辻村深月さんの「家族シアター」が自分にとってはよかったので、違った作品を読んでみたくなった。
「家族シアター」(辻村深月著;講談社)は、家族の絆にほっとする短編集 - ON MY WAY
「家族シアター」(辻村深月著;講談社)これは、様々な家族を描いた短編集。世の中で、一番近くにある絆が家族。最近は、「親ガチャ」のようなとんでもない表現もある。そ...
goo blog
本屋大賞を受賞したこともあるということだったので、図書館の棚を探した。
受賞作は、「かがみの孤城」というタイトルだった。
探してみると、見つかった。

少し分厚い本だが多くの人に読まれた跡があった。
発行元のポプラ社の本書の紹介には、次のように書かれていた。
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
内容の構成は、第1部が「様子見の一学期」となっており、細かく「五月」「六月」「七月」「八月」に分かれている。
第2部が「気づきの二学期」で、「九月」「十月」「十一月」「十二月」。
第3部が「おわかれの三学期」で、「一月」「二月」「三月」「閉城」「エピローグ」となっている。
総ページ数が554ページもあったので(文庫化されたものは、上下巻の2冊になっていた)、一気読みは難しいと思っていたので、初めのうちは「『○月』まで読もう」と決めながら読んでいた。
それぞれの事情は違うが、学校に行けなくなった中学生たちが、鏡の向こうの城の世界と実際に生きている世界を行き来しながら、1年を過ごしていく。
主人公は、中1の女の子で、いじめにあって不登校になっている子、こころだった。
前半部分では、あちこちに回想シーンとしてそのいじめの具体的な場面が出てきたが、それによって、主人公こころの不安感や恐怖感、そして孤独感はよく伝わってきた。
不登校になるのも無理がないと読者に思わせる書きぶりだった。
「家族シアター」を読んだときも思ったが、さすが辻村さん、弱者の気持ちがよく分かっていると思わせてくれた。
7人を呼んだのは少女の姿をしたオオカミだった。
なんのつながりもなかった7人の不登校の生徒たちが、城の世界で会ったり会わなかったりしながらも、約1年間の生活を通して少しずつ互いを知り、関係ができていく。
現実の世界で会おうとするあたりから、結末はどんな迎え方をするのかなあと想像するようになった。
ところが、ところどころで想像してみたけど、その想像は大きく裏切られた。
なぜなら、その裏切りは、シロウトの読者の考えたものだから。
物書きの考えるストーリーにはしょせんたどり着けないのだな、という驚きと感嘆をもたらされたのであった。
いやあ、その驚きと感嘆をもたらす伏線がすごいわあ。
これでもか、これでもか、と現れてくる、以前のできごととのつながり。
最後の方の、「閉城」「エピローグ」では、すべてがつながっていき、読者に驚きと納得をもたらす。
それは、読んでいてとても気持ちがいいものだった。
さすが、2018年第15回本屋大賞受賞作品。
この作品は、ファンタジーであり、舞台化や劇場アニメ化もされているようだ。
だが、その類のものを知らずに読めたから、想像を膨らませて読むこともできたよ。
それにしても、オオカミが出てくるグリム童話は、「赤ずきんちゃん」だけでなく「おおかみと七ひきのこやぎ」もあったのだったことを思いださせてくれるなんてね…。