まりっぺのお気楽読書

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『アー・キン』植民地は楽園なのか?

2008-08-29 02:06:04 | イギリス・アイルランドの作家
THE AH KING 
1933年 サマセット・モーム

はっきり言って、収載されている六篇、全て結末がよめてしまうお話しです。
しかし、それを最後まで引っ張って行くモームの筆力が凄い

全て大英帝国の植民地が舞台です。
植民地の中の白人社会はとても狭い世界、そんな井戸の中の蛙状態の人々のエピソードを
モームらしく淡々と物語に仕上げています。

果たして植民地は白人にとって楽園だったのでしょうか?

見渡す限り英国人は自分だけという辺鄙な場所で布教活動をし、裁判官になり、
ゴム園を造り、と彼等なりの使命感に燃えていた人々。
でも現地の人たちがそれを望んでいたのかどうかは疑問です。

六篇全てが秀作ですが、その中でもスペシャルな三篇を・・・

『怒りの器(The Vessel of Wrath)』
厳格な伝道師兄妹と、ならず者の白人ジンジャー・テッドの攻防。
テッドは二人に屈してしまうのでしょうか?

笑える一篇です。牧師ジョーンズと妹マーサは最高
すごく幸せな(おめでたい)人たちです。

『書物袋(The Book-Bag)』
ホストの男性が語る、若き日に恋した女のエピソード。
弟と暮らすオリーブは何故自ら命を絶ったのでしょうか?

『この世の果て(The Back of Beyond)』
退官して帰国するジョージ・ムーンを訪れた農場主トムは
彼の妻が隣人ノビィの死に泣き叫んだと打ち明けます。
問いつめるトムに妻ヴァイオレットが語ったこととは?

『書物袋』は近親相姦、『この世の果て』は不倫がテーマです。
モームはこれらのテーマを、嫌悪ではなく憐憫でとらえているような気がします。
どちらもドロドロとした話しにはならずしっとりとしたストーリーになっています。

モームはどの物語の中でも、何が悪で何が善か決して決めつけようとはしません。
それは、きっと彼が人間の弱さを知っていたからだと思いますが、いかがでしょうか?

アー・キン 筑摩書房


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