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気負いのない 等身大の人物描写 「ポトスライムの舟」 

2012年12月26日 20時22分12秒 | こんな本を読みました
津村記久子 「ポトスライムの舟」講談社文庫
420円

芥川賞受賞作とのこと。
ストーリーに引き込まれて読み進む、という小説ではなく、小さなエピソードを
重ね合わせながら、物語を進めていく手法。

好感が持てたところは、気負わない、等身大の主人公と、周りの人物の描き方。
この文庫本には、2つの短編が収められているが、どちらも、人との繋がり方に
不器用で、それがもとで、職場であくせくしている、普通の人間である。
かたや、それを払拭させようと世界一周旅行の資金作りに精を出し、かたや、
「いじられ役」として、上司からパワハラを、同僚からは「無視」に近い立場を
得ている。

おそらくは、津村さんの、直接、間接体験がベースとなっているのだろうが、
「弱い」、よく言えば「精細な」主人公は、「芯」を失わない。

そのヒーロー性のなさが、多くの読者を惹きつけているのだろうと思った。

ハラハラ、ドキドキもない。
謎解きもない。
それでも最後まで読ませるのは、文のうまさと(優れた観察力と文章力)と、
働く者への、こよない愛情があるからだろう。

追記 例えば、この小説に、「組合」とか「裁判」「労働基準法」などが入ると、
   文学的な価値がさがるのであろうか。
   それらも含めて、ダイナミックに現代を描くことと、それを受け入れる
   文化は、日本にはまだ育っていないのだろうか。
コメント
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