事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「日暮らし」宮部みゆき著 講談社刊

2008-04-21 | 本と雑誌

Higurashi 宮部みゆきは、「進化」する。
早くも「著者時代小説の最高傑作」と言われる長編、登場!
まさに格別の味わい。『ぼんくら』に続く、待望の下町時代小説!

本当のことなんて、どこにあるんだよ?
江戸町民のまっとうな日暮らしを翻弄する、大店の「お家の事情」。ぼんくら同心・井筒平四郎と、超美形少年・弓之助が、「封印された因縁」を、いよいよ解きほぐす。(講談社紹介文より)

 むかし椎名誠が「どんな人にもおすすめできる小説」としてアーサー・ヘイリーの「ホテル」(今も新潮文庫に入っているかな?)をあげていた。老若男女、とにかく誰にすすめても感謝されるというのだ。わたしも同意。特に、主人公のホテルマンが語るひとつのエピソードが泣かせる。

 全米を旅するしがないサラリーマン。孤独で、係累も存在しない。しかし彼は、一度も会ったことのない主人公の学費を送金し続けてくれていた。彼が旅先で亡くなったとき、そのセールスマンの墓前には、四人の同じような若者が佇んでいた……

宮部みゆきが嫌いな人はめったにいないだろう。一時期は「売れる小説は宮部とハリポタだけ」と総括されたぐらいのベストセラー作家。ミステリとして完成度が高く、読後に温かい気持ちになれることも保証されている。どんな人にもおすすめできる小説日本版は宮部で決まりだ。

160pxhailey_hotel でもその分、どうしてももの足りない感触は残る。登場人物たちの善人ぶりがどうにも……と。しかし一種のコスチュームプレイである時代小説ならそんなあざとさとも無縁。「日暮らし」の前シリーズ「ぼんくら」を特集したときにふれたように、役人であることにへきえきしているぼんくら同心平四郎と、事件の闇におののいておねしょをしてしまいながらも、結局は謎を解く名探偵役の弓之助の造形はおみごと。上下巻で三千円を超す出費に見合う満足度。「ホテル」級の泣かせるエピソードてんこ盛り。アメリカにアーサー・ヘイリーがいるように、日本には宮部みゆきがいる。どなたにも、喜んでいただけるのではないでしょうか。

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グリーンハウス再建計画 ページ18~MOVIE ONやまがた

2008-04-21 | 映画

ページ17「目を覚ませ東映」はこちら。

Movieonyamaagta シネコン:山形市・嶋地区に「MOVIE ON やまがた」 総座席1424 /山形

 山形市の映画興行会社「MOVIE ON」(吉村和文社長)は13日、同市郊外にある嶋地区に東北最大級のシネマコンプレックス「MOVIE ON やまがた」を、来年4月中旬に開館させると発表した。大手書店「八文字屋」も施設内に出店し、村山地方の文化施設の核になることを目指す。
 嶋地区は市の土地区画整理事業により、新興住宅街と大型店舗の出店が相次ぎ、新たな商圏を形成。同社によると、周辺市町村を含めた30分以内の圏内人口は約55万人いるといい、初年度は31万4000人、3年目には50万人の集客を見込んでいる。
 施設は、鉄筋3階建ての延べ床面積約7140平方メートルで、約400台の無料駐車場も用意する。スクリーン数は、東北では「MOVIX利府」(宮城県利府町)の12に次ぐ10で、総座席数は1424席。シアター1のスクリーンサイズは、横17メートル、縦6.9メートルで東北最大になる。
 内外装は世界的工業デザイナーで山形カロッツェリア研究会代表の奥山清行氏が手掛ける。山形ならではの文化を織り込もうと、モダンなデザインのロビーに蔵の古材などを活用する。映画以外にも楽しめるテーマパーク
を想定し、カフェなども充実させる。【大久保渉】
毎日新聞 2007年10月14日

……どうやらたいした施設になりそうだ。ただ、4月21日現在ムービーオンのホームページ上では何の動きもなし。4月26日オープンなのにだいじょうぶなんだろうか。かろうじて映画「山桜」の記者会見が行われ、オープニングの“売り”はこの地元作品になることが察せられるぐらい。シネコンの利点であり、同時に欠点でもあるのは「観客動員によって上映回数が変化すること」なので、毎週上映時刻は変動する。だからインターネットによる告知は必要不可欠なのである。それなのに……。

 シネコンの運営には、1サイトあたり数十名のスタッフが必要だと言われている。しかし正規雇用者は多くの場合数名程度。残りはアルバイトやパートでまかなっている。したがって作品の選択などの重要な部分は、それぞれの『本部』が一括して行っている。イオンシネマ三川の上映作品の惨状はそこに由来するのだろう。山形フォーラムの場合は代表が実際にその作品を鑑賞し、山形で上映するかを決定する。つまりソラリス、フォーラムは昔ながらの興行主のセンスがまだ息づいているわけ。往時のグリーンハウスの伝統はここに健在。はたして新シネコン「MOVIE ONやまがた」はどんな作品選択を行うのか、要注目。

ページ19につづきます。

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「ビッグ・フィッシュ」Big Fish('03 SONY)

2008-04-21 | 洋画

Bigfish 監督 ティム・バートン 主演 ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー

大きな魚の伝説、洞窟の巨人、桃源郷に住む桂冠詩人、ベトナム生まれの美人のシャム双子、妻となる女性との出会い……。子供の頃に聞かされた父エドワードの脈絡のない英雄譚を、成人した息子ウィルは信じてはいなかった。しかし父の病状悪化の知らせを受け、ウィルは妊娠中の妻を伴って勤務地のパリからアメリカ南部の実家へと急ぐ。そこでウィルは母親と妻の協力を得て、ベトナム戦争時代に青春を送った父の人生の全容を、ジクソーパズルを解くようにつかんでいく……

高校時代のある日、となりのクラスに行くと「よう、社交的な人!」と声をかけられた。どうやらそのクラスで教えていたわたしの担任がこうかましたらしいのだ。

「いますね、社交的な人って。ほら、ホリヒロシとか」

大きなお世話である。一種の自己防衛策としてプリテンドしていただけだったのに。

「ビッグ・フィッシュ」は予想どおり、いや予想以上にすばらしい作品だった。映画というメディアは、このようなストーリーを描くために存在するのではないかとすら。

設定がとにかく気が利いている。アメリカ人の特質ともいうべきホラ話を披瀝し、常に主人公となってしまう社交的な父親と、そのことへの嫌悪のために傍観者的態度しかとれなくなっている息子。父と息子の関係は、常にこんな形でねじれていく宿命にある。父親はどうあっても反面教師なのだ。それでいて、最後の最後に父親の血が継承されていくラストは感動的。異形のフリークスたちが勢ぞろいする葬儀のシーンなど、涙なくしては観られない。

ティム・バートンのフィルモグラフィーのなかでは「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」が最高だと思っていたけれど、マニアックさが影をひそめた今作はあれを超えた。「ビートルジュース」や「シザーハンズ」の異様さもないけどね。このいきおいで次作「チョコレート工場の秘密」(ロアルド・ダール原作でジョニー・デップが主演!)もよろしく。

……で、「チャーリーとチョコレート工場(チョコレート工場の秘密)」も「スィーニー・トッド」も傑作だったわけだ。バートンはすでに巨匠あつかいか。往時のジョン・フォード&ジョン・ウェインとか黒澤&三船って感じで。この作品はデップ主演でも成立したろうか。ダメかな。デップとアルバート・フィニーじゃ親子には見えないもんな。

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