礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

石原純編『世界の謎』(1936)を読む

2024-10-15 00:00:37 | コラムと名言
◎石原純編『世界の謎』(1936)を読む

 石原純編『世界の謎』(新潮社、1936)は、今日、国立国会図書館のデジタルコレクションで閲覧できる。
 この本は、石原純編となっているが、石原純が書いているのは「はしがき」ぐらいであって、本文は、別の学者三人が、分担して書いている。
 このあと、しばらく、この『世界の謎』という本を紹介してゆきたい。本日は、石原純の署名がある「はしがき」を紹介してみよう。

     は し が き

 この書物で『世界の謎』としてお話しする事柄【ことがら】のなかには、第一に星とか地球とか、そのほか、いろいろの物質に関するもの、第二に動物や植物などの生物に関するもの、第三に歴史で知られてゐない古い昔に残された、人間の事蹟に関する謎が含まれてゐる。古い時代には、それらはみんなわからない謎であつたのだが、今では学問のすばらしい発達のおかげで、さういふ謎がだんだんと解けるやうになつた。
 本当をいふと、今日、科学と名づけてゐる学問は、みんな、それらの謎を解くための目的で出来上つて来たのである。『なぜ空から雨が降つてぐるのだらう』と疑ふと、それにはちやんとした理窟が考へられるといふやうに、およそこの世界に起こるどんな事柄に対しても、それがそのやうに起こらねばならない一定の理窟かあつて起こるのだと考へられることが、われわれ人間にわかつて来た。それで、かういふ理窟をはつきりさせてゆくのが、われわれの学問なのであつて、そしてその理窟のもとになる事柄が学問上の真理なのである。
 諸君はこれから成長するに従ひ、学校でいろいろ学問を学ばれるのであるが、学問をするといふのは決して単に物知りになることではない。学問上の真理が何であるか、それをはつきりと知るのが学問の本当の目的なのである。それといふのも、この真理といふのは動かすことのできない事柄であつて、殊にわれわれの眼の前に横たはつてゐるすべての自然は、たとへどんな些細な事柄にしても、悉く何かの理窟に従つて変化を行つてゐる。その有様を思ふと、実に真理の深いことがわかる。だから、人間は何事をしようとするにも、いつもこれに従はなくてはならない。何かの機械とか役に立つものとかをつくらうといふ場合でもさうであるし、病気をなほしたり、健康を増さうとする時にもさうである。真理にさへ通ずるならば、どんなすばらしい発明もできるであらうし、そのほか、世のなかの利益になるいろいろの仕事をすることもできる。これが学問の大切なわけである。
 謎を解いてゆくことは、もちろん、やさしいものから始めなくてはならない。もつれた糸をほどくにも、気短かにむやみに引張つたりすると、かへつて固く結ばれてしまふ。よく糸のもつれ方を見究めて、端の方からだんだんに、辛抱づよくやらねばいけない。それと同じやうに自然のわからない謎に出遇ふときにも、正しく順序を追つて解いてゆくことが必要である。そして少しわかりにくいからといつて、すぐ投げ出してしまつてはいけない。この書物には出来るだけ諸君にわかり易い事柄だけを拾ひ出したつもりであるが、若しわからない事があつたとしても、それをなほ自分で考へるとか、または、誰【たれ】かに訊くとかして、気長に辛抱強くだんだんに学問の深い所へはいつてゆくやうに心がけるがよい。その間に諸君はいろいろな謎を解くことにだんだん大きな興味を感ずるやうになるであらう。
 この書物を書くのに、最初に述べた第一の部分は東京帝国大学工学部にゐられる矢島祐利【やじますけとし】君、第二の部分は同じく理学部の小野嘉明【おのよしあき】君、第三の部分は三島一【みしまはじめ】君の手を煩はしたことを、こゝにお知らせしておきたい。
           石 原 純

 矢島文夫さんが小学生のとき読んだ『世界の謎』は、三人の学者が分担してして執筆している。そして、その三人のうちのひとりは、矢島祐利、すなわち矢島文夫さんの父であった。
 語学の天才シャンポリオンがエジプト象形文字を解読した話は、同書の「第三の部分」、すなわち三島一が執筆しているところに出てくる。
 三島一(1897~1973)は、東洋史学者で、本書執筆当時は、二松学舎専門学校教授(明治大学教授兼任)だったと思われる。なお、二松学舎を創立した漢学者・三島中洲(みしま・ちゅうしゅう、1831~1919)は、三島一の祖父にあたる。

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