「鴻池朋子 『私の作品は他者のもの』」 高橋コレクション 白金

高橋コレクション 白金港区白金3-1-15 2階)
「鴻池朋子 『私の作品は他者のもの』」
1/19-3/1



この美しさに付け加える言葉は殆どありません。「みみお」シリーズも印象深い、鴻池朋子の個展です。

ともかく圧巻なのは、表題のインスタレーション、「私の作品は他者(ひと)のもの」(2006)でしょう。赤いロープが縦横無尽に駆ける空間に閉じ込められるかのようにして佇んでいるのは、眩しいばかりに煌めくガラスの毛皮を纏った一匹の狼です。口からは生々しいガラスの唾液を垂らし、尻尾を靡かせながら、その立派な体躯を誇示するかのようにして悠然と構えています。光り輝くライトを浴びて、暗がりにぽっかりと浮かび上がるその姿は、まさに宝石で出来た狼の彫像とも言えるでしょう。体を包む一種の光の粒を床一面に振り落として、実に稀有な美の空間を構築しています。寒々しい雪山の最奥部にて、ただ一匹、孤高に生きる狼のイメージです。目に焼き付きました。



同じく狼をモチーフとする作品では、大作の鉛筆画、「knifer life」(2000-2001)も見逃せません。9面のパネルを繋げた、横8メートル超にも及ぶ大画面に、無数に群がって渦巻くナイフと狼が、脚だけを見せた半身の少女へまとわりつくという不気味な光景が描かれています。言い換えれば、一本一本のナイフがまるで磁石のように引っ付いてチェーン状に繋がり、魂をもって、雄叫びをあげて飛び跳ねるかのような狼と一緒に少女を襲ってもいるとも出来るのではないでしょうか。その迫力は並大抵ではありませんでした。

白金に雪の狼が舞い降りました。3月1日までの開催です。強力におすすめします。

「狐媚記/澁澤龍彦/平凡社」
コメント ( 16 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (panda)
2008-02-10 05:55:24
鴻池朋子の描く孤高の肖像を紹介するのに
最も相応しい文章を書く方ですね。
東京の雪さえ狼の住処に相応しくなる。
(私は山口晃氏を観に神楽坂のコレクションへ)
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-11 00:27:25
pandaさんこんばんは。
ありがたいお言葉をありがとうございます。
画廊入口のドアを開けると、まさに息をのむような美の世界が目に飛び込んで来たので驚きました。
今までの鴻池作品の中で最も衝撃的な『出会い』だったかもしれません。

>私は山口晃氏を観に神楽坂のコレクションへ

神楽坂に山口さんのコレクションが出ておりましたか。
今度是非、拝見してきたいと思います。
 
 
 
Unknown (さちえ)
2008-02-11 02:54:13
今年のミズマからの年賀状が鴻池さんのステキな狼の画でした。
一度まとめて作品を見たいと思ってたので、白金まで行ってみようかな。
もちろん神楽坂も行かなきゃですが…(2点しか出してないそうです)
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-12 00:04:12
さちえさんこんばんは。

>今年のミズマからの年賀状が鴻池さんのステキな狼の画でした。

それは素晴らしいですね。今回は、鴻池さん一流の美学を存分に楽しめるような展示です。お時間があれば是非!

>もちろん神楽坂も行かなきゃですが

2点でしたか…。会期末までにはなんとか…。

 
 
 
Unknown (きのこ)
2008-02-13 12:55:50
はろるどさんのブログで度々
新たな気になる作家さんを教えてもらっています。

鴻池朋子さんの作品、この目で見たくなりました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-14 01:42:30
きのこさんこんばんは。
コメント有難う御座います。

鴻池さんの今度の展示はおすすめです。
背筋がゾクゾクするような美しさを見ることが出来ました。

画廊へお越しの際は地図をご参照下さい。
場所が少し入り組んでおりますので…。
 
 
 
世界の案内人 (mizdesign)
2008-02-20 13:11:38
こんにちは。
鴻池さんは「世界の案内人」だと思いました。
その世界は、濃く、深く、そして美しい。
そんな世界を行き来する作家の圧倒的なパワー!
バルコニーに置いた足のオブジェも含めて満喫しました。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-22 00:59:54
mizdesignさんこんばんは。

>鴻池さんは「世界の案内人」だと思いました。
その世界は、濃く、深く、そして美しい

「世界の案内人」、素敵な言葉ですね。
あのきらびやかな美しさはまだ脳裏に焼き付いています。

>バルコニーに置いた足のオブジェも含めて満喫

これもポイント高いですよね。
何の変哲もないビルなので、良い目印になりました。
 
 
 
Unknown (あおひー)
2008-02-28 00:09:15
こんばんわ。
TBありがとうございました。

今回、あまり内容をリサーチせずに鴻池さんのお名前だけで行ってみました。

しかし、あのオオカミなんで6本足なんでしょうね。
6本指だと神や悪魔と言った位置づけが出来るのですが。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-02-28 01:01:03
あおひーさんこんばんは。

>しかし、あのオオカミなんで6本足なんでしょうね。
6本指だと神や悪魔と言った位置づけが出来るのですが。

そうなのですよね。
堂々と、それでいて不気味に見える様も、その6本足によるところが多いのかなとは思うのですが…。
指と同じ位置付けなのでしょうか。絵画の方もそうですよね。
不思議です。
 
 
 
行ってよかった (テツ)
2008-03-01 07:59:49
はろるどさんの強力なプッシュにおされ、
会期終了直前の金曜日、観にいきました。

MOTアニュアル2005で惹きつけられた作家ですが、
今回の個展、はりつめた空気の中に、
凍れる詩情を感じました。

レビューを書こうと思いますが、
はろるどさんの詩的ですばらしいレビューを読むと
もう付け加える言葉がありません。

会期中早目の熱いレポート、感謝です。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-03-01 22:06:01
テツさんこんばんは。
お褒めの言葉恐縮です。どうもありがとうございます。

鴻池さんの展示は本当に見事でしたね。
オープニングにこれ以上ない内容だったのではないでしょうか。張り詰めた空気と仰られるのに、同感です。まさに息を呑むようでしたね。

>会期中早目の熱いレポート

これからも頑張ります!
 
 
 
Unknown (panda)
2008-03-02 21:42:08
再度..私もテツさんと同じ最終日
やはり凄く魅力的な批評なので行く事にしました。
批評を見て味わうギャラリーもオツですね。
 私は作品に潜む別の角度から鑑賞。
硝子と氷の世界の内に流れる血。
狼、ナイフ、少女..
「少女」だった頃はこういう感情を孕むのが
なんだかすごくわかる気がするのです。
鴻池さんが「森に鳴り響くホルンの音」であることも。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-03-03 00:33:13
pandaさんこんばんは。
拙記事が少しでもお役に立てたようで嬉しいです。
また流れる血とは素晴らしい表現ですね。
ただし残念ながら、少女の感情だけは男性の私にはどうしても汲み取ることが出来ません。あの怜悧な感性というものには独得なものを感じますが…。

>ホルンの音

何らかの物語、また神話を呼び寄せる一種の合図でしょうか。
森の中で、彼ら彼女らによる何か禁断の神秘的な邂逅を覗き込んでいるような気もしました。
 
 
 
TBさせていただきました (テツ)
2008-03-11 13:58:00
はろるどさんの名文に付け加えるのも野暮なんですが・・・
 
 
 
Unknown (はろるど)
2008-03-11 22:20:14
テツさんこんばんは。
名文などとんでもないです!TBありがとうございました。
それにしても本当に見事な展示でしたよね。
 
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