事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」The Curious Case of Benjamin But

2009-02-09 | 洋画

The_curious_case_of_benjamin_button 監督:デビッド・フィンチャー 脚本:エリック・ロス 出演:ブラット・ピット ケイト・ブランシェット ティルダ・スウィントン

原作がフィッツジェラルドなのをエンドタイトルで知って、なるほどと思う。アメリカ南部出身の彼のことだから、Tall Talesと呼ばれるほら話の真っ当な系譜のなかに原作はあるのだろう。「ビッグ・フィッシュ」やマーク・トウェインの諸作が、その典型だろうか。

わたしの好きなほら話はこんなの。

大男がつまようじを使っているので「どこで手に入れたんだい?」ときくと「ほら、あっちの崖の上にあった大木を谷底に落としたら、こっちの崖とゴロゴロ行ったり来たりするうちに細くなっちゃったんだよ」

……スケールの大きさがいいでしょ。

「ベンジャミン・バトン~」は、生まれ落ちたときに80才の老人で、次第に若返っていく男の、文字どおり数奇な人生を描いている。第一次世界大戦の戦勝の日から、ハリケーン「カトリーナ」上陸までの80数年間、愛する女性との年齢が交差していく悲喜劇。日本では山田太一が「飛ぶ夢をしばらく見ない」で同じ手をつかっていました。

162分間という作品の長さがなんともいい。ベンジャミンだけでなく、登場人物たちの起伏の多い人生を静かに描くのにぴったり。

名セリフも満載。老人に見えても実は若いベンジャミンが、幼なじみのデイジー(フィッツジェラルドとくれば、この名前ですわね)とベッドの下で遊んでいるときのおばあさんの忠告。

「夜遊びには十年早いですよ」

そりゃそうなんだが、相手はベンジャミンですから。また、自分が子どもになっていくことを恐れるベンジャミンにデイジーは

「人間は、どうせ最後にはオムツをするのよ。」

ベンジャミンの人生が語られるのは、自分の人生は失敗だったのではないかと嘆く娘を、臨終の床でデイジーが励ますためでもある。

「色々な人生があるわ。やり直せない人生なんかない。」

(ネタバレだけど)その娘はベンジャミンの子どもでもある。遠い旅の空から彼女へ送ったベンジャミンの言葉。

「さまざまな価値観があることを、ぜひ知ってほしい」

彼が言うからこそ泣ける。

とんでもないほら話だから、役者が下手だとどうしようもない。ブラピ、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィントンという名優たちは、だからこそ思いきり“うまい”演技を見せてくれる。

特にケイト・ブランシェット。ダンサーとしての若い肢体から、50才を過ぎて体型がくずれてからのベッドシーンにいたるまで、いったいどこからがメイクでどこからがCGなの?と感嘆。さすがSK=Ⅱを愛用しているだけあって年齢不詳にもほどがありますっ!

ブラピもすごい。若返りが進み、ある日突然オートバイに乗って現れるあたりの驚きは、美男でなければ出せない凄みだ。

愛する女性の胸の中で、赤子になって臨終を迎えるベンジャミン。ある意味、誰よりも平穏な死を迎えたことになるだろう。フィッツジェラルドには、ついに訪れなかった瞬間だ。

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酒田の一番長い夜Part3

2009-02-09 | 情宣「さかた」裏版

Mk02 Part2はこちら
2003年10月24日付「情宣さかた」裏版より。

一週間ほどたって、結果的に類焼をくいとめた新井田川沿いをチャリで走って、私は初めて呆然とした。

町が……無くなってる

正確にいうと、どんな風の具合かわからないが、全く燃えていない建物が二三見受けられるものの(そのうちの一軒は私の知り合いの家で、その後、的外れな怨嗟のために投石されたりした)、あとはもう、なんっにも無くなっているのである。

ここに至ってようやくことの重大さに気づいた私は……なにも出来なかった。無力な高校生にも、何ごとか出来ることがあったはずなのに。

 あれから四半世紀以上たち、初めて観るニューバージョン「愛のコリーダ」は、ワイセツに関する日本人の感性が鈍化(私は素直に成熟、と思っている。そろそろヘアー云々は卒業する頃だろう)したことと自分の老化があいまって、ハードコア云々というより、日本の様式美を徹底的に画面にぶち込んだ古典、に見えた。文句なく傑作。

若い頃に観ておけば(観るべきだった、とつくづく思う)、鼻血の1リットルも流していたかもしれないが。       

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