仙台の中小企業で働く50代管理職が主人公。
ストーリーの始まりが、ちょうどこのCOVID-19感染症が広がり始めた頃。
主人公は、健康診断でコレストロール値が高いとの診断を受け、ダイエットの必要性に迫られる。
職場の部下の若い女性からロードバイクを勧められ、ロードバイクに引き付けられた主人公の優一は、迷いながらも高価なバイクを購入。
やがて、ペダルをこぐことが大好きになり、夢中になっていく。
購入時の細かい注意や、最初に乗って走る時の様子、少し走るようになって初めてヒルクライムに挑戦したときの様子、そして百キロライドの様子などは、ずいぶん専門的だ。
自転車の価格や装備する機器やその数値などについて細かく描かれているが、初めて読む人たちには、ちんぷんかんぷんな文章が続いてしまう。
それも、作者がよく知っているなあと感心してしまうのだが。
物語と並行して、感染症禍が進む。
今はもう忘れつつある、感染初期の社会状況や進行の状況などを話に織り込んでいるので、読んでいると当時のことを思い出す。
パンデミックの宣言、全国一斉の臨時休校、緊急事態宣言、老人ホームへの訪問禁止、入社式の延長、テレワーク、リモート会議、Go to トラベル、リストラ、第2波…。
そして、ロードバイクへののめり込みが進むのと、感染症禍が進むのとを合わせながら、さらに会社の経営改革も進んでしまう。
経営改革といえば聞こえはいいが、要するにリストラだ。
ペダルを踏めば自転車の速度が増すように、物語も話が進む。
読後感は爽やかだった。
結局、50代中盤に新しい好きなことに夢中になることは、いいなあと思ったよ。
この話では、ロードバイクだし、私の場合はマラソンだった。
好きなことが生まれると、もっともっとやりたくなるし、深めたくなる。
その気持ちはとてもよくわかった。
運動にはまって、楽しんで、健康になるから全てがうまく回っていく。
非常に説得力があった。
そして、物語の後半の展開は、やはり「人」だということ。
人が人を大事にして生きることが、人を救うし、自分に返って来る。
パンデミックの社会にあっても、そうでなくても、だ。
ペダルを踏み込むと自転車が前に進むように、明日に向かって、人生を進んでいこう。