2008年 私が観たギャラリー ベスト10

コンサート編に引き続き、昨年より始めたギャラリーの展示「ベスト10」を挙げてみました。今年は未だかつてないほど画廊を巡り歩いていたような気がします。10点並べるだけでもかなり迷いました。

「2008年 私が観たギャラリー ベスト10」

1 「鴻池朋子 『私の作品は他者のもの』」 高橋コレクション 白金
2 「塩保朋子 - Cutting Insights」 SCAI
3 「町田久美 Snow Day」 西村画廊
4 「池田学展」 ミヅマアートギャラリー
5 「藤田桃子 - トネリコ・ユッグドラシル - 」 高橋コレクション 白金
6 「サラ・ジー展」 メゾンエルメス
7 「大西伸明 - 無明の輪郭 - 」 INAXギャラリー2
8 「大畑伸太郎 - さよなら三角」 YUKARI ART CONTEMPORARY
9 「桑島秀樹 - Vertical/Horizontal - 」 ラディウム
10 「雨宮庸介 ムチウチニューロン」 TWS渋谷
次点 「山下美幸 - ノンシャラン - 」 TSCA Kashiwa



目に焼き付くほどに眩しいガラスの狼の登場した鴻池展が不動の一位にランクインです。画廊に入った瞬間、暗室に浮遊するかの如く佇むその姿に心打たれたのは私だけではないでしょう。彼女の魅力を再確認し得るような展覧会でした。

2番に挙げた塩保展も、美しさという点においては決して鴻池展に見劣りするわけではありません。鴻池のオブジェが見せる美しさが破滅的だとしたら、塩保の紙のインスタレーションが瞬くそれは神秘的でした。またインスタレーション系として挙げたサラ・ジーも大変に魅力ある展示ではなかったでしょうか。チープな素材が空間の力も借り、一つの巨大な都市自然空間へと転化する様は圧巻の一言に尽きます。ついつい長居してしまいました。



町田、池田、そして藤田の各絵画展は、まさに描かれたものに漲る力感こそが全てです。ストイックな線描で艶やかでかつシュールな光景を生む町田に対し、細密でかつ濃厚な風景を一大パノラマに仕立てる池田、さらには妖気すら漂わせる大木に魂をこめる藤田と、どれもが唸らされるほどの高い完成度を誇っています。また町田久美に関しては、同画廊で偶然にお会いした画家本人とお話出来たのも良い思い出です。同時期に開催されていた高崎への展示も本個展がなければ行かなかったかもしれません。

浅草橋へ移転したレントゲンは相変わらずヒット続出です。上には桑島展だけを挙げましたが、その他にもカンノサカン、藤芳、佐藤良彦と見応えのある展示が続きました。またレントゲンの他、タロウナスの新スペース、そして近隣の両国へと移ったモモと、隅田川の東岸の新たなアートシーンに脚光が集まった一年ではなかったと思います。



残念ながらベスト10には入れませんでしたが、その他にもVOCAで印象深かった安田悠の登場したTWS本郷のグループ展、また見せることでは定評のあるMA2よりの「ゼロの庭」、さらには古美術と現代アートを融合させたオオタファインアーツの「アニマル・ガーデン」、そして走るレコードプレイヤーが断絶した音を紡ぐ無人島の「八木良太」なども深く印象に残りました。

展覧会編へと続きます。

*関連エントリ
2007年 私が観たギャラリー ベスト10
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2008年 私が聴いたコンサート ベスト5

年の瀬の恒例企画をはじめます。まずは音楽編から、独断と偏見によるコンサートのベスト5を挙げてみました。

「2008年 私が聴いたコンサート ベスト5」

1 コンポージアム2008 スティーヴ・ライヒの音楽 5/21
 ライヒ「18人の音楽家のための音楽」他 ライヒ/アンサンブルモデルン
2 ウィーン国立歌劇場 2008年来日公演 11/4
 ドニゼッティ「ロベルト・デヴェリュー」 グルベローヴァ/ハイダー
3 ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭2008 5/4
 シューベルト「ピアノソナタ第21番」 ぺヌティエ
4 NHK交響楽団第1634回定期公演(Aプロ) 12/7
 ストラヴィンスキー 「エディプス王」 デュトワ
5 東京交響楽団第560回定期演奏会 10/17
 チャイコフスキー「交響曲第5番」他 キタエンコ/モーザー(17日)



率直なところ、一期一会のグルベローヴァを差し置くのも悩まないわけではありませんが、やはり今年一番心に残ったのは、ホールを熱狂の渦に巻き込んだライヒの実演、「18人の音楽家のための音楽」でした。音楽が耳だけでなく体の全身を駆け巡るかのように運動し、意識と感覚を麻痺させたという経験は後にも先にもこの公演だけです。ともかくミニマルがあれほど活気に満ちたものだとは思いませんでした。あの興奮はまだ体の中にしっかりととどまっています。

『女王陛下』グルベローヴァが希有な歌声を披露したロベルトも、当然ながら素晴らしい公演であったのは言うまでもありません。女王としての威厳はもちろんのこと、一転しての人としての悲しみや苦しみを吐露するピアニッシモの美しさは言葉になりませんでした。また好きなドニゼッティをこれほどのキャスティングで聴くチャンスもそう滅多にないでしょう。演奏会方式ながら劇の展開にぐいぐいと引き込まれました。

年間のコンサートの回数こそ減っていますが、ゴールデンウィークの風物詩、LFJだけは別です。結果、10程度聴いた公演の中では、物静かな語り口がシューベルトの夢幻的な調べを醸し出したペヌティエのソロが最も印象に残りました。技術面では難も感じられましたが、それを通り越した『何か』をあの時間で共有出来たような気がします。生演奏の醍醐味がそこにありました。

4、5は国内オーケストラのコンサートです。デュトワ、キタエンコといった実力派指揮者たちの好演を楽しむことが出来ました。在京オケの定期は私がクラシックを聴きた原点でもあるので、毎年同じことを言っているような気もしますが、来年こそはもう少し回数を増やして接したいと思います。

最後になりましたが、素晴らしい音楽を聴かせて下さる全ての音楽家の方に改めて感謝申し上げたいと思います。本当にどうもありがとうございました。

*関連エントリ
2007年 私が聴いたコンサート ベスト5
2006年 私が聴いたコンサート ベスト5
2005年 私が聴いたコンサート ベスト5
2004年 私が聴いたコンサート ベスト3(2003年の「ベスト10」を含む。)
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今月の記録 2008年12月

ベスト10を挙げる前に整理しておきます。恒例の見聞録です。今月中に見て聞いた展示、コンサートをリストアップしてみました。

展覧会

「石内都展」 目黒区美術館
「丸紅コレクション展」 損保ジャパン東郷青児美術館
「蜷川実花展」 東京オペラシティアートギャラリー
「ネオ・トロピカリア - ブラジルの創造力」 東京都現代美術館
「森山大道 ミゲル・リオ=ブランコ 写真展」 東京都現代美術館
「山口薫 展」 世田谷美術館
「所蔵琳派展 - 装飾美の世界 - 」 MOA美術館
「ヴィルヘルム・ハンマースホイ」 国立西洋美術館
「フェルメール展」 東京都美術館
・「沖縄プリズム」 東京国立近代美術館

ギャラリー

「池田学展」 ミヅマアートギャラリー
「カンノサカン spread」 ラディウム
「杉田陽平 - プラトニック・ペインティング - 」 GALLERY MoMo Ryogoku
「八木良太 - 回路」 無人島プロダクション
「白 展」 MA2 Galley
「ダレン・アーモンド個展」 SCAI
「Something Sweet 4 Girls」  ギャラリー・ショウ
「小林孝亘 - 遠い光 - 」 西村画廊
「阿部未奈子展」 BASE GALLERY
「野又穫展 - SKYGLOW 遠景 - 」 高島屋東京店 美術画廊X

コンサート

「NHK交響楽団第1634回定期公演」 「ストラヴィンスキー:エディプス王」他 デュトワ(7日)

以下は、感想にまとめきれなかった展示です。前回と同じくコメント付きです。(石田徹也展は先月に鑑賞しました。また目黒の石内展は年明けに感想を書きます。)



「石田徹也展」@練馬区立美術館
 都内で全70点にも及ぶ石田作品を見ることなどもうしばらくないのではなかろうか。確かな写実に裏打ちされた具象的なモチーフがシュールに組み立てられることで、世の中の奥底に潜むドラマがあっけらかんとするほど見事につかみ取られている。やや斜めに社会を見つめた前半に反して、自身の生き様を丹念に振り返るような画業後半の作品が特に興味深い。余韻がずしりと残る展覧会だった。



「オン・ユア・ボディ」@東京都写真美術館
 少なくともこれまで見て来た新進作家シリーズではダントツに面白くなかった。失礼ながらもキュレーションに問題があったのではと思ってしまう。澤田や朝海などの力のある作家が気の毒。出来ることなら別の形で再度作品に接したい。



「沖縄プリズム」@東京国立近代美術館
 沖縄を見つめ、また当地で展開された多様なアートを多角的にひも解こうとする意欲的な展覧会。分かっていたとは言え、私には場所性が強すぎて消化しきれなかったが、こうした展示を世に問おうとする美術館の姿勢は買いたい。ただし沖縄の海はいつもあのようにして美しいのだろうか。もっと暗部や問題点へ切り込む作品があっても良かった。

1月の予定は年明けに廻します。
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