◎五反田大橋の近くに「海喜館」、大通りの向いに「あゆみブックス」
ネットフリックス配信のドラマ『地面師たち』が評判になっているという。監督・脚本は大根仁(おおね・ひとし)さん、原作は新庄耕(しんじょう・こう)さんの小説『地面師たち』(集英社、2019)である。
ドラマは、まだ鑑賞していないが、とりあえず、小説『地面師たち』の集英文庫版(2022)を買い求めて一読した。
同文庫版の「解説」は、大根仁さんが担当している。大根さんは、その冒頭で次のように述べていた。
本書『地面師たち』で描かれる地面師詐欺事件のモチーフになっているのは、二〇一七年に東京・五反田【ごたんだ】の廃旅館「海喜館【うみきかん】」の土地を積水【せきすい】ハウスが購入した後に詐欺と判明し、五十五億五千万円の被害に遭ったとされる〝積水ハウス地面師詐欺事件〟である。
個人的な話で恐縮だが、私は日頃自転車で世田谷の自宅から高輪にある職場に通勤していて、途中目黒川【めぐろがわ】沿いを通る際、ここ十年ほど毎日、海喜館を目にしていた。元々私は、都心に置き忘れられたようなエアポケット的なエリアや、廃ビルや廃屋、誰も住んでいない広大な屋敷などをウォッチするのが好きなので、朽ち果てた海喜館は日々の目の保養物件だった。
報道で「事件」を知った大根さんは、映像化を思い立ったが、簡単には実現しなかった。そんなとき出会ったのが、新庄耕さんの小説『地面師たち』だった。再び、「解説」から引用する。
二年後の二〇一九年秋、演出で参加していたNHK大河ドラマ『いだてん』の撮影が終わり、次作の予定がなかった私は焦っていた。二年間という長期の拘束期間の間に、いくつかの企画を考えはしたが具体性に欠けていたし、知り合いのプロデューサーから持ち込まれた企画はどれもがかつて自分が作ってきた作品と似通ったものだった。「次は誰も観たことない、自分すら驚くような、圧倒的なドラマや映画を作りたい……」朝、自転車を漕【こ】ぎながら展望の見えない夢想をしていると、海喜館が見えてきた。事件から二年経【た】ったが、いわく付きとなった海喜館はそのまま放置され、陽光に照らされながらもその姿は幽玄を超えて、ホラーの雰囲気さえ漂うようになっていた。久しぶりにスマホで写真を撮り、何気なく海喜館の前の大通りの向かいにある書店に立ち寄った。特に目当ての本があったわけではないが、新刊コーナーの平積みを眺めていると、極太明朝体デザインのタイトルが目に飛び込んできた。『地面師たち』……? まさかこれって、あの事件の……? 帯に書かれたリード文や、中身を確認することもなくレジで精算を済まし、すぐに作業部屋に行き、頁【ページ】をめくり始めた。
小説を一気に読み終えたのは久しぶりのことだった。無論、最初は自分が知っている〝積水ハウス地面師詐欺事件〟と照らし合わせながら読み進めたが、すぐに新庄氏が紡ぐ〝実際の事件を元にしたフィクション〟の世界に飲み込まれていった。
ここに出てくる「海喜館の前の大通り」というのは、国道1号線「桜田通り」のことである。桜田通りは、五反田大橋で目黒川を跨いでいる。その五反田大橋の西南、目黒川に接する形で、廃旅館・海喜館があった。五反田駅周辺には、若干の土地勘がある。海喜館がまだ営業していたころ、その門の前を何度も通った。ずいぶん古風な旅館があるなあ、と思った記憶がある。
大根さんのいう「大通りの向かいにある書店」とは、「あゆみブックス五反田店」のことであろう。この本屋さんのことも、よく覚えている。インターネット情報によると、2003年から日本生命五反田ビルの一階で営業していたが、2020年に閉店したという。
ネットフリックス配信のドラマ『地面師たち』が評判になっているという。監督・脚本は大根仁(おおね・ひとし)さん、原作は新庄耕(しんじょう・こう)さんの小説『地面師たち』(集英社、2019)である。
ドラマは、まだ鑑賞していないが、とりあえず、小説『地面師たち』の集英文庫版(2022)を買い求めて一読した。
同文庫版の「解説」は、大根仁さんが担当している。大根さんは、その冒頭で次のように述べていた。
本書『地面師たち』で描かれる地面師詐欺事件のモチーフになっているのは、二〇一七年に東京・五反田【ごたんだ】の廃旅館「海喜館【うみきかん】」の土地を積水【せきすい】ハウスが購入した後に詐欺と判明し、五十五億五千万円の被害に遭ったとされる〝積水ハウス地面師詐欺事件〟である。
個人的な話で恐縮だが、私は日頃自転車で世田谷の自宅から高輪にある職場に通勤していて、途中目黒川【めぐろがわ】沿いを通る際、ここ十年ほど毎日、海喜館を目にしていた。元々私は、都心に置き忘れられたようなエアポケット的なエリアや、廃ビルや廃屋、誰も住んでいない広大な屋敷などをウォッチするのが好きなので、朽ち果てた海喜館は日々の目の保養物件だった。
報道で「事件」を知った大根さんは、映像化を思い立ったが、簡単には実現しなかった。そんなとき出会ったのが、新庄耕さんの小説『地面師たち』だった。再び、「解説」から引用する。
二年後の二〇一九年秋、演出で参加していたNHK大河ドラマ『いだてん』の撮影が終わり、次作の予定がなかった私は焦っていた。二年間という長期の拘束期間の間に、いくつかの企画を考えはしたが具体性に欠けていたし、知り合いのプロデューサーから持ち込まれた企画はどれもがかつて自分が作ってきた作品と似通ったものだった。「次は誰も観たことない、自分すら驚くような、圧倒的なドラマや映画を作りたい……」朝、自転車を漕【こ】ぎながら展望の見えない夢想をしていると、海喜館が見えてきた。事件から二年経【た】ったが、いわく付きとなった海喜館はそのまま放置され、陽光に照らされながらもその姿は幽玄を超えて、ホラーの雰囲気さえ漂うようになっていた。久しぶりにスマホで写真を撮り、何気なく海喜館の前の大通りの向かいにある書店に立ち寄った。特に目当ての本があったわけではないが、新刊コーナーの平積みを眺めていると、極太明朝体デザインのタイトルが目に飛び込んできた。『地面師たち』……? まさかこれって、あの事件の……? 帯に書かれたリード文や、中身を確認することもなくレジで精算を済まし、すぐに作業部屋に行き、頁【ページ】をめくり始めた。
小説を一気に読み終えたのは久しぶりのことだった。無論、最初は自分が知っている〝積水ハウス地面師詐欺事件〟と照らし合わせながら読み進めたが、すぐに新庄氏が紡ぐ〝実際の事件を元にしたフィクション〟の世界に飲み込まれていった。
ここに出てくる「海喜館の前の大通り」というのは、国道1号線「桜田通り」のことである。桜田通りは、五反田大橋で目黒川を跨いでいる。その五反田大橋の西南、目黒川に接する形で、廃旅館・海喜館があった。五反田駅周辺には、若干の土地勘がある。海喜館がまだ営業していたころ、その門の前を何度も通った。ずいぶん古風な旅館があるなあ、と思った記憶がある。
大根さんのいう「大通りの向かいにある書店」とは、「あゆみブックス五反田店」のことであろう。この本屋さんのことも、よく覚えている。インターネット情報によると、2003年から日本生命五反田ビルの一階で営業していたが、2020年に閉店したという。
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