練習オタクの日々

3日ぼうずにはしたくありません!この日記とピアノのお稽古。練習記録とその他読書などの記録をつけておきます。

『私の男』 桜庭一樹

2008-05-19 | 読書
いろんな意味でとても危険な小説だった。

内容のスキャンダラスさ(実の父と通じてしまう娘)もさることながら、この小説はどこか誰もが持っている心の中の暗黒の部分、ダークサイドを刺激してしまうような危険性がある、と感じたのだ。
特に私に限って言えば、明るい日の光の中を正々堂々と顔を上げて歩く人生と対極にあるような、暗くて誰とも相容れない、それは犯罪とも違う、なにかものすごくどす黒いものにどうしようもなく惹かれてしまうときがあるので、この小説を読み始めてすぐ、「あ、やばい」と思ってしまった。
ずるずるとその闇に引きずり込まれそうな気がしたのだ。
だから、あまりのめりこまないようにちょっとずつ時間をおいて、とぎれとぎれに読んでいた・・・。

いろいろ思うことはあるけれど、ひとつ、とても心に残ったのは、
「一緒のお墓に入るのが本当の家族」というようなことが書かれていたことだ。
主人公は災害で家族を失ったとき、その家族は本当は自分とは血がつながっていなかったのだが、自分以外の家族は皆、まるで運命を喜んで共にするかのようにそろって死んでいったのに、自分だけは「生きろ!」と言われて、一見命を助けられたかのように思えるが、実はものすごい疎外感を感じてしまう。
この一緒に死んで、死んだ後にも一緒にお墓に入れるのが家族、というのはある意味真実なのかもしれない。
私が幼いころ、祖母、祖父が亡くなり、そのたびに葬儀、納骨などが続き、お墓の前であるとき母が、「あなたはお嫁に行っちゃうから、このお墓には入れないのよ」と言った。その言葉を聞かされて、小学生であったにもかかわらず、ものすごいショックを私は受けて、しばらく涙が止まらなかったことがある。
そのことを思い出してしまった。

最終章、主人公と父親の関係が始まる場面は一番の重要なシーンであると思うのに、いまいち説得力に欠けるような印象が強いが、全体としてはかなり強い読後感を受けるような小説だった。