先日、出身県・地域ばかりか大学の母校まで同じだったということで気になった野中柊さん。
そのデビュー作を読んでみたいと思った。
デビュー作は、「ヨモギアイス」という。
その作品で1991年、第10回海燕新人文学賞を受賞しデビューしたとのこと。
作品名だけからすれば、「抹茶アイス」のように、なんだかアイスクリームの種類のようだが、どんな内容の作品なのだろう?
図書館で検索したら、1992年、福武書店から出た「アンダーソン家のヨメ」という本に「ヨモギアイス」も収録されているとのことで、借りてきた。
なお、「アンダーソン家のヨメ」は、同年第5回三島由紀夫賞候補や第107回芥川賞候補にもなっていたらしい。
読んでみると、「ヨモギアイス」「アンダーソン家のヨメ」の2編がその順で収録されていた。
2編とも、アメリカ人と結婚して嫁いだばかりの日本人の女性が主人公だったが、連作ではなく独立した話。
「ヨモギアイス」の方は、短編だった。
「ヨモギ」というのは、植物名でもアイスでもなく、若い日本人女性の名前だった。
ちなみに、「アンダーソン家のヨメ」に出てくる「ヨメ」の名前は、「マドコ」であった。
2編とも、なかなかない特徴的な人名にしたのは、実在する人とのかかわりを薄くしておきたい気持ちがあったのかもしれない、と思いながら読んだ。
どちらの話も、国際結婚をして、先行きの見えないアメリカでの暮らしが不安な中で、相手や周囲との考えや習慣の違いが浮き彫りになる。
自由の国アメリカ、というが、やはり感覚の違いが生活に出て、若い夫婦に言い争いなどが生じてしまう。
まあ、そんないさかいは、日本人同士でも育った文化が違うと生じたものだと、若い頃を思い返して思う私だ。
国際結婚してアメリカでの話なので、嫁と相手家族との問題は実際どうなのだろうと思ったが、展開される考え方の違いは具体的だから、著者がアメリカで実際に体験したことなのだろうな、と思わされた。
この作品の文体で特徴的なのが、句読点が少なく、一文が長いこと。
そこに、説明が加わったり倒置法が使われたりする場合もあるから、なお長くなるときもある。
なんだかまるで関係代名詞を使った英語の文章のように感じられた。
そしてもう一つ、主人公の気持ちだけでなく、登場した人物たちの気持ちが次々に描かれること。
だから、互いの考えの違いが即座に明確に示されていく。
これらは、特徴的だが、効果的で面白いと思った。
最初のうちは読みにくかったが、読み進むうちに慣れてきた。
ストーリーとして、大きな出来事がいろいろ起こるわけでない。
でも、人種や国籍、考え方の違いなどが展開されるのは、新鮮だった。
こういうところが、諸文学賞の候補に挙がった理由の一つかもしれないな。
なお、当ブログ「ON MY WAY」は、次のところに引っ越し作業を終えました。
https://s50foxonmyway.hatenablog.com/
当分の間、ここと同じ記事を載せていますが、今後そちらの方を見ていただければと思います。