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礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

陸軍大臣告示の案文は荒木貞夫が山下奉文に口授

2024-02-22 00:45:39 | コラムと名言

◎陸軍大臣告示の案文は荒木貞夫が山下奉文に口授

『文藝春秋臨時増刊』「昭和の三十五大事件」(1955年8月)から、木内曽益の「二・二六事件秘録」という文章を紹介している。本日は、その三回目。

   慌てふためく軍首脳
 次に「陸軍大臣告示」から討伐までの経緯について一言したい。二・二六事件の首謀者である青年将校連の間では、昭和十一年〔1936〕二月二十二日に集団的一斉蜂起の最終的決定をなし、二月二十五日夜麻布第三連隊に叛乱部隊を集結し、翌二十六日午前五時を期して予定の計画を決行したのであるが、この事件が勃発するや、陸軍の最高首脳部は直ちに宮中に集り、これが鎮圧策を講ずるために陸軍々事参議官会議を開き鳩首〈キュウシュ〉協議の結果、軍事参議官一同の意向を文書にしてこれを叛軍に示して鎮撫せんとしたのである。ところが、朝香〔朝香宮鳩彦王〕、東久邇〔東久邇宮稔彦王〕の両大将宮〈タイショウノミヤ〉も亦軍事参議官であつてこの会議にも列席しておられたから、軍事参議官一同の意向として発表することは皇室に累を及ぼす虞〈オソレ〉があるという意見も出たので、同席の陸軍大臣の川島義之〈ヨシユキ〉大将の承諾を得て、この意向を「陸軍大臣告示」という形で発表することになつたのである。
 この告示の案文は、軍事参議官の荒木貞夫大将がその席におつた山下奉文〈トモユキ〉少将に口授して筆記せしめたのである。
 その文言は
 「陸軍大臣ヨリ
 一、蹶起ノ趣旨ニ就テハ天聴ニ達セラレタリ
 二、諸子ノ行動ハ國體顕現ノ至情ニ基クモノト認ム
 三、國體ノ真姿顕現ノ現況(弊風ヲモ含ム)ニ就テハ恐懼ニ堪ヘス
 四、軍事参議官モ一致シテ右ノ趣旨ニヨリ邁進スルコトヲ申合セタリ
 五、之レ以外ハ一ニ大御心ニ俟ツ
 というのである。
 (註) 右側傍線の部分は、次に述べるが、後になって訂正されたのである。
 警備司令官の香椎浩平〈カシイ・コウヘイ〉中将もその席におつて山下少将の傍でこれを筆記したのである。
 軍事参議官一同の意向としては、山下少将は平素から叛軍の幹部である青年将校連から も好感を持たれておつたので、同少将にこの「陸軍大臣告示」を持たせて叛軍の占拠しておる陸相官邸に赴かしめ、叛軍の幹部連にこ の告示を示して、陸相や軍事参議官一同もこの通り汝らの蹶起の趣旨はよく了解しておるのであつて、決して犬死させないから一応占拠地から原隊に引上げるように、といつて説得させる考えであつたのである。
 ところが、香椎警備司令官としては、職責上この告示を少しでも早く叛軍に伝えて之を鎮撫したいとの一念から直ちに警備司令部に電話して参謀長の安井藤治〈トウジ〉少将にこの告示を筆記させこれを隷下の師団長に通達し叛軍に伝達させようとしたのである。そこで、安井参謀長は部下に命じてこれを謄写に付し、近衛師団長の橋本虎之助中将と第一師団長の堀丈夫中将とに通達しこれを叛軍に伝達して鎮撫するよう命じたのである。
 橋本近衛師団長はこの告示を見て少しく疑義を抱いたのでこれを隷下に伝達せずに握り潰してしまつたのである。
 堀第一師団長は忠実にこれを叛軍に伝達したのであるが、叛軍側はこれを以て奇貨措くべしとして、この告示を自分らに都合のよいように宣伝の具に使い彼等の蹶起を正当化する手段に利用したのである。
 然るに、香椎警備司令官がこの告示を安井参謀長に電話した後で又々軍事参議官会議において「この告示の字句訂正」の議が起り、そのため前述の「告示」の文言の内の傍線を付しておいた部分が次の通りに訂正されたのである。
 その文言は
 「陸軍大臣ヨリ
  諸子蹶起ノ趣旨ハ天聴ニ達シアリ
  諸子ノ真意ハ國體顕現ノ至情ヨリ出テタルモノト認ム
  國體ノ真姿顕現ノ現況ニ就テハ我々モ恐懼ニ堪ヘサルモノアリ
  軍事参議官一同ハ國體顕現ノ上ニ一層匪躬ノ誠ヲ致スヘク
  其以上ハ一ニ大御心ヲ本トスヘキモノナリ
 一、以上ハ宮中ニ於テ軍事参議官一同相会シ陸軍長老ノ意見トシテ確立シタルモノニシテ閣僚モ亦一致協力益々國體ノ真姿顕現ニ努力スヘク申合ハセタリ
 というのである。【以下、次回】

 文中、「警備司令官の香椎浩平中将」とあるが、当時の香椎浩平は東京警備司令官。1936年2月27日、東京市に戒厳令が布かれると、戒厳司令官を兼ねた。安井藤治は、当時、東京警備参謀長、同日以降は、戒厳参謀長を兼ねた。
 また、「第一師団長の堀丈夫中将」とあるところは、原文では「第一師団長の堀悌吉中将」となっていた。明らかに間違っているので、訂正しておいた。

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