癒し系獣医師の動物病院開業日誌

アニマルセラピー団体で活動している癒し系獣医師。農業団体職員から脱サラし、動物病院を開業しています!

ヨンペンの手術

2010年02月10日 | Weblog
産業動物(牛)医療の中で日常最も行なわれる手術、それは「第四胃変位整復手術」です。
こんな聞いたこともない病気の手術ですが、実はほとんどの診療所で毎日行なわれています。
牛には胃が4つあって、その4番目の胃は腺胃で人間の胃に相当するのですが、この4胃とその前後の消化管は小網で吊られて胃幽門近位十二指腸→第四部→胃本体第四←第三胃←第二胃とUの字に吊られてぶら下がっているのが、妊娠や分娩、飼料給与など様々な要因が関係して、解剖学的位置とあいまって発生するといわれています。

手術は起立のまま局所麻酔で行なわれる場合もありますが、仰臥位にして傍正中(お腹の真ん中あたり)からやや右よりの場所を切ります。まっすぐ、15cm前後切り、皮膚、皮下組織、筋肉、腹膜を切りやっとお腹の中が見えます。
四胃は本来の位置からどっちかに変位していますから、ガスがたまっています。このガスを抜いて変位しないように大網というところに縫い付ける。左の変位なら治癒率は90%以上です。手術時間は1時間かかりません。

昔は野外で行なわれていた手術ですが今は手術室が整備され屋内で行なうことが多いのです。病気そのものの発生が多いので一定程度の規模の診療所では午後は第四胃変位、略して「ヨンペン」の手術はルーチン化しています。それも一頭や二頭でない場合も珍しくありません。診断したらその日の午後には手術するのです。

この手術は30年くらい前からよく行なわれるようになりましたが、以前は「珍しい」手術でした。偶に行なうと近隣の診療所から「一度見てみたい」と見にきたそうです。
乳牛の飼養環境が変化してより生産性を上げる給与方法になってから第四胃変位の手術が急激に増えてきました。いわば職業病みたいなものです。今や、午後には必ずヨンペンの手術が当たり前のように行なわれるのです。
農家の方も冗談とも本気とも言える口調で「先生、ヨンペンになる前に手術して」と言いますが・・・・・さすがにそれはねぇ。