今日は淳の心の中を覗く機会を得たようだ。
そこは暗く静かなところで、彼は一人きりで座っていた。
元来の彼が彼らしく居られる場所。
しかし心の中は微かにざわめき、凪いだ海に小さなさざ波が立つように、その襞(ヒダ)は揺らいでいた。
煩わしく厭わしい、しかしどうしても惹かれるような、言葉に出来ないような感情であった。
それは幽暗な世界の中に現れた、一点の鍵穴のような光明であった。
人生には、予測出来ないことがある。
人の心は、感情は、一体どのように生まれ来るのであろうか。
何かのきっかけで、変わることはあるのだろうか。
そして彼は仮面を被る。
さあ、学校へ行く時間だ。
「先輩、おはようございます~!」「おはようございます!」
後輩の女の子達が、淳と柳、そして健太先輩に挨拶をした。
「うん、おはよう」「ハ~イ?」
こちらを見て微笑む彼女らの中で、一人だけそっぽを向いた後輩が居た。
柳はそれに気がついて、淳にそのことを匂わしたが、彼は言葉を濁した。
あの全面対決以降、赤山雪とは冷戦が続いている。
それまで互いに積もった悪感情が爆発した後は、変に繕う必要もないくらい彼女とは疎遠になった。
学科こそ同じだが、二人が親しい友人のメンツはまるで違っていたし、
時たま顔を合わせることがあっても、その接点は交わることは無かった。
二人は背中合わせの対と対。
決して振り向くことは無かった。
ある日。
廊下の真ん中で、健太先輩と佐藤広隆が大きな声で言い争っていた。
内容を聞く限り、些細なことが発端の諍いだった。
健太先輩が挨拶の時に佐藤の肩を叩いた力加減が強すぎて佐藤が暴力は止めてくれと言ったのが原因で揉めている‥
というような、瑣末で小さな言い争いだった。
淳は溜息を一つ吐き、その暴風雨の中に突っ込んで行く。
「なぜそういつも喧嘩ばかりするんですか。喧嘩するほどのことでもないでしょう?」
健太先輩をなだめ、佐藤に先輩を敬うよう諭し、その場の喧騒を収める。
二人は和解することは無かったが、とりあえずその喧嘩は終わり、彼らは反対方向へ歩いて行った。
廊下はしばし野次馬でざわめくばかりになった。
柳が苦笑しながら淳に言う。
「お前、毎回あの二人止めんの疲れない?」
といっても、止めれるのはお前しか居ないけど、と柳は付け加えて笑った。
疲れるが、毎回ああなのだからしかたがない。
「騒がしいのを見るよりマシだろ」
そうは言ったものの、やはり疲労感は強く残った。
すると廊下の向こう側から、今度は女子達が言い争う声が聞こえて来た。
彼女らは、とある授業のレポート発表は誰がやるかという問題で揉めているようだった。
自分は資料集めと分析をどれくらいやったとか、やってないあなたが発表する分担を担うべきだとか、
損得勘定見え見えの諍いだ。
途中赤山が仲裁に入るが、
すぐに言い返されて、
彼女は黙り込んだ。
柳が女の戦いを見てケラケラ笑う横で、
淳はいつか見たような彼女の表情が気になった。
そして次の瞬間、彼女はニコッと笑いこう言ったのだった。
「私がやるから」
赤山は発表は自分がやると言った。実は資料分析もそのレポート整理も彼女が大半を担ったのだが、
その分内容は頭に入っているから大丈夫と言って、その場を収めた。
「喧嘩するほどのことじゃないでしょう?」
諍いは幕を閉じた。
二人の女学生はにこやかに、赤山に手を振って去って行く。
二人が去ると、彼女は乾いた笑いを引っ込めて、そのままパッと踵を返した。
共に一部始終を見ていた柳が、健太先輩と佐藤みたいだなと笑う。
そして淳に向かって、柳はこう言ったのだった。
「んじゃ、赤山ちゃんがお前の役?」
赤山と自分が同じポジション‥
淳はそれは違うと否定した。
「誰だってああするだろ。成績落としたくないなら、自分でやるのがベストだろ?」
またまた~と柳は笑った。そういう面もそっくりだと。
赤山雪と淳が冷戦状態であるということは、柳も重々承知しているようだった。
廊下で会った時や構内で出くわした時、二人がそっぽを向く度に、互いに同じ行動をしていると彼は指摘した。
もういい加減和解しろよ、と柳はいつものふざけた口調で言ったが、
淳は取り合わなかった。
ふと、振り返って彼女の後ろ姿を追った。
自分と、赤山が似ている‥?
そんなことはありえない。
程度の低い冗談に過ぎないと、淳は再び背を向けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<淳>扉の開いた日(上)でした。
これは本家版3部のプロローグ部分に当たります。
淳と雪が、それぞれの喧嘩を止めるときに、「喧嘩するほどのことじゃない」と同じ台詞を言っていますね!
柳先輩の台詞を借りるなら、「キャッ!ピッタリだね!よっ、首席と次席!」ですねw
<淳>扉の開いた日(下)へ続きます。
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そこは暗く静かなところで、彼は一人きりで座っていた。
元来の彼が彼らしく居られる場所。
しかし心の中は微かにざわめき、凪いだ海に小さなさざ波が立つように、その襞(ヒダ)は揺らいでいた。
煩わしく厭わしい、しかしどうしても惹かれるような、言葉に出来ないような感情であった。
それは幽暗な世界の中に現れた、一点の鍵穴のような光明であった。
人生には、予測出来ないことがある。
人の心は、感情は、一体どのように生まれ来るのであろうか。
何かのきっかけで、変わることはあるのだろうか。
そして彼は仮面を被る。
さあ、学校へ行く時間だ。
「先輩、おはようございます~!」「おはようございます!」
後輩の女の子達が、淳と柳、そして健太先輩に挨拶をした。
「うん、おはよう」「ハ~イ?」
こちらを見て微笑む彼女らの中で、一人だけそっぽを向いた後輩が居た。
柳はそれに気がついて、淳にそのことを匂わしたが、彼は言葉を濁した。
あの全面対決以降、赤山雪とは冷戦が続いている。
それまで互いに積もった悪感情が爆発した後は、変に繕う必要もないくらい彼女とは疎遠になった。
学科こそ同じだが、二人が親しい友人のメンツはまるで違っていたし、
時たま顔を合わせることがあっても、その接点は交わることは無かった。
二人は背中合わせの対と対。
決して振り向くことは無かった。
ある日。
廊下の真ん中で、健太先輩と佐藤広隆が大きな声で言い争っていた。
内容を聞く限り、些細なことが発端の諍いだった。
健太先輩が挨拶の時に佐藤の肩を叩いた力加減が強すぎて佐藤が暴力は止めてくれと言ったのが原因で揉めている‥
というような、瑣末で小さな言い争いだった。
淳は溜息を一つ吐き、その暴風雨の中に突っ込んで行く。
「なぜそういつも喧嘩ばかりするんですか。喧嘩するほどのことでもないでしょう?」
健太先輩をなだめ、佐藤に先輩を敬うよう諭し、その場の喧騒を収める。
二人は和解することは無かったが、とりあえずその喧嘩は終わり、彼らは反対方向へ歩いて行った。
廊下はしばし野次馬でざわめくばかりになった。
柳が苦笑しながら淳に言う。
「お前、毎回あの二人止めんの疲れない?」
といっても、止めれるのはお前しか居ないけど、と柳は付け加えて笑った。
疲れるが、毎回ああなのだからしかたがない。
「騒がしいのを見るよりマシだろ」
そうは言ったものの、やはり疲労感は強く残った。
すると廊下の向こう側から、今度は女子達が言い争う声が聞こえて来た。
彼女らは、とある授業のレポート発表は誰がやるかという問題で揉めているようだった。
自分は資料集めと分析をどれくらいやったとか、やってないあなたが発表する分担を担うべきだとか、
損得勘定見え見えの諍いだ。
途中赤山が仲裁に入るが、
すぐに言い返されて、
彼女は黙り込んだ。
柳が女の戦いを見てケラケラ笑う横で、
淳はいつか見たような彼女の表情が気になった。
そして次の瞬間、彼女はニコッと笑いこう言ったのだった。
「私がやるから」
赤山は発表は自分がやると言った。実は資料分析もそのレポート整理も彼女が大半を担ったのだが、
その分内容は頭に入っているから大丈夫と言って、その場を収めた。
「喧嘩するほどのことじゃないでしょう?」
諍いは幕を閉じた。
二人の女学生はにこやかに、赤山に手を振って去って行く。
二人が去ると、彼女は乾いた笑いを引っ込めて、そのままパッと踵を返した。
共に一部始終を見ていた柳が、健太先輩と佐藤みたいだなと笑う。
そして淳に向かって、柳はこう言ったのだった。
「んじゃ、赤山ちゃんがお前の役?」
赤山と自分が同じポジション‥
淳はそれは違うと否定した。
「誰だってああするだろ。成績落としたくないなら、自分でやるのがベストだろ?」
またまた~と柳は笑った。そういう面もそっくりだと。
赤山雪と淳が冷戦状態であるということは、柳も重々承知しているようだった。
廊下で会った時や構内で出くわした時、二人がそっぽを向く度に、互いに同じ行動をしていると彼は指摘した。
もういい加減和解しろよ、と柳はいつものふざけた口調で言ったが、
淳は取り合わなかった。
ふと、振り返って彼女の後ろ姿を追った。
自分と、赤山が似ている‥?
そんなことはありえない。
程度の低い冗談に過ぎないと、淳は再び背を向けた。
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<淳>扉の開いた日(上)でした。
これは本家版3部のプロローグ部分に当たります。
淳と雪が、それぞれの喧嘩を止めるときに、「喧嘩するほどのことじゃない」と同じ台詞を言っていますね!
柳先輩の台詞を借りるなら、「キャッ!ピッタリだね!よっ、首席と次席!」ですねw
<淳>扉の開いた日(下)へ続きます。
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そもそも、何で先輩が急接近してきたのか?は、雪ちゃんもナゾに思ってるワケだし。
そうそう。こんな場面ありましたよね。
こんな一コマも実は見逃せない。小さな出来事が少しずつ先輩の中に蓄積されてったんですよね、きっと。
日本語版の展開までなら、とりあえず恋の進展を楽しむ方に気を取られて、さーさーこの後どーなる?!って、恋愛マンガモードにワクワクしちゃうトコなんだけど。
このマンガ、上手い具合に緩急つけてくるので、じれったいけど、その辺も魅力なんでしょうかね。んー、でもじれったい。いや、こーゆー過去の細かい描写を見るにつけ、少しずつ納得しながら読み進めるんだ。でもじれったい。
の繰り返し(笑)
そうそう、このじれったさも魅力なんですよね!
時系列をゴチャゴチャにすることで、読者もトラップにはめられているってのをどこかで読んだ気がします!
普通漫画だと、好きになる瞬間って何か特別なキッカケを描くと思うんですが、この漫画は本当にリアルに作ってあるというかなんというか、日常のほんの些細な瞬間瞬間を少しずつ蓄積していって、そして知らぬ間に気がついている、という展開は本当に斜め上をいってますよねー!
スンキさん、恐ろしい子‥!という感じです。
まだまだ本家版も過去と現在をおりまぜて展開して行くんでしょうね!
楽しみに待ちましょう~♪
思いつきでエピソードを後から加えるコトはできると思うんだけど、流れの中で見落としがちな場面でさり気なく、でもちゃんとずっと前のコマで暗示してるんですよね。
そんな展開が来るなんて知らないから呑気にツラツラ読んでたら、結局何度も戻っては読み返してみたり。
意図的と言うには、あまりに計算され尽くしてて、ホント恐ろしい構成力です。
さらには、韓国語版と英文のサイトを行き来してるウチに、日本語版ではまだ明かされてないエピソードまで多少なりとも知ってしまってるので、今自分がどの視点にいるのか分からなくなる時があります。
アチラを読んでなかったら、ココでの話題はちんぷんかんぷんなのかもしれません。
自分がどこまで知っているのかさえ分からないこの感覚。
そういう意味でもホント私にとって新しいマンガです。
すごくハマっています!
日本版のマンガでは分かりにくい部分もあったのですが、このブログで解決!
すごく分かりやすく解説して下さって本当感謝です!
韓国版にしかない内容も書いてくださってありがとうございますU+2661
続きが気になるー!
更新待ってますU+2661
ガラスの仮面通じてよかったです(笑)
いや~本当この漫画の構成力には舌を巻きますよね!
日本の連載漫画のような物語の組み立て方ではなくて、もう予めラストまで決めてあるからこんなにまとまってるんでしょうね。
確かに今自分がどこを読んでて、そしてどこまで知ってるのか分からなくなります‥。
一回読んだだけではとてもじゃないけど理解出来ないですよね~。
本当すごい漫画だと思います。
語り合えて本当に嬉しいです!
またちょびこさんの色々な解釈も教えて下さいね~!
こんばんは!管理人のYukkanenと申します。
コメントありがとうございます!
そんな風に言って頂けて嬉しいです♪
日本でチーズインザトラップを扱っているサイトはまだまだ少ないので、良ければここを使って盛り上がっていきましょう!(^0^)
コメントは本当に励みになります~♪
またいつでも遊びに来て下さいね!
ちょびこさん、私にもコメントくださってありがとうございます…☆
わたし、この〈淳〉扉を開いた日のタイトルだけ見て、今日一日楽しみを引っ張ってましたよ…笑
ちびちびと楽しみたいと言っておきながら、英=日で最新話全部見ちゃいました…f^_^;
ちらっと試した誘惑に勝てず…汗
(静コワイ…(´Д` ))
英訳は翻訳機選びが重要ですね!
会話の訳ではないので、楽しみも残るからそこはよいですね(私的にですが)
でも、基本はちびちびと楽しむ!です…。うふふ☆
チートラって言うんですね!知りませんでした。お菓子みたいな。笑
現地の方達もチイントゥ??みたいな言い方してますよね~?
イメージ映像みたいのとか作ってる方とかいたり!アツ~い!
私は残念な実写版を見てしまいました´д` ;
台無し…苦笑
(下)も楽しみにしています…☆
こんばんは!このブログもついにプロローグまで来ました。楽しみにしていて下さって本当に嬉しいです~!
ちょびこさんの教えて下さった英訳サイトは確かに完全ネタバレというよりは要約なので、楽しみが残っていいですよね♪
知りたいけど、楽しみも残したい、という気持ち分かります~!
私も本家版がアップされるのを待ち望んでいるくせに、読み終わった後「これでまた最終回に一話近づいた‥」と悲しくなってます(笑)
あ、実写版私も見ました!
雪はともかく先輩が‥先輩が‥orz
本当にドラマ化する時は気合入れてキャスト選んでほしいですね。。
またいらして下さい♪
実写化するなら誰々がイイ!ってネタは見たコトありますが、何か面白いのあるんですか?
気になりまーす。
おそらくこれのことだと‥↓
http://www.youtube.co/watch?v=0uzLy7J_UGg
実写版てこのMusic Videoのことですよね?!>りんごさん
この曲のPVみたいな形で作られたもので、漫画のストーリーとは関係ありませんって作者さんのとこに書かれてました!
何度見てもちょっと笑ってしまう‥。