Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

えぐられた傷(2)

2013-10-05 01:00:00 | 雪3年2部(塾にて~告白)
雪と亮は随分と歩いたのち、街灯の下で立ち止まった。



雪は強く掴まれた手首が痛くて、もう一方の手でずっとさすっていた。

亮は雪に背を向けたまま、黙りこくっている。



雪はさっきの男は一体何なんだと、当惑した様子で亮に質問した。

同級生だよと苦しげに答える亮に、雪は真っ向意見した。

「同級生なのにどうしてあんなこと言うんですか?!おかしいですよ!」



「あれは訴えることも出来るレベルの暴言です!どうして何も言い返さなかったんですか?!」

そう言った雪に、亮は嘲りを浮かべた。

「は? お前に言われたかねーよ。さっさとお家に帰るんだな」



雪は図星を突かれて、顔を赤くした。

確かにいつも何も言えないのは自分の方だ。



けれど‥。



雪は亮に向かって自分の思うところを述べた。

「あなたが私のことをもどかしく思っているのはわかります。

でも私なら、あんなこと言われて黙ってるだけじゃなかったと思います。あまりにも酷すぎますよ!」




言葉を続けようとする雪に、亮は声を荒らげて反論した。

「オレだって分かってらぁ!!でも何て言い返しゃいいんだよ?!」



「オレの手がイカレてるのは事実だってのに!!」

言い返す言葉がないじゃないかと、亮の叫びは路地裏にこだました。


雪は脳裏に、言われなければ気づかないほど普通に手を使い生活していた亮の姿が思い浮かんだ。

  


雪は「詳しい事情はよく分かりませんけど‥」と前置きをしてから、オズオズと自分の意見を述べた。

「この前なんか子どもたちと両手で楽しそうに遊んでたじゃないですか。

テストの採点もそうだし、掃除だって、接客業だって‥」







「それで?」





亮は静かに口を開いた。

その瞳の中には、手負いの獣のような烈しい炎と哀しみが燃えていた。

「ピアノが弾けないのに、それに何の意味がある?」





雪はその言葉と表情を見て、ハッと気がついた。



‥今私は一番言ってはいけないことを口にした、と。



亮は左手を広げ、雪に詰め寄った。

「教えてやろうか?どう頑張ったって突然力が入らなくなるんだ。

リズムもクソもねぇ、どう足掻こうが弾けやしねぇ」




口にすればするほど、残酷な現実が亮を苦しめる。

心の中に、叫び続ける自分が居る。

「お前にこのクソみてぇな気分が分かるか?」




”ピアノが弾けない” この事実は輝かしい未来への扉をいとも簡単に閉ざした。

叫んでも叫んでも消えない悔恨。



指が動かなくなったあの日から、亮の目の前は真っ暗になった。

それは今も同じだ。




「教えてくれよ、」と亮は雪を見下ろしながら言った。

いたたまれない表情をしながら俯いた彼女を、とことん傷つけてやりたい気分だった。

「この手で何が出来るのか、教えてくれよ。採点?掃除?」



「もっといいもんねーのかよ、なぁ」


雪は己のした発言を恥じていた。

彼の抱える闇を理解もせずに、軽はずみなことを言ってしまったと。

「‥出しゃばりすぎたみたいです。すみません‥」



そう言い終わらない内に、亮はまたしつこく聞いていた。

いいから教えてくれよと、もっといいものないのかよ、と。









しかし雪の心にも、燻るものがあった。

「いい加減にして下さい!」と、雪は大きな声で反論した。

ネチネチと八つ当たりしてくる亮に、いい加減腹が立っていた。

「他人に言いたいことも言えずにやられてばかりの私と、

自分のこと諦めて何も出来ないって言う河村氏と!」




「どちらの方がもどかしいのか、私には判断出来ません」




憐憫を誘うような亮の態度に、雪はつい腹が立った。

それは幼い頃から甘えることが許されなかった彼女にとって、気に障る言動だった。

誰しもが悩みを抱え、それを表に出さず歯を食いしばって暮らしているのだ。

雪は八つ当たりされた悔しさも相まって、そのまま亮に背を向けた。





亮は足早に去って行く雪の後ろ姿をしばらく呆然と追っていたが、

やがて頭を抱えて俯いた。



畜生、と亮の声が辺りに響く。

空は暗く、月の光も見えなかった。








同じ頃、ここは都内のとあるバー。

男性二人が歓談している。会話内容は、同級生の西条和夫のTwitterについてだった。



二人は携帯電話の画面を覗き込み、西条のつぶやきを読んでいた。

SKKの近くで河村亮発見なうwwwww
話しかけようとしたらそのまま逃げられたヨ?隣のは彼女か?wwwwww



男性二人は添付された画像を見て、久々に目にした河村亮らしき人物の姿に湧いた。

すると後ろから一人の男が近づいて来て、「俺にも見せてくれよ」と言ったので携帯を渡した。



男は画面をじっと見ていた。

そこには河村亮が女性の手を引っ張って、どこかへ歩いて行くところを撮ったらしい画像が表示されていた。



歓談している男性二人は、これが本当に河村亮かどうかは定かではないという話をしていた。

そこら辺にいたそれっぽいヤツを適当に写しただけじゃないか、と。

結局西条の情報は信じるに信じれない、という結論に達して彼らは笑った。


携帯電話を手にしている男は、そこに写っている女性の髪を凝視していた。



見覚えのある、あの髪飾り。

脳裏にそれをつけた彼女の姿が思い浮かんだ。













青田淳はその画像を凝視しながら、それが彼らであることを確信した。

そして亮が今どこで働いているかを、知る必要があると思った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<えぐられた傷(2)>でした。

最後に出て来たバー、セレブが集う感じですね~。

B高の同窓会かなんかでしょうか、ただ単に高校時代の仲間が集ったのかな?

さすが良家子女の集まるB高‥。

先輩、雪もこういうとこ連れてってあげて~



次回は<エクセル対決>です。

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えぐられた傷(1)

2013-10-04 01:00:00 | 雪3年2部(塾にて~告白)
「B高で一緒だった西条和夫だよ」



雪と亮の前に現れた男は、自らの名を名乗った。

名前を言われても亮は最初ピンと来なかったが、蘇ってくる記憶があった。

高校生だった頃、同じクラスだったのだ。脳裏にぼんやりとあの頃の顔が浮かんだ。





「ああ、西条和夫か!」



ようやくピンときた亮に、西条は少し皮肉ってみせた。

「まぁ、高校中退した奴が同級生のことなんて覚えてるはずもないよな?」



チクリと刺された刺。

亮は西条の顔を凝視しながら固まった。



西条は亮が地方に行っていると思っていたため、ここで会ったことを意外に感じていた。

そしてかつてあれだけイケていた亮が、今はどうしてこんなにダサくなったのかと残念そうに溜息を吐いた。

チラ、と雪の方を見る。

「ま、そんなんでも女は連れてるのな」



目を丸くした雪に、西条は「ねぇコイツと付き合ってんの?」と聞いてきた。

当然雪は困惑する。「コイツと居たって何の得もないだろうに」と続ける西条の言葉にも戸惑った。




少し言葉の過ぎた西条に、亮は幾分キツメに腕を押した。

キャンキャンと弱い犬が鳴くようによく喋り、文句を垂れるところは変わっていない。

「てめーぶっ殺されてぇのか?」



そう凄んだ亮に対して、西条はお前こそ何も変わってねぇなと幾分ビビりながら言った。

「俺を殴るのはいいけどちゃんと金はあるのか?」



金もクソもねぇか、と西条は暴言を吐いたが、亮は拳を握って怒りを堪えた。



それを見て西条はほくそ笑み、落ち着けよと言って小さく息を吐いた。

「青田だってもうお前との縁は切ったみたいだし、静かに生きるんだな。

興奮したって何もいいことないぜ?」




雪は先輩の名前が出て来たことに幾分驚いて目を見開いたのだが、

亮はそんな雪にも気付かないほど、何も言えずその場に佇んでいた。



西条はニヤリと笑った。

亮が言い返せないことに、味をしめた表情だった。






西条は亮に、地方まで行って何をしてたのかと聞いてきた。

そして意地悪そうに「ピアノでも弾いてたのか?」と言うと、亮の肩がピクッと動いた。



西条の暴言は止まらない。

「田植えしてる横でベートーベンでも弾いちゃったりなんかして?投げ銭でも稼いで?」



雪は自分が口を挟むことではないと思いながらも、西条の口の酷さにドン引きだった。

そして次に彼が口に出した言葉は、明らかに常軌を逸していた。

「あ!お前の手、イカれちまったんだっけ?」




亮の視線が泳ぐ。

心の奥にこびりつく、自分の悔恨の縁が覗く‥。




さすがにこれには雪も黙っていられず、「ちょっと!」と思わず声を掛けた。



西条は悪い悪いとわざとらしく頭を掻いて見せると、卒業して随分経ってるもんだから大目に見てくれとニヤついた。


亮はそんな西条を、明らかに今までと違う目つきで睨んだ。



瞳の中に、憎しみの炎が揺れている。

西条は尋常ではない亮の表情に、冷や汗をかきながら幾分たじろいだ。



殴られる、という本能が彼を後ずさらせる。

亮の手が伸びた。

「このクソ野郎!!」



西条が腕で顔をホールドする。

「ひいっ!」



しかし亮はそのまま雪の手を取ると、

「行くぞ!」と行って反対方向へ歩き出した。



振り返ることなく、二人は足早にその場から去って行った。









そんな二人を見ながら、西条は決まり悪そうに居住まいを正した。



そしてポケットから携帯を取り出すと、亮の後ろ姿に向けてカメラを向けた。

高校時代、天才と褒めそやされていた謂わばヒーローが、今やあの落ちぶれたナリだったのだ。

そんな河村亮の姿を見過ごすわけにはいかないと、西条はシャッターを切った。



ピロリン、という音と共に画像は保存された。

西条は自分の、Twitterアカウントを開く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<えぐられた傷(1)>でした。

西条和夫‥なんとなく横山と似た匂いを感じますね。

友達になれそうな二人‥。

二人共ニヤニヤ。
  


次回は<えぐられた傷(2)>です。

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ちょっと一杯

2013-10-03 01:00:00 | 雪3年2部(塾にて~告白)
今日も事務補助のアルバイトが終わった後、雪はSKK学院塾に居た。

授業が始まるまでの間、なんとなくまとめた髪の毛が気になって、何度も頭に手をやった。



先日は聡美がまとめてくれたが、今日雪は自力でやってみたのだ。

すると思いの外時間がかかり、危うく事務補助のバイトに遅刻するところだった。

遠藤さんは今日特に機嫌が悪く、就業時間ギリギリに事務室に着いた雪にガンを飛ばしてきた‥。



せっかく頑張ってこの髪留めを使った日に限って、先輩は来なかった。

雪は幾分落胆した気持ちで空を見上げた‥。












授業が始まり、塾講師が今日は二人一組で対話の練習をすると言った。

近くに居る人とペアを組んでと言われ、雪が周りを見回していると、一人の女の子が声を掛けてきた。

「ねぇ、あたしと組まない?」



彼女は先日の自己紹介で雪と同い年だと知ったせいか、最初からタメ口だった。

言われるがまま机を寄せる雪に向かって、発音が苦手だけどよろしくね~と彼女は軽い口調で言った。



雪は彼女の名前こそ知らなかったが、やけに目立つ格好をしているので印象は深かった。

今日も上目遣いでこちらを眺めてくる彼女の、豊満な胸元が気になって雪は目のやり場に困った。




指示された教科書のページを雪が開いていると、突然彼女は背を反らして雪の髪の毛を覗き込んだ。

「あれぇ~?!その髪留めあたしが買おうとしてたやつと全く一緒だ~~!!」



突然の大きな声に、教室に居るほとんどの学生がこちらをジロジロと見て来た。

雪は愛想笑いを返しながらも、心中穏やかでは居られなかった。

ひぇぇ やめてくれ!!



そんな雪に彼女は自己紹介をした。近藤みゆき、という名だった。

雪が「私は赤山雪、よろしく‥」と言うやいなや、

近藤みゆきは大きな声で「うわぁぁ!超可愛い名前だね~~!!」とはしゃぎ始めた。



再び皆の視線がこちらに注がれる。

講師が苦笑いをしながら注目を逸らしてくれたが、近藤みゆきはまるで気にしていないようだった。



普段から他人の行動や視線に鋭敏な雪にとって、それは愕然とするしかない出来事だった。

その日の授業中ずっと、雪は神経をすり減らして彼女と対話を行った。





授業が終わった後の雪は、魂の抜けたような状態だった。



近藤みゆきは何も気にせず、雪に別れの挨拶をして去って行く。

途中廊下で河村亮に会うと、「トーマス、バイバ~イ!」とキャイキャイはしゃぎながら手を振って走って行った。




雪は亮と目が合うと、ビクッとその身を固まらせた。そんな雪に亮は、ピシっと人差し指で指して「逃げんなよ」と釘を刺した。

  

二人の横を、学生たちがウワサ話をしながら通り過ぎて行く。

男子生徒達は下品な笑い声を立てながら、近藤みゆきの露出の多さを嗤った。



雪も亮も近藤みゆきの方へ視線をやったが、亮はまゆをひそめただけだった。

「なんだ?あれくらいどーってことねぇじゃん。俺の姉貴のスカートなんてあれより短いぜ」



その亮の発言で、雪は彼に姉が居ることを知った。


すると亮はそんなことより、と雪に向かって「腹減らねぇ?」と聞いてきた。

「俺も今上がったとこなんだけどよー。メシおごれよ」  「!!」

  

‥また始まった、河村亮の「メシおごれ」攻撃‥。

雪は困りますよと眉根を寄せた。

先日塾の仕事も手伝ってあげたというのに、なんでまたご飯を奢らなくてはいけないのだ‥。

そう口を尖らせていた時だった。

ぐぅぅ~~



どちらともなく、腹の虫が大きく鳴った。

互いに互いのせいにするが、どちらも譲らない‥。

「マジお前って堅っ苦しいヤツだな~!すぐそこに安くて美味い店知ってっからそこ行こうぜ!」



亮はバシッと雪の背中を叩いて軽い口調で言った。

雪はしぶしぶ了承する‥。








「この近辺の屋台でここが一番うめーんだよ!」



そう言って亮はモグモグと口を動かしたが、沢山食べてもなるほどお安い。

雪はあまり高くない店に連れて来られた幸運に安堵した。

すると急に亮は雪の方を向き、「お前A大正門側の、駅の近辺に住んでるって言ってたよな?」と聞いてくると、キラキラしたオーラを纏いながら言った。

「俺の下宿もそこら辺なんだよ。送ってやろうか?」



これぞ亮のとっておき、キラキラスマイルである。

彼のこの笑顔を見た者は、誰しもが心を奪われる‥

「え‥遠慮しときます!!一人で帰れますんで!!」



‥わけではないようだ。

叩き返すかのような雪のリアクションに、亮は「嫌ならいーけどよ」と舌打ちした。


前回教科書を持ってやったり、今回キラキラスマイルを送ったりと数々の誘惑を仕掛けてみるも、

雪には全く通用しないことが亮には分かってきた。

「俺がこんな風に好意を見せるなんて滅多にないのにな~、後で後悔しても遅いんだぜ‥」



冗談めいてそう言ってみるも、雪は屋台のおじさんにお金を渡すとそそくさと帰路に着こうとした。

亮は急いで酒を飲み干すと、雪の後を追った。



いつも女の子に囲まれ、追いかけられる側の亮は、雪と居るとまるで逆の立場に立たされる‥。



後ろから着いて来る亮に、雪は「送ってくださらなくても大丈夫ですから」と念を押した。



しかし亮は別にそういう訳ではなく、ただ単に同じ方向なだけだとぶっきらぼうに言った。

赤面する雪に、ケラケラと笑う亮。



二人は駅までの道を、前後に並んで歩いた。


亮が、先を行く雪の後ろ姿を見て「髪あげるなんてらしくねーじゃん」と絡んでくる。

では、私らしさとは何かと雪が聞くと、亮は眉間にシワを寄せながら「んー‥ボサボサ?」と答えた。



ではボサボサとは何か‥とまた雪が聞くと、「ボサボサにボサボサって言って何が悪い」と答えた。

ダメージヘアーのデジャブ再び‥。

ダメージヘアーがダメージヘアーだからダメージヘアーって呼んだんだよ。

なんでダメージヘアーかって聞かれても‥





それも思い返し、雪は振り返りざま亮に対してメンチを切った。



その後亮はわざとらしく雪に「すごく似合ってるぞぉ~」などと言ったが、雪の眉間のシワはそのままだ。



そして雪は亮の頭を見て、「そういうそっちこそ自分の髪型に気を遣った方がいいと思いますけど」と言ってニヤっと笑った。

「ジュード・ロウって知ってますか?その人に似てるって言われません?特に髪が短い時‥」



ククク、と雪は笑い最近のジュード・ロウの姿を思い出した。



‥特に進行している彼の‥髪型を‥。



しかし亮はキョトンとした表情で、「誰だそいつ?」と言った。



‥知らないんかい!ヾ(′□`;ヾ(′□`;ヾ(′□`;)ォィォィォィ

雪の中の全米が突っ込んだが、亮はそんな雪の苦い顔には気づかず、

「あ~分かった分かった。似てるって言われた映画俳優だけでも何十人になるか‥」



と良い意味に受け取ってしまった‥。

雪は慣れない冗談‥もとい人をからかってやろうとしたこと自体が間違っていたと溜息を吐いた。



亮はそれに対しても軽い調子で返して、二人は傍目から見ると親しげなカップルのようだった。




そんな二人の様子を、一人車内から窺う人物がいた。



特に亮のことを凝視していた人物は、それが本物の河村亮だということが分かると、遂に車外に出た。

「よぉ、お前河村亮だよな?」



そう言った男の顔を見ても、亮はピンとこなかった。

「‥どちらさん?」



男は自分の名を名乗った。

亮の脳裏に、高校時代の記憶が蘇っていく‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ちょっと一杯>でした。

今回はコメディ色の強い回でした。

亮と雪の場面はやっぱりテンポが良くて良いですね!

さて初登場、近藤みゆきちゃん。前雪と先輩が行った雑貨店で、髪留めの売り切れを嘆いていた後ろ姿は、

彼女のものだったんですね~



やはり露出過多ですね‥ブレない子!


そして雪と亮が食べた屋台は、「粉食屋」といって、韓国料理のファストフード店らしいです。

キンパブ(韓国式海苔巻き)やトッポッキ、おでんなどが中心のようですよ。

学生街のため、安いお店が豊富にあるんでしょうね!う~ん食べてみたい!


次回は<えぐられた傷(1)>です。

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彼らの事情

2013-10-02 01:00:00 | 雪3年2部(塾にて~告白)
バンッと大きな音を立てて、遠藤は秀紀の部屋のドアを開けた。

そこは真っ暗で空気が篭っていて、その中で秀紀の高いびきが聞こえていた。

暗闇に目が慣れてくると、散らかった床の上で秀紀が横たわっているのが見えてきた。



遠藤はドスドスと彼に近づくと、怒りの感情に任せてその胸ぐらを掴んだ。

いきなり起こされた秀紀は若干パニックになったが、そんなことも構わないくらい遠藤は苛ついていた。

「てめぇ家に居ながらなんで電話出ねぇんだよ」



俺のことを避けるつもりかと凄む遠藤に、秀紀は「連絡くれてたの?」と冷や汗をかきながらしらばっくれた。

遠藤は何日も何日も、何度も何度も電話したのだ。当然そんな白の切り方は通用しなかった。

遠藤は大声で彼を罵倒した。彼は怒りに震え、秀紀はその剣幕に身を震わせた。



遠藤はずっと気にかかっていたことを、神妙な面持ちで彼に問いかけた。

「‥一体どうしちまったんだよ。マジで他に相手が出来たのか?」



秀紀は否定した。この間から電話の度に遠藤はそう聞いてくるのだ。

今日も「そのボンボンで酒代と生活費をホイホイくれる男前な野郎を見てみたいもんだな」と、

遠藤は嫌味ったらしく言った。



秀紀は頭を抱えたが、遠藤の肩を掴んで身の潔白を訴えた。

「本当にそんなんじゃないんだってば!ただの知り合いだって何回言わせれば分かってくれるの?」



秀紀は何度も自分を信じてと遠藤に言った。一度だってあなたに嘘なんて吐いたことないと言う彼の瞳は、必死さが滲んでいた。

遠藤は彼の態度の前にしばし口を噤んだが、やがて「分かった‥」と観念した。








何だかんだ言っても、遠藤は秀紀のことが心配で放っとけなくて、一緒にいるとついつい世話を焼いた。

メシは食ったのかと秀紀に尋ねながら、とりあえず遠藤は電気のスイッチを入れた。

明るくなった部屋で、振り返って秀紀を見た遠藤は愕然とした。



床には食べ終わったまま放置された皿や酒瓶、ビール缶などが転がり、混沌としていた。

教科書やノートも、広げたまま放ってある。

「何だこのザマは」と呆れて口を開いた遠藤に、

秀紀は「勉強ばっかしてたから掃除まで手が回らなくて‥」と必死に片付けを始めた。



部屋の空気が動き始めると、自然と遠藤は酒臭さを感じた。

秀紀に近付くほどそれは濃くなって、大分酒を煽ったことが分かる。



小さくなっていく秀紀に、遠藤は何も言えず床に落ちたノートを拾った。

「‥勉強はしっかりやってるんだろうな?」と言って開いたノートの中身は、グチャグチャだった。



どう見ても勉強が捗っているようには見えない。

遠藤は落胆したように目を瞑った。





秀紀は、ストレスで最近全く勉強に身が入らなくてとモゴモゴ言って、俯いた。

二人の間に沈黙が落ちる。



遠藤は一つ溜息を吐くと、秀紀の肩に手を掛けた。

「お前が辛いのはよく分かる。もどかしいよな。

でもそんな時こそ気を改めて集中しなくちゃダメだろうが。合格以外に方法は無いんだから‥」




彼にしては優しい口調で、「一緒に頑張ろう」と遠藤は言葉を掛けたが、

秀紀は下を向いたまま黙りこくっていた。遠藤が促すと、秀樹は恐る恐る口を開いた。

「必死にならなきゃいけないってことは、よく分かってる‥分かってるけど‥」



「正直、才能ってものには勝てないと思う」

秀紀のその言葉を、遠藤は信じられない思いで聞いた。

さらに秀紀は「頭の良い人が沢山居る中で勉強するのが本当に苦痛」だと言葉を続け、項垂れた。


遠藤は声を荒らげ、秀紀の弱音にカツを入れた。

「何戯言言ってやがるんだ?!お前IQテストか何かとカン違いしてんじゃねーか?!」



「合格手記にも書いてあるだろ、皆寝る間も惜しんで勉強して合格してんだよ!それが努力の結果なんだよ!」

才能なんてものだけで、皆が皆合格しているわけじゃない。

遠藤だって大学に入る時は死ぬ気で勉強した。生まれつきの頭の良さなんかより、努力した者こそが合格通知を受け取れるのだ。


しかし秀紀は「そんなの分かってる」と大きな声で言って、また視線を下げた。



「毎日毎日こうしてプレッシャーが増えていく中で、執拗に励まされると‥」

秀紀は上手くいかない現実の中で、いつも追い詰められているような気がしていた。

そのプレッシャーに押しつぶされそうになる度に酒を煽って、目覚めてまた自己嫌悪で落ち込む‥。

そんな悪循環な毎日を送っていた。

そして恋人がそれを理解してくれないのが、何よりも辛かった。



しかし遠藤はそんな秀紀の心情には寄り添わず、尚更声を荒げた。

「じゃあ何て言ってやりゃいいんだよ?!

お前が今まで全力を尽くして試験を受けたことがあるのかよ?!」




今まで遠藤が見てきた秀紀は、どう見ても浪人生の自覚が足りなかった。

教材は真新しいわ、働きもせず酒ばかりを喰らい、部屋でぐうたらしてばかりだったではないか。

そんな男を見て説教の一つもせずにいられるわけがないと、遠藤は苛立ちを隠せなかった。


しかしそんな遠藤の勢いに負けじと、秀紀も声を荒らげた。

「あたしだって必死にやってるのよ!そっちはこんな経験したこと無いから、この辛さが分からないのよ!」




遠藤は秀紀からそう言われ、怒りが腹の底から湧いてくるのを感じた。

心にわだかまっていたものがマグマのように、吹き出してくるようだった。

「じゃあなんだよ!俺は辛くないとでも言いたいのかよ?!」



「この家も!てめぇの服も!全部俺が買ってやっただろうが!

貯金も全部下ろして、人のカードにまで‥!


遠藤はそれ以上言葉を紡げなくなった。

そんな彼を見上げて、秀紀が彼の苦しみを垣間見る。




遠藤は爆発させた怒りが、だんだんと虚しさに変わっていくのを感じていた。

秀紀の勉強の邪魔にならないように、勉強にだけ専念出来るように、どれ程気を遣ってきたと思っているのだ。

「畜生‥俺が‥俺が今までどれだけ‥」



怒り、虚無感、悔しさ、憤り‥。

様々な感情が渦のように遠藤の心に吹き荒ぶ。


秀紀はそんな彼を見て、その身体に必死に縋り付いた。

「あたしの言い方が悪かったわ!あたしのために苦しい思いをしてたのも、ちゃんと分かってるから‥!」



秀紀はストレスで八つ当たりしてしまったことを詫びながら、

これからは頑張るからと遠藤の肩を掴んで必死に訴えた。


しかし遠藤はその手を振り払うと、「これ以上はお手上げだ」と言って彼に背を向けた。



肩を怒らせながらドアから出て行こうとする彼を引き止めようと、秀紀は声を掛けたが、

ムカつくからついてくんじゃねーぞ!!



と血走った目から発せられるビームに気圧されて、秀樹は身を縮こまらせた。





バンッ、と大きな音を立てて、遠藤は秀紀の家のドアから出て来た。



するとドアの前に居たらしい一人の男が、驚きのあまり大きな声を上げた。

その声に、逆に遠藤も驚かされる。



苛立ちを抱えた上に驚きまでさせられて、遠藤の気分は最悪だった。

秀紀の家の前で何してやがると、まさか例の”ボンボン”の知り合いかと、遠藤は彼に向かって凄んだ。



すると男は、ここの建物のオーナーの孫だと言った。

無許可で張られたチラシを剥がしている所だったらしい。



遠藤は居心地が悪くなり、目深に帽子を被った。

そんな遠藤に男は、ここのおじさんのお知り合いですかと声を掛ける。

「それなら廊下にタバコの吸殻を捨てないように言っとい‥」



男の言葉を最後まで聞かずに、遠藤はそそくさとその場を後にした。

オーナーの孫はその不審な行動に、頭に疑問符を浮かべたまま彼の背中を見送った。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼らの事情>でした。

遠藤さんと秀紀さん中心の回でしたね。画面に華が無くて困りました‥。

二人の会話内容も胸が苦しくなりますしね。。

次回は<ちょっと一杯>です。


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仲良きこと

2013-10-01 01:00:00 | 雪3年2部(塾にて~告白)
すっかり仲直りした聡美と雪は、互いに色々な話をした。

山のようなお菓子を食べながら、様々な話を。



そんな中、雪が珍しく可愛い髪留めを持っていたので、聡美は雪の髪をまとめてやった。

そして雪は、実はこの髪留めは青田先輩からプレゼントしてもらったものだと、

こっそり聡美に打ち明ける。

「ええ~?!青田先輩から?!」



案の定聡美は驚いた。口が開いたままの聡美に雪は弁解するようにこう言う。

「結構ちょくちょく会っててさ‥」



聡美は俄然テンションが上がった。

「ほらね!あたしの言った通りでしょ?!あんたのこと狙ってるって言ったじゃん!!」



聡美は一人、青田先輩の策略に思いを寄せブツブツと呟いた。

雪に事務補助のバイトを紹介し、自分は取らなくてもいい夏期講習履修なんていかにもだと。

「カップル成立も時間の問題だな‥!」と探偵よろしく、聡美はフフフと笑いながら頷いた。



そして聡美は勢い良く立ち上がると、

「あんた!こんなんじゃダメよ!服買いに行くよ!」



と言って雪の手を引いた。

事態が飲み込めない雪に向かって、鼻息荒く主張する。

「これからは超オシャレして学校行くのよ!相手が青田先輩ならそのくらいしなくちゃ!」



聡美は自分の行きつけの安くて可愛い服屋さんに、雪を連れてったげると言った。

デパートのセールも見て、色々買い物もして(彼女は下着も買うと意気込んでいる。盗まれちゃったもんね)、

そして美味しいものを食べに行こう。

いつもの聡美のペースが、ようやく戻って来た。



雪は若干その勢いに押され気味だったが、聡美に同意し頷く。

すると、聡美があることを思い出してポツリと呟いた。

「あ、でもあたしあのヤンキーにヤンジャンピ賭けてたんだった」「はぁ?!」



雪の素っ頓狂な声が、辺りにこだました。









場所は変わって、こちらは福井家。

初登場の太一の実家である。


音信不通だとされた太一は今、部屋に閉じこもっているところだった。

そんな彼の部屋の前で、女性が三人腕組みをして立っている。

「ちょっと太一、また電話来てるわよ。いいの?出なくて」



部屋からの返事は無い。



「うん、そうなの。ごめんね。またそう伝えておくから」



そう言って電話を切ると、ドアの前にいる女性三人‥

もとい太一の三人の姉は、じっと太一の部屋を睨んだ。

「うーむ‥」



(三人とも太一にそっくりだ)

三人はこの頃部屋にこもりっきりの末っ子を心配していた。

ドアを壊そうかという意見も出たが、取り敢えずご飯はしっかり食べているようなので、

今のところは様子を見ようということになった。

部屋の中からは依然として何も聞こえない。



太一がその中に、一人居ることは確かなのだが‥。






その頃雪達は聡美オススメの服屋さんに居た。聡美は携帯電話を片手に、声を荒げる。

「太一のヤツ!まーた出ないでやんの!!」



肩を怒らせる聡美に、雪は少々本気で心配して言った。

「本当に何かあったんじゃないの?どうしたんだろ?」



しかし聡美は「もう知らん!」と言って、メラメラと怒りの炎を燃やした。

自分の連絡も無視する太一に、腹が立ってしょうがないようだ。





そして聡美は、雪に向かって「あんた戸締まりはしっかりしてるんでしょうね」と鋭い視線を送った。



雪の住む大学の正門側近辺ではまだそういった物騒な事件は起こってないものの、

用心することに越したことはないと聡美は注意を促した。

雪が頷くのを見て安心した聡美は、またいつものペースで雪と共に歩いた。

「てかこれなんかどう?」 「きわどすぎ!」



二人はキャイキャイとその時間を楽しんだ。

雪の頭には青田先輩からのプレゼントの髪留めが、

聡美の耳には雪からのプレゼントのピアスが、それぞれキラキラと光っていた。





そんな頃、雪のアパートの前では。



一人の男が、建物の前で佇んでいた。

耳には携帯電話を押し当てている。



聞こえてくるのは、留守番電話サービスの音声だった。

何度掛けても、何度も同じメッセージを聞いた。



しかし電話を掛けるたびアパートの中では、着信音が鳴り響いている。

つまり居留守だということだ。



男は歯をギリギリと噛み締め、苛つきに顔を歪めた。



積り積もった不満が、今にも爆発しそうだった。

「秀紀の野郎、あいつぶっ殺す!!」



遠藤修は腕まくりをすると、怒れる形相のまま部屋への階段を昇って行った。

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<仲良きこと>でした。

太一のねーちゃんたち、そっくり‥笑

そして聡美は太一にヤンジャンピを奢らないといけなくなりそうですね(^^)?

太一、早く出ておいで~


次回は<彼らの事情>です。


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