにしてもこの文献が慶応三年以前のものでないことは、さきに述べたところから明らかである。してみると、横浜開港いらい八年の歳月を経てをり、ヨコハマ・ジャパニーズも、独自の風格をとゝのへたものとしなければならぬ。事実それは、ととのへてゐる――
Physician=Doctorsan
Dentist=Hahdykesan
Banker=Dora donnyson
銀行家が「弗〈ドル〉旦那さん」はよいとして、海上保険検査員のことを Serampan funney high kin donnyson にいたってはいう言葉がない。
大使=Yakamash'sto
兵士=Ah kye kimono sto
大使は租界の絶対権者だから、やかましい人に違いない。横浜の英国駐屯軍は赤い制服を着て「赤兵」と呼ばれていた。
それにしても水兵の Dam your eye sto はどう解すべきであらうか? ずいぶん私は頭をひねってみるのだが、その解答は、単語欄に見出された左の言葉におちつくほかはないのである――
Difficult=Moods cashey
歯医者がなぜ Hahdykesan(ハーヂケサン?)なのか、海上保険検査員がなぜ Serampan funney high kin donnyson(サランパン フネ ハイキン ダンナサン?)なのか、さっぱりわからない。
この随筆には「オチ」がある。水兵がなぜDam your eye stoなのか、頭をひねってもわからない、これは難しい=Moods cashey(ムヅ カシイ)。ということで、Moods cashey を以て、随筆のタイトルとしたのである。
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