落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ヒジャブとニカブ

2015年12月14日 | movie
『カリファーの決断』

母を病気で亡くし、礼拝所管理人の父と弟とつましく暮らすカリファー(マーシャ・ティモシー)。家計のために進学を諦め、大学を目指す弟の将来を慮り貿易商のラシッド(インドラ・ヘルランバン)と結婚するが、流産をきっかけに夫は妻にニカブ(目だけを出して全身を覆う黒装束)を身に着けるよう指示する。
2011年のインドネシア映画。イスラーム映画祭2015での鑑賞。

イスラム教というとどうしても中東とかアフリカを想像してしまいがちだけど、人口でいえば世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシア。でもイスラム国家ではありません。といっても私もインドネシアにはいったことないし、よくわかんないんだけどさ。ただ人口的にムスリムは多くても、多民族多宗教の国なのでそこまで厳格でもないともいいます。
この作品も女性のヒジャブ・ニカブ着用がテーマだけど、宗教そのものの話ではないです。
カリファーはピチピチに若くて綺麗(柴咲コウとか黒木メイサに雰囲気が似てる。要するに超美人)でおしゃれにだって興味津々。聡明ではあってもおとなしくて静かなふつうの女の子が、伴侶を得て、家族をまもるために戸惑いながらも教義という名目の夫の要求に応えていくなかで直面する出来事が、淡々と描かれている。
すごく当たり前な、穏やかなホームドラマです。

ただそこはイスラム教のある一面を題材としているだけあって、単に淡々とはしていない。ところどころに穏やかでない伏線がびしびしと張られている。
たとえばヒロインは亡母の友人が経営する美容院で働いてたんだけど、ニカブを着けたままでの接客が難しくなる。夫は仕事でほとんど家におらず、いつ戻るのか何を商っているのか、つまびらかには語りたがらない。インドネシアではヒジャブ(スカーフ)は着けてもニカブは一般的でないせいか、カリファーはあらぬ差別やトラブルに巻き込まれがちになっていく。そんな新婚家庭の向かいに若いイケメン仕立物師ヨガ(ベン・ジョシュア)が引っ越してくる。これがまた何かと親切なんだな。
そういうとくにドラマチックではない、ありきたりな日常風景の連続の中から、カリファーと周囲の人々の内面がとても素直に伝わってくる物語。
ヒロインの美容院にときどき客としてやってくる同級生の女子大生の存在が、カリファーのような女性の価値観をうまく説明する役割を果たしてもいる。西欧化された現代女性として生きる彼女と、家のために主体性を否定することを受け入れたカリファーのコンサバティブな生き方との対比は非常にわかりやすいが、さりとて極端にどちらが幸せでどちらが不幸でという描き方もしていない。ニュートラルなのだ。

淡々としていたはずの物語が終盤でいきなり大どんでん返しになるのにはビックリしました。まあ伏線はあったけど、それにしても唐突だし。お約束過ぎるし。
まあ結局、信仰とか家族とか結婚とか、何かに依存して自分で考えずに生きることって一見ラクにみえて、実はけっこうリスキーですよと、なんかそういう話なのかも。
にしてもタイトルの「決断」がなんだったのか、私ゃようわからんかったとです。なんやったんやろ。