事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「父親たちの星条旗」Flags of Our Fathers('06)

2008-06-10 | 洋画

Flagsofourfathers02  もう、他の映画とレベルが違ってしまっている。枯淡の境地に達してしまったかのようなイーストウッドの新作は、しかし激しく心をゆさぶる。文句なく06年ベストワン。

硫黄島に掲げられた星条旗は、二重の意味で米国民のイメージを裏切っている。
・旗自体が代替だったこと
・勝利の旗印として掲げられたのではなく、その後も日本軍との間で激戦が続けられ、膨大な数の死傷者が出たこと。

……これはけっこう有名な事実。だから一種の手あかのついたネタでイーストウッドは勝負したわけだ。しかし「ミリオンダラー・ベイビー」でも組んだポール・ハギス(こいつは「007/カジノ・ロワイヤル」も書いてます。つまり正月に自作の映画が二本も公開される!)の絶妙の脚本と、実際の戦闘を記録した写真(エンドタイトルに出ます)をもとに徹底して戦場を再現した美術、そして“どんな兵士にも等しく死が訪れる”サプライズな演出で観客を圧倒する。

 財政が苦しくなったために、たとえフェイクであっても、難攻不落だった硫黄島に星条旗を掲げる有名な写真のメンバーを政府は本国へ呼び寄せ、戦時債権のセールスに全米をまわらせる。熱狂する国民。イーストウッドは退役兵士のこんな告白をオープニングに仕込んでいる。

「戦場を知らない者ほど、戦争を語りたがる」

つまり、実際の戦闘とは無縁に近い存在だった星条旗に熱狂する国民を“真の戦争を知らないものたち”にシンボライズしているわけだ。そしてこうも言わせている。

「戦争に完全な善はなく、完全な悪もない」

これを2006年に公開される映画で言わせる以上、誰に向けて放たれたメッセージかは自ずから明らかだ。
 旗を掲げた6人のうち、3人は死に、3人は生き残る。そして生き残った3人は
・一人は英雄であることに(しかも偽物の)耐えきれず、自滅する。
・一人は英雄であることを利用しようとするが、失敗する。
・そして最後の一人は、英雄であったことに徹底的に背を向け、寡黙な余生を送る。

……その、最後の一人が死を予感したとき“Where is he?”と何度も叫ぶ。その“He”が誰であったか、そしてなぜ彼を呼んだのかがラストで明かされ、んもう涙が止まらなくなる。タイトルに込められた意味は重い(“旗”も“父”も複数形です)。大傑作。ぜひ。

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「情と理」後藤田正晴回顧録その3

2008-06-10 | 国際・政治

Gotoda02 ……その2はこちら

 後藤田正晴の頭の中にあったのは、まず「治安」だったようだ。警察畑を歩むなかで彼が常に意識していたのは日本共産党。言っていいのか「暴力革命路線の転換がむしろ幸いした」なんてことまで。

左翼革命が起こる可能性は戦後何度かあったと彼は述懐している。筆頭はもちろん戦後まもなくの混乱期。そして60年安保がそれに続くと彼は考えている。ちなみに、インタビュアーが「社会党の方はいかがでした?」ときくと「彼らが政権を取ると考えたことは一度もない」とにべもなかった(T_T)。

 その治安優先の発想でいくと、戦後は左翼方向に民意がなびいていたが、どうも近ごろは右翼方向に傾きすぎていると後藤田は考えていて、それゆえ意図的にリベラル発言をくりかえしたのだと思う。

 加えて、自民党には大きく分けて二つの相容れない流れがあると正直に語っている。国家主義的思想を中心に置く岸信介、福田赳夫、中曽根康弘、そして小泉純一郎系の派閥と、旧田中派、宏池会を中心とした経済優先、平和主義の派閥と。後藤田ははっきりと後者の側に立っており、日中国交回復こそが田中角栄最大の功績だと絶賛しているし、安保の混乱が一気に収束したのも、思想云々よりも池田勇人内閣(宏池会はこの人中心のグループが発祥)の所得倍増計画によると評価している……このあたりは沢木耕太郎の「危機の宰相」でも同様のことが語られているのでぜひ。

 だから前者の政治家への評価はずいぶんと辛めだし、友好派閥だった宏池会の代議士、特に官僚出身者のことはとてもかわいがっている様子だ。米価引き下げの頃など……

次の年(昭和62年)もきつかった。加藤紘一君も逃げてきたんだよ。夜明けに、加藤君とあと二人くらい官房長官室に逃げてきた。とてもじゃないが抑えきれない、僕らは部屋におれないって言うんだ。表向きは(引き下げの)反対の申し入れに来たんだけれど、実際は逃避してきた。それくらいきつかった。

……なさけないぞ加藤(笑)。この本にはその他にも人確法成立の裏話も語られているのでそのうち部報でご紹介しましょう。

 にしても、一応左翼の側の人間がこんなことを言ってはなんだが、今の日本を考えると「後藤田さえいてくれれば」なんて事態に突き進んでいるような気がしてならない。ネオコン連中のしたい放題を牽制するためには、やっぱり政権交代しかないでしょうや。一応、小沢も旧田中派ですし(いいのかオレもこんなこと言って)。後藤田も、安倍晋三内閣よりはずっと草葉の陰でよろこぶことであろう。

※福田康夫をどう評価しているかはもちろんこの書にはでてこない。お父さんの赳夫ははっきりと国家主義的な人ではあったが、後藤田と同様にダーティな能吏でもあったわけだ。“次の次の総理”とも噂される甥っ子のことは、はたしてどう思っているのだろう。

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