Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

守りたいものは

2014-07-21 01:00:00 | 雪3年3部(静香との邂逅~万華鏡の様に)
Schubert Liszt Erlkoenig for Piano SD


亮は荒れ狂う心情にまかせ、がむしゃらにピアノを弾いた。

亮の敬愛するシューベルト作曲の「魔王」だ。

たまに狂うリズムなど、どうでも良かった。



脳裏には数々の情景が浮かんでくる。

振り払いたくても振り払えない。しっかりと焼き付いているのだ。

亮は修羅のような表情で、ひたすらにピアノを弾いた。いや、叩いたという表現の方が良いのかもしれない。

オクターブを跨って、メロディーと伴奏が並走する。



頭の中に、あの喧嘩の後無邪気に笑った淳の顔が浮かんで来た。

あの時燃えて散った花火のように、その笑顔は刹那に輝いていた。



そしてそれに代わるように、今の淳の顔が浮かんで来た。

自分の方を冷淡な瞳で見つめ、機会がある度自分をどこか遠くへ追いやろうとする今の淳が。



どちらも「青田淳」に違いなかった。

それはオクターブ違うドとドの様に、同じ音でも印象が違うのと同じ様に。



「魔王」は少年を手に入れるために、駆ける馬を追いかけ疾走する。

胸の中には白い霧が広がり、空間は混沌として行く。

低音から唸るように広がって行く音に合わせ、脳裏に彼女の姿が浮かんで来る。



赤山雪は淳の前で嬉しそうに笑っていた。

同じ大学に通い、首席争いをする二人の間には、どこか自分には入れない空気を感じた。

頭脳明晰、品行方正、眉目秀麗。自分が持ち得ないスペックで、淳は世の中を上手く渡って行く。



自分には向けられない、雪の母からの期待、笑顔。

あの時は理由が分からなかった。

どうしてこんなに苛つくのか、どうしてこんなに胸が疼くのか。



髪の毛についていたゴミを取っただけなのに、なぜ彼女はあんなに身を固くしたのか。

彼女の手首を取った時、胸に過ったあの感情は一体何なのか。



胸に浮かんでは消える数々の「Why」が、迫り来る音階に乗って空間に溶けて行く。

左手の音階音型は、「魔王」が忍び寄る不気味さが演出されていると言う。

その音階に乗って、脳裏に不敵な笑みを湛える静香の横顔が蘇った。



リハビリを始めた今でも、左手はまだ思い通りに動かない。

迫り来る邪悪な運命を奏でる左手が、思うように動かないのだ。

彼女を守りきれないんじゃないかという思いが、亮の心を震わせた。




なぜここまで自分は焦れているのか。

彼女を巡る運命から、一体何を守りたいのか‥?




最後に浮かんだのは、こちらを向いて笑う彼女の顔だった。

言葉なんて無かった。

胸に迫り来る音楽のように、亮は自ずとそれを悟る。

何よりも自分が守りたいもの。

それは、赤山雪の笑顔なのだとー‥。




ダンッと両手を鍵盤に打ち付けて、亮はピアノを弾き終えた。

心の中に煙っていた靄が晴れて、瞼の裏には彼女の笑顔だけが浮かぶ‥。


「ぐわっ!」



すると亮は、突然後頭部を思い切り叩かれた。

頭を押さえながら振り返った亮に、志村教授はカンカンに怒って彼を叱りつける。

「このバカモン!何をやっとる!ピアノが壊れたらお前が新しく買ってくれるのか?!

しかもリハビリもまともに終わってない奴が、リストだと~?!」




亮は教授の言葉に、「シューベルトっすよ!」と言い返すが、

教授は「リストじゃないか」と尚も言い返した。

先ほど亮が弾いていたのはシューベルト作曲の「魔王」だが、このピアノ編曲はリストがしたものだったからだ。

しかし教授に殴られるのは一体何度目だろうか。亮は痛む頭を押さえながら不平を鳴らす。

「殴んのも大概にして下さいよ!只でさえ頭悪ぃのに、本気でバカにする気っすか?!」



ちょっとくらい好きな曲を弾かせてくれてもいいだろう、と続ける亮に、教授は仁王立ちで反論する。

「お前はすでにバカモンだ!私はお前に大層なことを望んで連れて来た訳じゃない。

ちょっとは楽しみなさい!」




亮は、そう口にする志村教授を見上げて口を噤んだ。

”ちょっとは楽しめ”という言葉が、鼓膜の裏に反響する‥。





亮のレッスンが終わった後、志村教授は他の学生を指導しながら一人考えていた。

教授は、先程亮が弾いていた粗削りのリストを思い出している。



教授はフフンと笑うと、小さくこう口に出した。

「思ったより回復が早いようだな‥」



予想していたよりも早く、亮の左手はリハビリの成果が出て来たようだ。

志村教授は彼の行く先を思い描いて、一人微かに微笑んでいた‥。



教授がそんなことを思っているとは知らない亮は、レッスンの時間が終わると、ぶすっとしながら廊下を歩いた。

先ほど志村教授が続けた言葉が、もう一度亮の鼓膜の裏で流れる。

君がどうして私に連絡して来たのか。もう一度よく考えてみなさい



亮は教授の言葉の意味が、いまいち分からないで居た。

特に気に掛かっているのは、”ちょっとは楽しめ”という部分だ。

楽しむ‥? 楽しい気持ちなんて、初めの頃に弾いた時から暫く..



亮にとって、ピアノを弾くことは生きることであり、その末にあったピアニストという夢は、食べていく為の職業だった。

”楽しむ”なんて気持ちでピアノに向き合ったことなんて、実は数度しか無かったのだ‥。

「あの!河村亮さん‥ですよね?」



すると前から、女学生二人組が声を掛けて来た。

亮は目を丸くして彼女らを見る。



そして実に久しぶりに、亮は女性からお昼を奢られることになったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<守りたいものは>でした。


今回は記事冒頭に貼りましたリスト編曲の「魔王」と共にお楽しみ下さい~。



亮さんの葛藤がこの曲に合わせて盛り上がり、そして雪に対する思いに一つの結論が出たような‥。

次回<その答え>に続きます。


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忘れ去られたピアニスト

2014-07-14 01:00:00 | 雪3年3部(静香との邂逅~万華鏡の様に)


河村亮は、A大の大ホールの中に居た。

ステージから、誰も居ない客席を見渡してみる。数百人は入れる規模のホールだ。



昔、こんな会場でピアノを弾いたことがあった。

大きなコンクールなどは、決まって大きなホールを貸し切って行われていたからだ。



数百の座席が埋まっていた会場でだって、緊張などしなかった。

自分の内部から溢れるように出てくる自信が、彼の演奏を神童と呼ばせるまでに高めていた‥。



亮は厳しい視線を、客席からステージ上に置いてあるピアノに移した。

見るからに良い音を奏でそうな、グランドピアノだ。



亮は無言のまま、ピアノの前にじっと佇んだ。

光沢のあるそれは、ホールの明かりを反射して鈍く光っていた。



いつだってピアノを前にすると、何か見えないものに惹かれるように吸い寄せられて行く。

亮は切なそうな眼差しをその白と黒の鍵盤に落とすと、ゆっくりとそれに手を伸ばした。

 

するといきなり亮の背後から、関係者らしき男の声が掛かった。

「勝手に触らないで下さい!」



亮は伸ばした手をサッと引っ込めると、そのまま手を上に上げた。

声を掛けて来た男は、小さく舌打ちをしながら近づいて来る。

「あ~まったく‥何なんですか」



男は亮を見て、溜息を吐きながら注意を続けた。

「いくら志村教授の個人的な生徒さんでも、勝手に触られたら困ります」



取り付く島もない男の言葉に、亮は手に持った楽譜を翳して見せながら、

「ただのお使いよ、お使い」と軽い調子で言うも、話にならないとばかりに男は首を横に振った。

「お使いって何ですか。自分の練習室に戻って下さい」

「へ~へ~。小言は一小節だけで済ましてくれよ?」



しかし亮は諦めない。そう言ってから本当に少し弾き始めてしまった。

男はじっと亮がピアノを弾くのを見つめていた。昔の記憶が、脳裏の片隅から浮かび上がる‥。



あの、と男は亮に声を掛けた。

「以前、コンクールであなたを見たことがあります。高校生の時か中学生の時か覚えてませんが、

すごく上手に弾いていた‥」




突然昔のことに言及され、

亮は不信感を露わにした表情で「ああ‥」と曖昧な返事をした。



すると男はジェスチャーで亮の退室を促しつつ、彼に適当なエールを送った。

「どんな事情があったか知りませんけど、とにかくまた上手くいくよう応援してますよ」



亮は曖昧に相槌を打ちながら、そのまま大人しく退室した。




ホールの厚い扉が閉まると、心の中が急に苛立ちに騒ぎ始める。

そうだよな‥覚えてる奴が居ないほうがおかしいじゃねーか!



亮はハッと吐き捨てるように息をつくと、そのまま大股で廊下を歩いて行く。

オレ一人だけが、時間の中に置いてけぼりにされて‥。

覚えてたからって何になる?あんなダサくてグランドピアノを見てはヨダレ垂らすような奴が、覚えてたからって‥




亮の脳裏に、そっけない態度で自分に退室を促した男の姿が思い浮かぶ。

てか本当に手伝わされて来たんだっつーの‥。なんで泥棒扱いされなきゃいけねーんだ‥



苛立ちは募り、いつしかそれは怒りに変わった。

グランドピアノ‥弾いたことねーように見えっか?クソッタレ‥オレはー‥




亮の脳裏に、昔の記憶が鮮明に蘇った。

ボウタイを結び、タキシードを着て、数百人の前で演奏を終えた。

拍手が、豪雨のような音を立てて降り注ぐ‥。



過去の栄光が、亮を縛って離さなかった。

そして記憶の海から、高校時代の記憶の一片が浮かび上がる‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<忘れ去られたピアニスト>でした。

少し短め記事で失礼しました~。

次回から<河村姉弟>カテゴリの記事が続きます~。


次回は<亮と静香>高校時代(5)ー壊れたピアノー です。久しぶりだな~^^


*河村姉弟カテゴリの記事に、副題つけてみました。合わせてお楽しみ下さい♪

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束の間のスーパースター

2014-07-13 01:00:00 | 雪3年3部(静香との邂逅~万華鏡の様に)
週末が終わり、また月曜がやって来た。

雪は大学へ向かう地下鉄に揺られながら、ぼんやりと一人物思う。

こんな私を思ってくれる人なんて、そんなには居ない気がしている



顔のアザはもう大分薄くなったが、切り傷に貼られた絆創膏はまだそのままだ。

朝だというのに既に疲れている自分。こんな自分を、一体誰が心配してくれるだろう。

聡美、太一、萌菜、恵‥。あと先輩と‥河村氏くらい?



家族以外でパッと思い浮かぶのは、今のところその六人だった。

それは思っていたより多くて、ありがたいようなホッとするような気持ちがする。

すると不意に携帯が震え、画面に目を落とすとメールが一通届いていた。

よく休めた?顔の傷はどうかな。色々大丈夫?



先輩からのメールだった。

自分を気遣ってくれる彼からのそれを見て、雪は視線を落としながらボンヤリと一人考える。

ふと、先輩に対して申し訳なく思う。あまりにも自分自身に余裕が無くて‥。

そして頭の中が整理出来るまで、待つと言ってくれた彼の言葉が、ありがたかった。




彼との間に横たわる本質的な問題は簡単に答えが出るものじゃないが、

まずそこに向き合う時間を貰えたことに雪は感謝していた。

いつも運命に翻弄され他人に振り回されている自分を、待ってくれるということ自体に。





二時間弱掛けて到着したキャンパスの上に、青い空が広がっている。

雪は心の中で、今の状況を整理してみた。

清水香織は学校に来なくなった。

多分このまま休学するんじゃないだろうかと、皆噂するだけだ。誰も心配なんてしていない。




清水香織の名前は、道行く子達が面白そうにしていく噂話の中に聞いた。

そしてその中には、当然彼女と喧嘩した自分の話も出てくるわけで‥。

そして残された私は、というとー‥



構内を一人で歩く雪の後ろから、不意に歓声に似た声が掛かる。

「よぉ~!この世の全てを持ってるねぇ、赤山雪!」



思わずビクッとする雪に、男の子達は笑い声を上げて去って行く。

色々な意味で、束の間のスーパースターになってしまった



成り行きとはいえ、雪はすっかり”時の人”になっていた。雪に対する皆の反応はそれぞれだ。

後ろからコソコソ言う人達や、急に馴れ馴れしく話し掛けて来る人達。

すれ違いざま大袈裟に歓声を上げる人達など‥。


  

私も清水香織のこと好きじゃなかったの、などと別に仲良くもない子が話しかけて来たり、

会話したことも無い男子が「超カッケー」と言って騒いだり‥。

けれど雪は分かっていた。

彼等の関心もほんの束の間、私と清水香織のことはやがて消え去って行く。

小さなゴシップとして終わって行く。大学生活は、普段通り過ぎて行くだけだ。




人の噂も七十五日。面白半分に向けられる関心など、やがては消え去って行くものだ。

けれど、個人的な悪感情に根付いたものはそうはいかない。

特に、惚れた腫れたから生まれたものには‥。

 

柳瀬健太は雪は勿論、聡美や太一の姿を見ただけで顔を顰め、彼等から離れた席に座った。

あの人‥恵と蓮のことがあるからあんな感じなのか‥



はぁ、と雪は溜息を吐くも、変に絡んで来られるより無視される方がずっとマシだと感じた。

一人で居るということは孤独な反面、何にも煩わされず気楽なものだ。



自分のことを思ってくれる人が多ければ多いほど、ありがたい反面面倒な時もある、なんてことを思う。

私を思ってくれる人なんて、少ない方が却って良いのかもしれない



特に厄介な人間が自分に関心を示している場合は‥。

横山翔は、自分の携帯に保存してある赤山雪の写真の数々を見て、一人物思いに耽っていた。

その写真の数は、フォルダ一つ埋まるほどの量だった。



その中の、雪が微笑んでいる写真をじっと見ている時だった。

一通のメールが入って来た。

そんでその女、教室で髪引っ掴んで喧嘩したっての?マジでイタイねw



”偽青田”からだった。横山はニヤつきながら、

”だろ?しばらくネタになんだろーなww”と書いて嗤った。



すぐに来る返信。

淳の彼女とかいってマジで何なの!んなことして、こっちがハズイっつーの



同意する横山。

だよなwwww俺も超ハズイ



横山は直美の前だというのに、クックックと思わず身体を揺らして笑った。

初めは受け入れ難かった”偽青田”だが、最近は気が合うことが多くなってきたと思えるほどだ。



横山は少し調子に乗り、直美の目の前で彼女の悪口を書き始めた。二人は文字を重ねていく。

てか俺の彼女この頃マジうざくてムカつくんだけど

そーなん?何か聞いてるとその子もうちょっとサッパリしてほしー感じだねw

お前もそう思う?やっぱ俺ら気が合うわww



誰からのメール?と聞く直美に、横山は「同級生」とそっけなく答えてメールを続けた。

そして今度は横山から偽青田にメールを送った。”お前は青田とどうなん?連絡取り合ってんの?”と。

しかし返信はそっけなく、”ん。アイツは相変わらず”と一文書いてあるだけだ。



そして偽青田は、”もう出掛けるから”と一方的にメールのやり取りを終了した。

横山は頭を抱えて一人悶絶する。

クッソ‥ちょっと情報を引き出そうとすればスルッと逃げやがって‥。

早く青田の奴が二股掛けてるっつー証拠を手に入れて、赤山に見せなきゃなんねーってのに‥。


 

横山は苦々しい表情をしながら、今の状況に焦れていた。

脳裏に浮かぶのは、例のメールを見せた時の雪の様子だ。



最初は自分を弄んだ赤山雪に復讐するつもりだった。自分をけしかけた青田と共に沈めてやろうと。

けれどあの時目にした雪の表情が、今にも泣きそうだった彼女の表情が、横山の心を掴んで離さない。



そして先日目にした講義室での二人は、横山の予想以上にギクシャクしていた。

あの二人別れたんじゃね、と口にしても同期達は「まさか」と取り合わなかったが、案外二人の破局は近いのではないか。



横山は天井を仰ぎ見ながら、一人ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。

偽青田の存在は想定外だったものの、今はその存在が逆にチャンスになっている‥。



横山は悪戯な気持ちで、ネット上に好き勝手書き込み始めた。最初は清水香織について、そして次は赤山雪についてだった。

マジ爆w 前に話したあの変な女、結局大学来なくなったww

詳しいことは話せねーけど、俺今までソイツを利用してたわけ。ちょっと優しくしたらホイホイ言うこと聞いて

ヘラヘラ笑ってたけど、笑えたのはこっちだっつーのw 

まぁどーせ目的変えたから、そいつが大学出てこようと来まいとどーでもいーw




前からちっと気になってた女が居んだわ。ずっと超拒絶されてムカついてたんだけど、

最近また可愛く見えてきたわけよ。アイツも分かって来たのか、キツイ素振りをしながらもあながち嫌じゃなさそw

てか俺、アイツの冷たいとこも結構好き(笑)




心のままに、横山は面白がって書き込みを続けていた。

いつしか気の合う同期が迎えに来た時には、横山は上機嫌で彼等に応えていた。




欲望を満たす方法は様々だ。

その過程は常に周囲と繋がっていて、その答えもすぐそばにある。

けれど結末に辿り着くまで、誰も気がつかない‥






そしてようやく訪れた結末すらも、時間が経てばまた忘れ去られて行く。

当事者の心は置いてけぼりのまま。




亮はその時A大のホールに居た。

広い広いその空間に、皆が忘れてしまった昔の記憶を蘇らせながら‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<束の間のスーパースター>でした。

今回の横山の怒涛の書き込みが、よくわかりませんでした‥orz

 

お詳しい方、ヘルプです~~> <




次回は<忘れ去られたピアニスト>です。


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避けられない運命

2014-07-12 01:00:00 | 雪3年3部(静香との邂逅~万華鏡の様に)
あれ‥?あの人どっかで見たような‥?

河村氏の知り合い‥?




雪はその後ろ姿に、どこか既視感を覚えた。

しかし記憶の海からその断片を拾い上げるより先に、突然雪は亮に手を掴まれた。

「!!」



一旦外出るぞ、と亮は口にしてもう一度今来た道を戻ろうとした。

雪は何が何やら分からないまま、亮に引っ張られて彼についていく。



しかし、運命は彼女を逃してはくれなかった。

まるで避けられない筋書きであるかのように、運命は彼女を捕らえて離さない。

「あっれ~?」



二人の背中に、少しハスキーな声が掛かった。

雪が恐る恐る振り返ると、そこにはスプーンを加えた河村静香がこちらを見ていたのだった。

「バイトもしないで、ど~こほっつき歩いてんのよぉ」



そう弟に声を掛けた静香は、「ここの麺イケるじゃん」と結構上機嫌だ。

雪は静香の顔を見て、彼女が亮の姉だということを確信して顔を青くした。



雪の隣で固まっていた亮も、声を上げて静香の方につかつかと歩いて行く。

「お前‥ここに何しに来た‥?」

「ご飯食べにに決まってんでしょ。あんたも働いてるし、家近所だし」



「それじゃあさっさと食べてとっとと帰れ!」と亮は静香の肩に手を置きながら帰宅を促す。

静香はそんな亮の態度から何かを察した。彼女の野生の勘が、彼が誤魔化したいものの正体を嗅ぎつける。

「な~に~?あたしに内緒で、ここに蜜の入った壺でも隠してるってーの?」



そう口にしながら、静香は後ろに佇む雪の方へ視線を流した。

ビクッと身を強張らす雪を見て、彼女なのかと亮に問うた。雪の顔を見て、ニヤリと笑う。

「ふ~ん。結構根性あるみたいね?」

 

雪は傷だらけの顔を庇いながら、言葉を濁して俯いた。すると亮は怒り、静香に注意する。

「ここの社長の娘だよ!口を慎め!」「あ、スイマセ~ン」



静香はにこやかに雪に向かって手を振り、自分の失礼は亮には関係ナシね、と言って笑った。

「あたし、河村亮の姉なの」



亮の思いとは裏腹に、運命は悪戯にも歯車を回し続ける。

雪は静香に挨拶をしながら、先日彼女と電話で話をした時のことを思い出した。

あたしは淳の彼女だけど?



通話先の彼女は確かにそう言った。

雪は今の状況と静香との様々な問題を重ねて当惑していた。浮かべる笑顔もぎこちない。



しかし当の静香はというと、雪に対して何の疑いもなく笑って手を振っている。

雪は一つの疑問が頭に浮かんだ。

夏休み、服屋で揉めたこととか覚えてないのか‥?



あの時雪は静香に手首を掴まれ、面と向かってすごまれたのだ。

雪にとっては忘れたくても忘れられない出来事だったが、どうやら静香はキレイサッパリ忘れてしまっているらしい‥。

(静香に「脳が漂白されてます」の立て札が‥)


そして亮は静香に見つからないよう、雪に向かってメッセージを送る。

早く中入れ!キッチンでもどこでもいいから!

 

雪はコッソリと移動しようとしたが、顔の傷が静香の興味を誘っていた。彼女は尚も雪に話し掛ける。

「てか、社長令嬢がどうしてそんな顔になっちゃったのぉ?」



そう質問する静香に、雪は「あはは‥学校でちょっと‥」と言って言葉を濁した。

もう笑っているんだか青くなっているんだか、自分でもよく分からない‥。



静香は雪の事をジロジロ見ながら、一人語るように喋り始めた。

「もしかして喧嘩?見た感じ高校生じゃないみたいだけど‥。

大学でもそんなくだらないことすんの~?てか昔を思い出すわぁ。あたしは殴られはしなかったけど~」




雪はその場に突っ立ったままタジタジだった。

そんな様子を見かねた亮は、雪にこの場から去るよう、静香に早く食べて帰るよう喝を飛ばす。



度重なる弟の「早く帰れ」口撃に静香は「メシがまずくなる」と言ってグチグチ返し、

依然として雪は立ち去れないままでいた。


そんな時だった。運命の歯車が音を立てて回ったのは。


「コラッ!雪!」



雪の母親は娘を見るなり声を上げた。そんな顔で店に来るなんて何事だ、と。

雪は事の成り行きについていけないまま困惑し、亮はあんぐりと口を開けて固まった。



そんな二人の胸中など露も知らない母親は、雪に向かって小言を並べる。

「ったくもうそんな顔で!接客業なんだから!」「お客さんは店員の顔なんていちいち見てないよ‥」

「はぁ‥もういいから勉強でもしてなさい」「試験終わったとこ‥



女の子が暴力沙汰なんてもってのほか、と口にする母親に雪は謝り、掃除でもしとくよと言って母の気を鎮めた。

そんな何気ない親子の会話を、河村静香は微動だにせぬまま聞いている。

ここは麺屋”赤山”、娘の名は”ユキ”。

つまり彼女が、赤山雪ーーー‥。



亮の耳が、カラカラと回る運命の歯車の音を拾う。

ごくりと生唾を飲み込みながら、沈黙する姉を見て冷や汗を垂らした。



瞬きもせずに凝視する静香の視線が、そこに佇む雪に注がれていた。

雪が静香の方へ振り向くと、二人の視線がぶつかった。

 

暫し顔を見合わせていた二人だが、先に静香が口を開いた。

「‥あなたが赤山雪なの?」



雪は静香の口から自分の名前が出てきたことに動揺し、幾分しらばっくれた態度で彼女と相対した。

「あ‥はい‥。私のことご存知ですか‥?」



運命の悪戯の前で、亮は為す術もなく固まった。

二人を遠ざけたい亮の思惑とは裏腹に、静香は今全ての辻褄が合ったようで、微かに笑う。

「‥アンタ、あの子が赤山雪だってこと知ってて‥あたしが誤解してんのを放っといたってワケ‥」



亮は静香と目を合わせられないまま、「それはたまたまタイミングが‥」と言葉を濁した。

しかし静香はその野生の勘で、真実の糸を手繰り寄せ一つに繋いで行く。

「おまけにあんたのバイト先の社長の娘か‥へ~ぇ‥」



静香はそう言ったきり、口を噤んで雪にじっと視線を送った。

色素の薄い瞳の奥に、ある種の狂気のようなものが踊るのが見える。



雪はその瞳の前で竦み上がった。足が震え、背筋が寒くなり、勢いにまかせて口を開く。

「あっ‥あのっー‥!」




しかし次の瞬間、予想だにしないことが起きた。

運命の歯車に絡む糸を手繰り寄せた静香は、遂に自ら歯車を回し始めたのだ。


「いやぁ~~ん!どぉしよぉ~~!

謝らなきゃ~!どぉしよどぉしよぉ~!」




突然静香はガラッとキャラを変え、ぶりぶりとした仕草で雪に近付いて来た。

状況の飲み込めない雪は、目を剥いてその場に立ち尽くす。



「あの時の電話はぁ~、変な奴が何回もイタズラ電話してくるから超ムカついちゃって、

あたしもつい真っ正面から受けて立っちゃってさぁ~!あなたの電話もイタズラだと思っちゃって~」




「ほら、淳ちゃんに変な奴がつきまとうのも珍しいことじゃないし‥。

分かってくれるでしょ?なんてったって彼女だもんね~? だから、あんまり気を悪くしないで?

淳ちゃんとあたしはただの友達だから。誤解しないで、ね?」




静香はマシンガンの如く、続けざまに雪に向かって弁解をした。

亮はいきなり態度を変えた姉に驚愕し、雪も何も口に出せずに当惑している。しかし尚も静香は続けた。

「あ!これも縁だし、あたしたち仲良くしましょ?

河村静香よ




静香は自分の名前を口にして、雪に向かってニッコリと微笑んだ。

雪の顔は引き攣り、依然として飲み込めない今の状況に当惑する。

な、なんなの‥



雪は戸惑いながらも、頷いて静香からの申し出を了承した。

亮は姉が何かを企んでいるとは知りながら、手出し出来ない状況に頭を抱える。



静香は雪が頷いたのを喜び、より一層の笑顔を浮かべた。

「良かった」



雪はヒクヒクと顔を引き攣らせながら彼女に相対した。

顔の筋肉を動かすと、無数の擦り傷がまだズキズキと痛む。

私‥疲れてるのに‥



目の前の静香が何を計算してこういった行動に出たのか、雪には判断がつきかねた。

ただ、瞳の奥に宿る狂気を目にして、恐ろしい人だということだけは確実に感じた。背筋が寒くなった。


一難去ってまた一難、雪は回り続ける運命の歯車に追い立てられるような気分だった。

避けられないその筋書きに翻弄されながら、彼女の運命は回されていく‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<避けられない運命>でした。

遂に静香が雪の正体に気が付きましたね~!

まさか雪が喧嘩した相手が、以前静香がコテンパにした清水香織とは想像つかないでしょうが‥^^;



次回は<束の間のスーパースター>です。

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ジャンヌ・ダルクを讃えて

2014-07-11 01:00:00 | 雪3年3部(静香との邂逅~万華鏡の様に)
「いっや~!すごいですなぁ~!!」



河村亮は赤山雪を前にして、ひたすら彼女を褒めちぎった。

顔中傷とアザだらけの彼女は、さながら戦いを終えたジャンヌ・ダルクだ。



しかし雪は苦々しい表情をしながら、帽子を目深に被り直した。しかし亮は尚も大きな声で彼女を褒め続ける。

「さっすがダメージだな!皆さん拍手を!マジパネェ!スペシャルッ!!」



止めて下さいよ!と雪は何度も亮に向かって言うのだが、彼は嬉しそうに彼女の周りを大騒ぎしてはしゃいでいた。

そして雪の顔を掴み、見せてみろと言って顔を近づける。



「こういうのはオレの得意分野だからよぉ!いつ治るのか診てしんぜよう!」



オレのじーちゃん医者だったし、と何の説得力も無いことを言いながら、亮は雪の顔を左右に動かす。

雪は必死に抵抗するも、亮はマジマジと雪の顔を見続けた。

「おいおいなんだこの引っかき傷は!ケチケチしねーで見せやがれ」「や~め~ろ~!」



こんなに触られては傷跡が余計に残ってしまう、と言う雪と揉み合っている内、

亮は不意に指でその傷跡を強く押してしまった。



「あべし!」



するとその痛みで、雪は思わず血反吐(?)を吐いた。そのあまりの痛がりように、亮は驚きのあまり目玉が飛び出す。

雪は痛みに小さく震えながら、言葉の限り亮をなじった。

「このバカッ‥このイソギンチャクッ‥



しかし亮はそれよりも衝撃を受けていることがあった。

自分は軽く触れただけなのに、こんなに痛がるということは‥。

ハッ!



亮は血相を変えて雪の顔を再び掴む。

「ひょっとして顔骨ヒビ入ったんじゃねーか?!119番すっか?!

ほら見せろって!レントゲン‥」


 

そう言いながら超至近距離まで顔を近づける亮に、雪は目を剥いた。

そして雪は痛みやら動揺やら赤面やらでグルグルになって、思わず亮の頬を張ったのだった‥。


「‥‥‥‥」



すっかりテンションの下がった亮と雪は、小言を言い合いながら並んで歩く。

「ったくもう‥」「だってお前が大袈裟に‥」「あんなに触られれば痛いに決まってんでしょ



そうグチグチ言う雪の顔を、亮は改めて眺めてみた。

その顔は無数の引っかき傷と切り傷とアザで、見るからに痛々しい。



亮も高校時代は喧嘩をよくした方だが、こんなに傷を負ったことは無かった。

亮は雪に向かって、喧嘩コーチ(?)として訓戒を垂れる。

「てか何でお前こんなに殴られてんの?お前ちゃんとオレの教えを守ったのか?

先制攻撃が大事だって言ったじゃねーか、髪の毛から‥」


「私の方がもっと殴ってやりましたよっ!」



失敬なと言わんばかりに、雪はコーチに反論した。

「河村氏は見れないけど、今頃あの子の顔の方がもっとヒドイことになってると思いますよ?」



そう口にする雪に、亮は「やるねぇ」と言って彼女の頭を優しく撫でた。

「よくやったなぁお前!もう大学制覇しちまえよ!」「やるわけないでしょ!」



二人は食堂へと向かいながら、亮は雪にその顔で接客する気かと言ってクククと笑った。

それでも手伝わなきゃと律儀に口にする雪に、そんな顔見たら客が逃げ出すと亮は尚も言い返す。



すると雪は、ふとあることを思い出して口を開いた。

「あ、そうだ河村氏。どうして前からこのこと知ってたんですか?

私に誰かが喧嘩をふっかけてくるかもって、蓮に何か言ってたんですって?」


 

雪の言葉に、亮は視線を泳がせて言葉を濁した。

以前「お前の姉ちゃんが危ない」と、蓮に忠告して彼女の元へと蓮を向かわせたことを思い出す。



しかしあれは静香のことであって‥。

今は姉も大人しいことだし、亮は言葉を濁してこの場をやり過ごそうとした。

「いやそれは‥特に意味はねぇよ。てか蓮の奴口が軽ぃっての‥」



そこまで口にした亮だったが、次の瞬間目を剥いた。

なぜなら食堂の真ん中に、見慣れたあの後ろ姿を見つけたからだった。



それは、間違いなく姉の静香だった。

亮は青ざめ小さく震えながら、白目になってその場に立ち尽くす。



期せずして、雪の前に静香は現れた。

傷だらけのジャンヌ・ダルクは、その疲れも癒えぬまま更なる強敵と対面する‥。


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<ジャンヌ・ダルクを讃えて>でした。

二人の気安い雰囲気が良いですね~^^

そして遂に静香と雪の本対面ですね。ここからどんな波乱に繋がっていくやら‥。


そして雪ちゃんのスタジャン姿。以前亮が倉庫でピアノを弾いていた時と一緒ですね。



疲れた時とかやる気の無い時に雪ちゃんはスタジャンなのか‥?

(全然気を使われてない亮さんに同情の涙‥


次回は<避けられない運命>です。



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