まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

ウルビノ大学教育学部など(2011視察12)

2011-10-10 19:26:29 | 海外巡礼 South Europe

Data o Orto dell'Abbondanza

ランプやサンツィオ劇場の隣にあるのがこの庭をギャラリースペースに改造するプロジェクトです。

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日本の雑誌には庭(正確に言うと屋上庭園)の状態の写真が紹介されていますが、現在ここまで工事が進んでいます。ここでいったんストップしているのでしょうか。日本の感覚でいうと不思議な状態のまま保持されています。一部展示もあります。

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中下さんや案内の市の方にはとくに不思議な中断という感覚はないようです。

下の写真のように完成パースが掲示されています。

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左下にデカルロの写真。左のほうには歴史のサイン(cenni storici) という言葉が見えます。おそらく歴史を目に見える形で継承しているという意味でしょう。

次に訪れたのがウルビノ大学教育学部です。

デカルノのウルビノ計画の中でももっとも有名なのがこの建物でしょう。

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このトップライトの在る吹き抜け空間に面して4層の教室群があります。その空間を是非体験したかったのですが、残念なことに稼動の間仕切りで教室がそれぞれ区画されています。

下の写真の正面のパネルの向こうに吹き抜け空間があります。

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上の写真の上方がガラスになっていますがその向こうにもう一つの教室が見えるでしょうか。

また吹き抜けに対しても上のトップライトからの光が行かないように水平の遮蔽幕が張られています(下の写真)。

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また一部の教室は試験(口頭試問)会場になっており見ることが出来ません。残念ながら今回は4つの教室を縦に重ねることで実現しようとしたことが何であったのかを追体験することはあきらめました。

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ランプ(La Rampa) のように緩やかな階段です。緩やかに空間を繋ぐことは彼の手法の特徴です。

ここから私たちは一度とおり(Via A. Saffi) に出ます。仰々しい入り口もなくほかの建物となんら変わるところはありません。

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ちなみにこの建物は修道院Convento di Santa Maria della Bellaだったものです。

次にVia A. Saffi をのぼります。山岳都市(あるいは丘陵都市と呼ぶほうがよい?)らしい頂上の広場に上っていくという身体感覚が確認できます。これはシエナやアッシジ、ペルージアでも同じでした。中心に近づいているという期待感と登るという身体感覚が融合されるわけです。

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次に見たのは経済学部です。これはPalazzo Battiferriというパラッツォ(宮殿、あるいは豪華な都市住居)を改装しました。

下の写真が入り口です。

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中は迷路のようですが、ところどころに庭に面したホールやロッジア、ガラスの階段を置き、空間的なメリハリをつけています。

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中の案内図です。結構複雑な平面です。

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しかし一つ一つの教室はこじんまりとして落ち着いた雰囲気があります。光が部屋に満ちています。

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学生ラウンジといったところでしょうか。

さて次の訪問地は城壁の外になります。ここからはデカルノが新築したものです。

Collegio del Tridente.

英語で言うとcollege of tridentということです。学生宿舎が斜面に沿って3方向に降りて行きます。

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その全体像はうまく写真に取れませんが、ここにあるタイムトンネルを抜けて斜面の宿舎にアプローチするのです。

次のようなトンネルを抜けます。

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するとその先にどんどん下に下っていく長い廊下があります。少し暗くて分かりにくいですが実際の空間もこのように暗くてずっと先に続くという感覚のものです。

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渋澤龍彦の小説かあるいは彼の編になる短編集にふすまを開けたらまた次の部屋が続き永遠に斜面の続き間を降りていく少年の物語があった(と記憶します。その少年は私の中ではまだふすまを開いて次の部屋に降りていっているのです)。まさにその世界があります。そんなことを考えていたら学生が私たちの横を走って過ぎて行き、またしばらくたった後に猛スピードで駆け上がってきました。帰ってきたところを見ると、この廊下には終点があるようで安心しました。

デカルロとしては丘陵都市ウルビノのメタファーを表現したものと思われます。彼にとっては同じチームⅩの同士であったオランダ人建築家アルドーファンアイクが言うように建築は小さな都市であり都市は大きな建築であるように思えます(a city is not a tree unless it is also a huge house- a house is a house only if it is also a tiny city) 。

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上の写真のようなサロン的スペースの作り方にも丘陵都市が反映されているというといい過ぎというより間違いでしょう。劇場的なスペースを作り、学生の交流空間としているのだと思います。禁欲的に幾何学的形態操作だけで空間を分節し人が領域化しやすい場所を作り出そうという姿勢にはやはり70年代という時代性を感じます。私にとっては好ましい空間です。

このあとは一度広場に出ます。

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もっと新しい宿舎を見せてもらいました。名前がCollegio dell'Aquiloneといいますが、英語で言うとCollege of the Kite(たこ)になります。

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中廊下の片側に共用スペースを並べ反対側に居室を持っていくというオーソドックスなな配置です。上の写真は共用部のほうです。下の写真は反対側の居室、2層になっています。

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これが中央部の廊下です。

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トップライトをうまく使って効果的に光を取り込んでいます。

どうもオランダ構造主義的な香りを感じてしまいます。明快で論理的な構成をとりながらも両義的で、あいまいな空間性を獲得しようというような意図に満ちているような気がするのです。中下さんから今回陰でいろいろ尽力してくれたウルビノ市の女史にお礼を兼ねて感想を伝えて欲しいといわれたので、私は、デカルロの作品には新築改築を問わず迷路的な明晰さ(Labyrinthian Clarity: ファンアイクの言葉)を感じると書きました。そのときは帰国後すぐで正直何も考えることなく思いついたことを素直に書いて送りましたが、今こうやって今一度写真を見ると、その感想があまり的外れでなかったように思えます。


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