◎民族優生法案ナル名称ノ議員提出ノ法案ガ……
藤本直『断種法』(岩波書店、1941年3月)から、「附、我が国に於ける国民優生法の成立」という文章を紹介している。本日は、その二回目。
「国民優生法案」の全文が引用されたあと、一行アキがあり、さらに次のように続く。
此の案に付ての厚生大臣の説明は左の通りである。
【一行アキ】
国民優生法案ノ目的ト致シマス所ハ、国民素質ノ向上ヲ図リマシテ、之ニ依ツテ国家将来ノ発展ヲ期セントスルニアルノデアリマシテ、此ノ目的ヲ達成致シマス為ニ、一面ニ於テハ、悪質ナル遺伝性疾患ノ素質ヲ有ス国民ノ増加ヲ防遏〈ぼうあつ〉シマスルト共ニ、他面ニ於テハ、健全ナル素質ヲ有スル国民ノ増加ヲ図ラントスルモノデアリマス、元来我ガ国民素質ノ優秀デアリマスルコトハ、光輝アル二千六百年ノ歴史ノ如実ニ之ヲ示ス所デアリマスガ、現下ノ時局ニ際会致シマシテ、興亜ノ大業ヲ完成シ、将来愈々其ノ発展ヲ期センガ為ニハ、我ガ国民ノ優秀性ヲ保持スルハ固ヨリ、益々是ガ増強ニ努ムルコトハ、今日緊喫ノ要務ト存ズルノデアリマス、我ガ国民体力ノ現状ヲ見マスルニ、近年其ノ低下ノ傾向ヲ見受ケラレルノデアリマシテ、其ノ素質モ亦自然ニ之ヲ放置シテ置キマスル時ハ、次第ニ低下スルノデハナイカト懸念セラルルノデアリマス、而シテ国民体力ノ向上ヲ期シマスガ為ニハ、単ニ環境ノ改善ニ依リマスル後天的素質ノ向上ヲ図ルニ止マラズ、更ニ進ンデ根本的ニ国民ノ先天的素質ノ向上ヲモ期スルコトガ肝要デアルト存ズルノデアリマス、今我ガ国民ノ先天的素質ニ付キマシテ検討ヲ加へテ見マスルニ、不健全ナル素質、殊ニ悪質ナル遺伝性疾患ノ素質ヲ有スル向〈むき〉ガ、漸次増加スルノ傾向ガ見エルノデアリマス、是等ノ遺伝性悪疾ガ遺伝ヲ致シマシテ、子孫ニ其ノ発病ヲ見マスルコトハ、啻ニ〈ただに〉患者又ハ患者ヲ有スル家族ノ悲惨ナル苦悩トナルノミナラズ、之ヲ国家的ニ見マシテモ、斯ノ〈かくの〉如キ悪質ナル素質ガ遺伝シテ行キマスナラバ、将来ノ国家ノ発展ノ上ニ、洵ニ〈まことに〉憂慮スベキ事態ガ齎サレル〈もたらされる〉コトニ相成ラウカト存ズルノデアリマス、以上述ベマシタ如キ理由ヲ以チマシテ、本法案ヲ提出スルニ至ツタ次第デアリマス
本法案於キマシテハ、悪質ナル遺伝性疾患ノ素質ヲ有スル者ハ、綿密ナル審査ヲ受ケマシタ後ニ、必要ト認メラルル時ニハ、優性手術、即チ生殖ヲ不能ナラシムル手術ヲ受ケ得ルコトヲ認メタノデアリマシテ、之ニ依ツテ悪性ノ遺伝的素質ガ、将来ノ国民ノ中ニ増加スルコトヲ防止セントスルモノデアリマス、尚ホ〈なお〉是ト関連致シマシテ、避妊手術又ハ妊娠中絶等ノ如キ行為ノ濫用セラレマスルコトヲ厳重ニ取締リ、以テ健全ナル素質ヲ有スル国民ノ人為的ノ減少ヲ致シマスル原因ヲ除キ、人口増加ニモ資セントスルノデアリマス、本法案ノ如ク悪質ナル遺伝性疾患ヲ防遏スルコトヲ目的トシタ法案ハ、第六十五回、第六十七回、第七十回、第七十三回、第七十四回ノ帝国議会ニ於キマシテ、五回ニ亘ツテ、民族優生法案ナル名称ノ議員提出ノ法案ガ、本院〔衆議院〕ニ於テ議題トセラレマシタ、右ノ中〈うち〉第七十四回議会ニ於キマシテハ、本院ニ於テ一度可決セラレマシテ、貴族院ニ送付サレタヤウナ次第デゴザイマス、政府ニ於キマシテハ、本案ニ対シテ事ノ慎重ヲ期シマスル為ニ、昨年〔1939〕設置ヲ見マシタ国民体力審議会ニ要綱ヲ諮問〈しもん〉致シマシテ、同委員会ニ於テハ慎重審議ノ後ニ、昨年末其ノ答申ヲ見ルニ至ツタノデアリマス、本法案ハ此ノ答申ニ基キマシテ立案致シタ次第デゴザイマス〈361~363ページ〉
これによると、「国民優生法案」は、もとは、「民族優生法案」という名称の議員提出法案だったようだ。
「国民優生法案」は、政府提案である。法案提出時の内閣は、米内光政(よない・みつまさ)内閣で、厚生大臣は吉田茂(1885~1954)であった(戦後に首相となった吉田茂とは別人)。