東響定期 「チャイコフスキー:交響曲第5番」他 キタエンコ

東京交響楽団 第560回定期演奏会

シューベルト イタリア風序曲第1番
ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲第1番
チャイコフスキー 交響曲第5番

指揮 ドミトリー・キタエンコ
チェロ ヨハネス・モーザー

2008/10/17 19:00 サントリーホールPブロック



キタエンコと言えば、一昨年前の「レニングラード」です。かの凄演で聴衆の度肝を抜いたキタエンコが、再び東京交響楽団の指揮台に立ちました。東響サントリー定期へ行ってきました。

いわゆる前座の、半ば飛ばしがちになりがちな一曲目からして、キタエンコ節が炸裂します。腰の据えたぶれないテンポがシューベルトの流麗な音楽をしっかりと支え、一転してのロッシーニ風のストレッタでは、重々しくなり過ぎない愉悦感のあるリズムが冴え渡りました。いつも指揮者への食らい付きの良い東響も、この日は一段と力が入っていたのではないでしょうか。これは名演の予感です。メインのチャイ5へ向けての期待がより高まるような内容でした。

ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲は、ソリストのモーザーを褒めるべきでしょう。馴染みのない曲なので多くは語れませんが、モーザーのいささか甘美でかつ、時に早くも老成したかのような儚さを思わせる音がホールを支配し、ショスタコーヴィチの細部に込み入ったこの曲を、いとも簡単に、どこか通俗名曲を奏でるかのようにして弾ききってしまいます。また技巧も確かです。私としてはショスタコーヴィチよりも、アンコールのバッハにこそ彼の持ち味が良く出ているような印象も受けましたが、若手のホープとも言えるソリストを迎えてのコンチェルトも聴き応え満点だったと言えるのではないでしょうか。またもう一点、首席ハミルによるホルンソロも特筆に値します。これほど朗々たる、また安定感の抜群なホルンソロを聴ける在京オーケストラなど、なかなか見当たりません。

休憩を挟んでのチャイ5は、何かとセンチメンタルな方向へ走りがちなチェイコフスキーの旋律美など吹っ飛ばすかのような、大変に重厚でかつ、音楽の構築感にも長けた名演でした。テンポはかのレニングラード同様、全く迷いのない堂々としたもので、それが時にロシアの大地を連想させるかのような荒涼たる響きをまとわりながら、まさしく重戦車のように行進していきます。今回はさすがに『突き』こそ登場しませんでしたが、渾身の力感漲るキタエンコの指揮は、そのままオーケストラ全体に覆いかぶさるかのようにして乗り移ったようです。ごりごりと底部を支えるコントラバス、ダンスを披露するかのように躍動的な木管群、そして息の長い金管と、言ってしまえばあともう一歩、音に厚みがあればと願うヴァイオリン群を除けば、それこそロシアの一流オーケストラでも聴いているかのような演奏が実現していました。単に「立派」と評してしまうにはあまりにも失礼でしょう。率直なところ、キタエンコは前回のレニングラードにて初めて見知った指揮者でしたが、今これほど巨匠然したチャイコフスキーを聴かせる指揮者は他にいないのではないでしょうか。さらに言ってしまえば、チャイコフスキーはかなり苦手な作曲家の一人ですが、まさか第4楽章で涙腺が緩むとは思いもよりません。サラッと旋律をなぞるような、流麗なチャイコフスキーを望む方には全く受け付けない演奏ではあったかもしれませんが、私は断然に支持したいと思います。

「プロコフィエフ:交響曲全集/キタエンコ/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団」

キタエンコは来年3月、ウィーン放送響との来日が予定されていますが、東京交響楽団との次回共演のアナウンスがありません。是非望みたいところです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (さちえ)
2008-10-22 23:09:21
チャイ5は第1楽章冒頭クラリネットで指揮者のカラーがいきなり出ますよね。
ムーティが大変重たくてずどーんという雰囲気なので意外でした。
キタエンコはどうでしたか?
>第4楽章で涙腺が緩む
うわー、そうでしたか!
わたしはいつも第2楽章が危ないです。
チャイコは下手すると甘ったるくてセンチメンタルな部分だけが強調されがちですが、それだけに指揮者の個性も出しやすいのかもしれませんね。
ウィーン放送響、聴きたくなりました!
明日はムーティの「コジ」に行ってきます!
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-10-23 20:32:41
さちえさんこんばんは。

>第1楽章冒頭クラリネットで指揮者のカラー

そうですね。ムーティは意外に重い感じでしたか。
キタエンコは、何やらこれから大嵐が来るぞとでも言うような、ちょっと荒涼とした雰囲気でした。

>センチメンタルな部分だけが強調されがち

同感です。
そうでない部分をしっかりと引き出せる指揮者って少ないですよね。
キタエンコはチャイコの曲の構成感を堂々と示していました。

コジの真っ最中でしょうか?ご感想楽しみです!
 
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