記念日協会に登録されている今日・1月30日の記念日に「EPAの日」があった。
「EPA」というと、わたしなど、「Economic Partnership Agreement」(経済連携協定)のことを思い出すのだが、記念日協会に登録されている「EPAの日」の「EPA」は、魚に多く含まれるエイコ サペンタエン酸(eicosapentaenoic acid=EPA)の略称で、記念日を設けたのは、水産事業や食品事業などを手がける日本水産株式会社。
EPAには、中性脂肪を減らしたり、動脈硬化などの予防をする働きがある。日付は 肉中心の生活を送る現代人に肉(29)を食べた次の日(30)には魚を食べ、EPAを摂取してバラン スよい食生活を一年中送って欲しいという思いを込めて毎月30日を「EPAの日」として記念日登録したそうだ(※1参照)。
魚肉は最も古くから食べられていた食材のひとつであり、漁業は人類が初めて魚類や甲殻類を川や海から捕獲し始めた中石器時代だろうとされている。
四方を海に囲まれた日本は厖大な数の河川にも恵まれたということもあって古くから魚食文化が根付いており、縄文時代の遺跡からは釣針や銛(もり)、漁網の錘(おもり)として用いられた土器片錘や丸木舟などの漁具が出土しており、漁や採集によって魚介類を収獲していたと考えられている。
鎌倉時代には、漁を専門とする漁村があらわれ、魚・海藻・塩・貝などを年貢として納めるようになった。
室町時代にはさらに漁業の専門化がすすみ、沖合漁業がおこなわれるようになり、市の発達や交通網の整備、貨幣の流通など商業全般の発達に漁業も組み込まれていった。
江戸時代には遠洋漁業がおこなわれ、また、上方で発達した地曳網による大規模な漁法が全国に広まるなど、漁場が広がった。
江戸時代には、多くの商業都市も発達したが、大阪湾という天然の良港にも恵まれた大坂(大阪)は、全国の流通の中心となっていた。大阪湾沿岸域の都市周辺には既に多くの漁村が形成されていたが、これらの漁村から供給される魚介類により「雑魚場(ざこば)魚市場」と呼ばれる水産物市場が形成されていたようだ。
●上掲の画像は雑魚場魚市場。
雑魚場魚市場は、大阪商人や職人の生活を支えるのみならず、廻船によって、最大の消費地である江戸をはじめ、瀬戸内海を経由して日本海沿岸の各地まで水産物を供給していたようだから、まさに、大阪は「天下の台所」であった。
江戸においても、水産物の消費が拡大するにつれて流通業(商品を消費者まで届けるまでの各産業)が発達していった。当初は、幕府に魚を納めた残りを漁師たちが日本橋で売っていたが、鮮度を魚の目の色で判断するなど独特の技術(目利(めき)きの技)を持つ「仲買人」という職業が発達し、水産業の中でも分業化が進んだ(※2:「農林水産省-水産庁HP」の平成21年度水産白書のここ参照)。
●上掲の画像は、歌川広重の描いた『六十余州名所図会』の「上総 矢さしか浦 通名九十九里」・・・の図である。
砂浜が60キロも続き日本の白砂青松100選と日本の渚百選に選定されている千葉県の九十九里浜。
室町時代に、紀州の漁師が地引き網によるイワシ漁を伝えたとされ、江戸時代には「千両万両 引き上げる」と唄われるほど、イワシの地曳網漁の地として全国に知られていたそうだ。画面手前には揚がってくる魚を待つ魚屋や商人たちであろう姿も描かれている。図の地名となっている「矢さしか浦」 「九十九里」の謂れなどは以下参考の※3 を参照されるとよい。賑わっていた房州の江戸時代、明治初期の風景を描いた浮世絵が以下で展示されている。
浮世絵にみる江戸時代、明治初期の漁業 - 日本財団 図書館
●上掲の画像は、同じく広重のあの有名な『東海道五十三次』の「日本橋」の図である。
江戸から京へ向かう東海道(近世東海道)の起点であった日本橋の図には、参勤交代の大名行列が朝早くから江戸を発つ様子が描かれているが、その手前には、魚を天秤棒で担いだ一団が、向こう岸にあった魚河岸から仕入れを終え、行商(物売り参照)に出かける様子も描かれており、江戸で一番賑わっていた早朝の日本橋の活気が伝わってくる。
同じく広重の日本橋の絵では、広重が一立斎の落款をもつ初期(天保3年=1832年頃)の傑作「東都名所 日本橋真景并ニ魚市全図」(3枚組)がある。当作品では、日本橋とその周辺地域を、俯瞰構図で広々と描いており、題名にもあるように、とりわけ日本橋の下流北側に広がる魚市の賑わいのようすが詳しく描かれてお、富士山を望む橋の袂には、日本橋川を行き交う多くの舟と、店を開く者や、天秤棒に魚を満載にして売り歩く者など、大勢の人々の姿が描かれ、魚河岸があった日本橋界隈の賑わい振りが伝わってくる。以下にアクセスし、画面向かって右1の図を拡大して見られるとよい。。
国立国会図書館デジタルコレクション - 東都名所 日本橋真景并ニ魚市全図
徳川家康の関東入国後、摂津から漁民が佃島に移り住み、幕府の膳所(食膳を整える所。台所)に供するために漁業を営んだ。のちに、日々上納する残りの鮮魚を舟板の上で並べて一般に販売するようになった。これが日本橋魚河岸の始まり。1923(大正12)年の関東大震災で壊滅し、その後、築地市場が出来るまでは、江戸および東京の台所として活況を呈していた。
戦後の1948(昭和23)年に出版された GHQ (連合国軍総司令部)天然資源局の報告書には、日本及び日本人にとって魚介類が如何に密接に結びついているかについて以下のように書かれているという。
例えば、「日本は世界に冠たる漁業国であり、漁業者にとって世界の7つの海(注1)のうち6つの海を航海するなど朝飯前」、「日本の漁業者にとって興味の湧かない海洋生物などなく、魚であれ、海藻であれ、余すところなく、無駄なく、利用している。」。また、日本においてこれほどまで漁業が発達した最大の理由として、日本周辺に魚介類の高い生産性を有する好漁場があり、特にアジ、サバ、イワシといった変動の激しい浮魚を上手に利用していると分析しています。この他、魚屋で楽しげに魚介類を買い求める主婦の様子、漁に勤しむ活気ある漁業者、山奥の農村においても5月になると鯉のぼりを掲げるなど日本人の日常生活や行事の中にいかに魚が溶け込んでいるかについて言及されています。・・・と(※2:「農林水産省-水産庁HP」の水産政策審議会 企画部会>第21回[平成20年1月25日]:“第Ⅰ章特集伝えよう魚食文化、見つめ直そう豊かな海”参照)。
戦後の日本経済の成長とともに魚介類の水揚げ量は増加したが、その増加を牽引した遠洋漁業・沖合漁業が1973(昭和48)年の石油ショックによって漁船のコスト高の影響を受け、また1970年代後半から世界の漁業国が200海里規制(排他的経済水域参照)を取るようなると、遠洋漁業・沖合漁業の水揚げ量が減少した。
それでも、日本の排他的経済水域(EEZ)の面積は世界第6位で、国土面積の約12倍もあり、我が国周辺水域が含まれる太平洋北西海域は世界の漁業生産量の2割を占める世界有数の好漁場である。
特に、我が国周辺海域では栄養塩や魚を運んでくる親潮や黒潮などの海流がぶつかることで、豊かな漁場が形成されていることから、日本の海面漁業生産量は今なお世界第6位にあり、世界中で約25,000種程あるうち、、日本とその周辺海域からは約3,900種もの魚類の生息が報告されているという。(※2:水産庁の水産白書(平成24年度)や産政策審議会 第38回 企画部会資料2_4等参照)。
しかし、1985(昭和60)年のプラザ合意以降、円高が進んだために水産物の輸入が増加。1980年代半ば以降、遠洋漁業・沖合漁業・沿岸漁業などの海面漁業は漁獲量の下落傾向が続き、我が国の食用魚介類の自給率は、かつては100%を超えていた(ピークは昭和39年の113%)が、平成12年には53%となった。その後、国内生産量に下げ止まりの傾向が見られたことや水産物輸入量の減少により、近年、食用魚介類の自給率は微増傾向で推移しており、平成22年には60%までに回復はしているようだが、輸入に頼っている現状は続いている。
古くから豊かな海の恩恵を受けて、多彩な魚食文化が発展してきた日本では、魚は焼いたり煮たり、あるいは揚げたりと様々に料理されるが、刺身のように生でも食べるのは世界の中の少数派である。魚には傷みやすいものが多く、保存のために塩漬けや干物、燻製、あるいは油漬けなどに処理される例も多い。直接的な食品でない例としては鰹節や魚醤がある。
そんな『魚』(サカナ)の漢字の読みは、本来「ギョ」「うお」しかなく、昭和48年に当用漢字が改正されてから「さかな」の読み方が認められるようになった・・ということはご存知でしたか?
そもそも「うお」と「さかな」はまったく別のものを指していた。「とびうお」「魚市場(うおいちば)」「魚河岸(うおがし)」というように、水の中で泳いでいる生き物を「うお」と呼んでいた。「さかな」は漢字で書くと『肴』であった。「さか」は“酒”、「な」は“副食・おかず”を意味することばで、【酒を飲むときに添えて食べるもの】を「さかな」と呼んでいた。それがなぜ、魚を「さかな」というようになったのか。昭和初期の辞書には〔魚肉ハ、肴ニシテ、最モ美味ナレバ、其名ヲ専ラニスルナリ〕とあるそうだ。つまり、魚(うお)は肴(さかな)の中で一番おいしかったので、魚を「さかな」と呼ぶようになったという(※4参照)。・・・それほど魚は日本人に好かれていた食べ物であったわけだ。
しかし、生活水準の向上等により、魚介類の1人当たり消費量は世界の各地域で増加しているのだが、日本では減少しており、2008(平成20)年にはポルトガル、韓国に追い抜かれ、人口100万人以上の国の中では3位に転落しているという。
日本の国民1人1日当たりの摂取量は魚介類が減少傾向にある一方、肉類は増加から横ばい。2006(平成18)年には、初めて肉類が魚介類を上回った。2011(平成23)年の魚介類摂取量は前年より若干増加したが、肉類と魚介類の差は拡大している。以下は※5:「厚生労働省:国民健康・栄養調査(平成25年)」の結果の概要(3.食品群別摂取量の表9などより抜き書きしたもの。
※魚介類一日摂取量:2001(平成13)年94,0g(肉類76,3g)→2011(平成23)年72,7g(肉類83,6g)、
この傾向は、若い世代だけでなく、魚を多く食べていると思われる50代、60代にも魚離れが進んでいる。
2001(平成13)年 2011(平成23)年 2014(平成25)年
50代魚介類120,8g(肉類73,2g) 81.6g(肉類87.5g) 81.2g(肉類91.0g)
60代魚介類123,0g(肉類56,8g) 97.7g(肉類68.8g) 94.6g(肉類76.9g)
このような状態が続けば、世代交代が進むにつれて、国民全体の魚介類の摂取量が急速に減少していく可能性は高い。
魚介類には、ビタミンやカルシウムなどの人の健康に必要な栄養成分や機能成分が豊富に含まれている。
・魚介類に含まれる栄養成分
・魚介類に含まれる主な機能成分
中でも、極寒の海の中でも活発に泳ぎ回るマグロやイワシ類・サバ類・サンマなどの、青魚、常温でも固まりにくい魚のサラサラした脂=必須脂肪酸には、ヒトの健康をサポートする秘密がある・・・と、今、注目されている。
健康な体を維持するためにはタンパク質を摂取する必要がある。タンパク質は肉や魚から摂ることができるが、肉だけでは脂肪の摂りすぎやコレステロールの増加が心配。一方、魚は余計な脂肪分が少なく良質なタンパク質が特長であり、健康維持のためには、肉よりも魚で良質なタンパク質を摂ることがオススメだというのである。
魚介類の中でも、青魚には、人の健康に有益な機能成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3系脂肪酸(ω-3脂肪酸)である高度不飽和脂肪酸が多く含まれているそうだ。
EPAは、マイワシ、クロマグロ脂身、サバ、ブリなどに多く含まれており、血栓予防、抗炎症作用(炎症を抑える作用)、高血圧予防の効果が期待されており、
DHAは、クロマグロ脂身、スジコ、ブリ、サバなどに多く含まれており、脳の発達促進、痴呆予防、視力低下の予防などの効果が期待されているという。
日本人の食生活が豊かになり、魚介類中心の食生活から肉中心の食生活に変化してきたため、脂肪の摂取は多くなる一方で、EPAの摂取量は年々減ってきている。
また、1日の食生活におけるEPA・DHA量の調査によると、年齢によって異なるものの、全般的にEPA・DHA摂取量は必要量に足りていない。
ただ、以下参考の※1:「ニッスイHP」に、“いわし・さば・あじなどの青魚に多く含まれるEPAが脚光を浴びるようになったのは、1960年代にデンマークのダイアベルグ博士らが行った、デンマーク自治領であるグリーンランドのイヌイットの人々を対象に行った疫学調査がきっかけです。この調査では、n-3系脂肪酸の摂取量が多いイヌイットには、心疾患がほとんど認められませんでした。このことからEPAなどのn-3系脂肪酸が動脈硬化を予防すると考えられています。”・・・との記載があるが、このダイアベルグ博士らの研究を根拠として、魚油のサプリメントや魚を食べることを推奨する場面でよく引用される基本文献のひとつになっているが彼らの使用している統計が不完であり、その研究成果が信頼できないとする意見もあるのが気になるところではある(※6参照)。
しかし、青魚から採られる必須脂肪酸は、体内では他の脂肪酸から合成できないためにどうしても摂取する必要がある脂肪酸で、健康維持には欠かせない成分であり、食べ物から摂取する必要がある。
一時期、「おさかな天国」と呼ばれる歌が、全国のスーパー、百貨店などの鮮魚店コーナーのキャンペーンBGM用として流れていたのを思い出した。
サカナを食べると アタマが良くなる
サカナを食べると カラダにいいのさ
さあさ みんなでサカナを食べよう
正確な歌詞はここを参照→柴矢裕美/歌詞:おさかな天国/うたまっぷ
1991(平成3)年に水産庁の魚食普及事業の一環として全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)中央シーフードセンターのキャンペーンソングとして制作された楽曲あるが、健康への影響を考えるとあながち無根拠とも言えないところがある(魚介類100g中の主な脂肪酸については魚介類の脂肪酸を参照。又、2012(平成24)年消費者庁より出されている「食品の機能性評価モデル事業」の結果は以下参考※「7:DHA・EPA協議会HP」のn-3系脂肪酸の機能性の評価結果を参照)。
したがって、近年「調理や片付けに手間がかかる」「価格が肉より高い」「青魚が嫌い」などの理由で日本人の魚離れが進み、このまま魚を食べなくなったら、日本人の健康はいったいどうなってしまうのだろうか?高齢化の進んでいる日本。元気で長生きするためには、青魚を食べるよう努力はした方がよさそうだ。
だがどれくらい摂取したらよいのだろう?
厚生労働省はDHA・EPAを摂取量の50パーセンタイル値(中央値)より作成し、1日1000㎎(1g)以上のEPA・DHA摂取を推奨している。1日1000㎎は魚に換算すると、1日約90 g以上。クロマグロの刺身なら約8,5人前以上(1人前80gとして)マアジなら約150g以上摂取する必要があるそうだ。
また、DHAとEPAを魚で摂取しようとすると、魚の種類によってDHAやEPAの含有量が異なるので、効率良く摂取するには魚の種類を選ぶことが重要になるようだ(※※7のQ&A参照)。
私の場合、同じサバ科でもマグロや、白身魚は好きなのだが、青魚はあまり好きではない。鮮度の良いものなら寿司や刺身では食べるが、煮物や焼き物は弱い。今の生活スタイルでは、厚生労働省推奨の摂取量を毎日とるのはとなかなか大変だ。そうなると、サプリメントで捕捉するしかないということなのだろうか・・・・。家人にいろいろ工夫をしてもらわないといけないな~。
参考:
注1: 7つの海:時代によって指す場所は変化するが、現在は「北極海、南極海、インド洋、北大西洋、北太平洋、南大西洋、南太平洋」を指す。
※1:ニッスイHP:サラサラ生活向上委員会
http://sara2.jp/
※2:農林水産省-水産庁HP
http://www.jfa.maff.go.jp/index.html
※3:九十九里浜(くじゅうくりはま)あれこれ - 千葉県山武市公式ホームページ
http://www.city.sammu.lg.jp/site/kids/99.html
※4:「魚」と「さかな」は別のもの? - トクする日本語 - NHK アナウンスルーム
http://www.nhk.or.jp/kininaru-blog/103903.html
※5:厚生労働省:国民健康・栄養調査
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
※6:※6:エスキモーの死亡統計は不完全だった リンクDEダイエット 栄養のひろば
http://www.nutritio.net/linkdediet_kyu/FMPro?-db=NEWS.fp5&-format=news_detail.htm&-lay=lay&KibanID=44394&-find
※7:DHA・EPA協議会HP
http://www.dhaepa.org/index.html
かがわのお魚便利帳
http://www.pref.kagawa.jp/suisan/html/suisan/osakana/index.htm
魚肉の歴史
http://homepage3.nifty.com/onion/labo/fish.htm
やずやHP
http://www.yazuya.com/items/dhaepa/aozakana/index.html
エイコサペンタエン酸 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%82%B5%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%A8%E3%83%B3%E9%85%B8
「EPA」というと、わたしなど、「Economic Partnership Agreement」(経済連携協定)のことを思い出すのだが、記念日協会に登録されている「EPAの日」の「EPA」は、魚に多く含まれるエイコ サペンタエン酸(eicosapentaenoic acid=EPA)の略称で、記念日を設けたのは、水産事業や食品事業などを手がける日本水産株式会社。
EPAには、中性脂肪を減らしたり、動脈硬化などの予防をする働きがある。日付は 肉中心の生活を送る現代人に肉(29)を食べた次の日(30)には魚を食べ、EPAを摂取してバラン スよい食生活を一年中送って欲しいという思いを込めて毎月30日を「EPAの日」として記念日登録したそうだ(※1参照)。
魚肉は最も古くから食べられていた食材のひとつであり、漁業は人類が初めて魚類や甲殻類を川や海から捕獲し始めた中石器時代だろうとされている。
四方を海に囲まれた日本は厖大な数の河川にも恵まれたということもあって古くから魚食文化が根付いており、縄文時代の遺跡からは釣針や銛(もり)、漁網の錘(おもり)として用いられた土器片錘や丸木舟などの漁具が出土しており、漁や採集によって魚介類を収獲していたと考えられている。
鎌倉時代には、漁を専門とする漁村があらわれ、魚・海藻・塩・貝などを年貢として納めるようになった。
室町時代にはさらに漁業の専門化がすすみ、沖合漁業がおこなわれるようになり、市の発達や交通網の整備、貨幣の流通など商業全般の発達に漁業も組み込まれていった。
江戸時代には遠洋漁業がおこなわれ、また、上方で発達した地曳網による大規模な漁法が全国に広まるなど、漁場が広がった。
江戸時代には、多くの商業都市も発達したが、大阪湾という天然の良港にも恵まれた大坂(大阪)は、全国の流通の中心となっていた。大阪湾沿岸域の都市周辺には既に多くの漁村が形成されていたが、これらの漁村から供給される魚介類により「雑魚場(ざこば)魚市場」と呼ばれる水産物市場が形成されていたようだ。
●上掲の画像は雑魚場魚市場。
雑魚場魚市場は、大阪商人や職人の生活を支えるのみならず、廻船によって、最大の消費地である江戸をはじめ、瀬戸内海を経由して日本海沿岸の各地まで水産物を供給していたようだから、まさに、大阪は「天下の台所」であった。
江戸においても、水産物の消費が拡大するにつれて流通業(商品を消費者まで届けるまでの各産業)が発達していった。当初は、幕府に魚を納めた残りを漁師たちが日本橋で売っていたが、鮮度を魚の目の色で判断するなど独特の技術(目利(めき)きの技)を持つ「仲買人」という職業が発達し、水産業の中でも分業化が進んだ(※2:「農林水産省-水産庁HP」の平成21年度水産白書のここ参照)。
●上掲の画像は、歌川広重の描いた『六十余州名所図会』の「上総 矢さしか浦 通名九十九里」・・・の図である。
砂浜が60キロも続き日本の白砂青松100選と日本の渚百選に選定されている千葉県の九十九里浜。
室町時代に、紀州の漁師が地引き網によるイワシ漁を伝えたとされ、江戸時代には「千両万両 引き上げる」と唄われるほど、イワシの地曳網漁の地として全国に知られていたそうだ。画面手前には揚がってくる魚を待つ魚屋や商人たちであろう姿も描かれている。図の地名となっている「矢さしか浦」 「九十九里」の謂れなどは以下参考の※3 を参照されるとよい。賑わっていた房州の江戸時代、明治初期の風景を描いた浮世絵が以下で展示されている。
浮世絵にみる江戸時代、明治初期の漁業 - 日本財団 図書館
●上掲の画像は、同じく広重のあの有名な『東海道五十三次』の「日本橋」の図である。
江戸から京へ向かう東海道(近世東海道)の起点であった日本橋の図には、参勤交代の大名行列が朝早くから江戸を発つ様子が描かれているが、その手前には、魚を天秤棒で担いだ一団が、向こう岸にあった魚河岸から仕入れを終え、行商(物売り参照)に出かける様子も描かれており、江戸で一番賑わっていた早朝の日本橋の活気が伝わってくる。
同じく広重の日本橋の絵では、広重が一立斎の落款をもつ初期(天保3年=1832年頃)の傑作「東都名所 日本橋真景并ニ魚市全図」(3枚組)がある。当作品では、日本橋とその周辺地域を、俯瞰構図で広々と描いており、題名にもあるように、とりわけ日本橋の下流北側に広がる魚市の賑わいのようすが詳しく描かれてお、富士山を望む橋の袂には、日本橋川を行き交う多くの舟と、店を開く者や、天秤棒に魚を満載にして売り歩く者など、大勢の人々の姿が描かれ、魚河岸があった日本橋界隈の賑わい振りが伝わってくる。以下にアクセスし、画面向かって右1の図を拡大して見られるとよい。。
国立国会図書館デジタルコレクション - 東都名所 日本橋真景并ニ魚市全図
徳川家康の関東入国後、摂津から漁民が佃島に移り住み、幕府の膳所(食膳を整える所。台所)に供するために漁業を営んだ。のちに、日々上納する残りの鮮魚を舟板の上で並べて一般に販売するようになった。これが日本橋魚河岸の始まり。1923(大正12)年の関東大震災で壊滅し、その後、築地市場が出来るまでは、江戸および東京の台所として活況を呈していた。
戦後の1948(昭和23)年に出版された GHQ (連合国軍総司令部)天然資源局の報告書には、日本及び日本人にとって魚介類が如何に密接に結びついているかについて以下のように書かれているという。
例えば、「日本は世界に冠たる漁業国であり、漁業者にとって世界の7つの海(注1)のうち6つの海を航海するなど朝飯前」、「日本の漁業者にとって興味の湧かない海洋生物などなく、魚であれ、海藻であれ、余すところなく、無駄なく、利用している。」。また、日本においてこれほどまで漁業が発達した最大の理由として、日本周辺に魚介類の高い生産性を有する好漁場があり、特にアジ、サバ、イワシといった変動の激しい浮魚を上手に利用していると分析しています。この他、魚屋で楽しげに魚介類を買い求める主婦の様子、漁に勤しむ活気ある漁業者、山奥の農村においても5月になると鯉のぼりを掲げるなど日本人の日常生活や行事の中にいかに魚が溶け込んでいるかについて言及されています。・・・と(※2:「農林水産省-水産庁HP」の水産政策審議会 企画部会>第21回[平成20年1月25日]:“第Ⅰ章特集伝えよう魚食文化、見つめ直そう豊かな海”参照)。
戦後の日本経済の成長とともに魚介類の水揚げ量は増加したが、その増加を牽引した遠洋漁業・沖合漁業が1973(昭和48)年の石油ショックによって漁船のコスト高の影響を受け、また1970年代後半から世界の漁業国が200海里規制(排他的経済水域参照)を取るようなると、遠洋漁業・沖合漁業の水揚げ量が減少した。
それでも、日本の排他的経済水域(EEZ)の面積は世界第6位で、国土面積の約12倍もあり、我が国周辺水域が含まれる太平洋北西海域は世界の漁業生産量の2割を占める世界有数の好漁場である。
特に、我が国周辺海域では栄養塩や魚を運んでくる親潮や黒潮などの海流がぶつかることで、豊かな漁場が形成されていることから、日本の海面漁業生産量は今なお世界第6位にあり、世界中で約25,000種程あるうち、、日本とその周辺海域からは約3,900種もの魚類の生息が報告されているという。(※2:水産庁の水産白書(平成24年度)や産政策審議会 第38回 企画部会資料2_4等参照)。
しかし、1985(昭和60)年のプラザ合意以降、円高が進んだために水産物の輸入が増加。1980年代半ば以降、遠洋漁業・沖合漁業・沿岸漁業などの海面漁業は漁獲量の下落傾向が続き、我が国の食用魚介類の自給率は、かつては100%を超えていた(ピークは昭和39年の113%)が、平成12年には53%となった。その後、国内生産量に下げ止まりの傾向が見られたことや水産物輸入量の減少により、近年、食用魚介類の自給率は微増傾向で推移しており、平成22年には60%までに回復はしているようだが、輸入に頼っている現状は続いている。
古くから豊かな海の恩恵を受けて、多彩な魚食文化が発展してきた日本では、魚は焼いたり煮たり、あるいは揚げたりと様々に料理されるが、刺身のように生でも食べるのは世界の中の少数派である。魚には傷みやすいものが多く、保存のために塩漬けや干物、燻製、あるいは油漬けなどに処理される例も多い。直接的な食品でない例としては鰹節や魚醤がある。
そんな『魚』(サカナ)の漢字の読みは、本来「ギョ」「うお」しかなく、昭和48年に当用漢字が改正されてから「さかな」の読み方が認められるようになった・・ということはご存知でしたか?
そもそも「うお」と「さかな」はまったく別のものを指していた。「とびうお」「魚市場(うおいちば)」「魚河岸(うおがし)」というように、水の中で泳いでいる生き物を「うお」と呼んでいた。「さかな」は漢字で書くと『肴』であった。「さか」は“酒”、「な」は“副食・おかず”を意味することばで、【酒を飲むときに添えて食べるもの】を「さかな」と呼んでいた。それがなぜ、魚を「さかな」というようになったのか。昭和初期の辞書には〔魚肉ハ、肴ニシテ、最モ美味ナレバ、其名ヲ専ラニスルナリ〕とあるそうだ。つまり、魚(うお)は肴(さかな)の中で一番おいしかったので、魚を「さかな」と呼ぶようになったという(※4参照)。・・・それほど魚は日本人に好かれていた食べ物であったわけだ。
しかし、生活水準の向上等により、魚介類の1人当たり消費量は世界の各地域で増加しているのだが、日本では減少しており、2008(平成20)年にはポルトガル、韓国に追い抜かれ、人口100万人以上の国の中では3位に転落しているという。
日本の国民1人1日当たりの摂取量は魚介類が減少傾向にある一方、肉類は増加から横ばい。2006(平成18)年には、初めて肉類が魚介類を上回った。2011(平成23)年の魚介類摂取量は前年より若干増加したが、肉類と魚介類の差は拡大している。以下は※5:「厚生労働省:国民健康・栄養調査(平成25年)」の結果の概要(3.食品群別摂取量の表9などより抜き書きしたもの。
※魚介類一日摂取量:2001(平成13)年94,0g(肉類76,3g)→2011(平成23)年72,7g(肉類83,6g)、
この傾向は、若い世代だけでなく、魚を多く食べていると思われる50代、60代にも魚離れが進んでいる。
2001(平成13)年 2011(平成23)年 2014(平成25)年
50代魚介類120,8g(肉類73,2g) 81.6g(肉類87.5g) 81.2g(肉類91.0g)
60代魚介類123,0g(肉類56,8g) 97.7g(肉類68.8g) 94.6g(肉類76.9g)
このような状態が続けば、世代交代が進むにつれて、国民全体の魚介類の摂取量が急速に減少していく可能性は高い。
魚介類には、ビタミンやカルシウムなどの人の健康に必要な栄養成分や機能成分が豊富に含まれている。
・魚介類に含まれる栄養成分
・魚介類に含まれる主な機能成分
中でも、極寒の海の中でも活発に泳ぎ回るマグロやイワシ類・サバ類・サンマなどの、青魚、常温でも固まりにくい魚のサラサラした脂=必須脂肪酸には、ヒトの健康をサポートする秘密がある・・・と、今、注目されている。
健康な体を維持するためにはタンパク質を摂取する必要がある。タンパク質は肉や魚から摂ることができるが、肉だけでは脂肪の摂りすぎやコレステロールの増加が心配。一方、魚は余計な脂肪分が少なく良質なタンパク質が特長であり、健康維持のためには、肉よりも魚で良質なタンパク質を摂ることがオススメだというのである。
魚介類の中でも、青魚には、人の健康に有益な機能成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのオメガ3系脂肪酸(ω-3脂肪酸)である高度不飽和脂肪酸が多く含まれているそうだ。
EPAは、マイワシ、クロマグロ脂身、サバ、ブリなどに多く含まれており、血栓予防、抗炎症作用(炎症を抑える作用)、高血圧予防の効果が期待されており、
DHAは、クロマグロ脂身、スジコ、ブリ、サバなどに多く含まれており、脳の発達促進、痴呆予防、視力低下の予防などの効果が期待されているという。
日本人の食生活が豊かになり、魚介類中心の食生活から肉中心の食生活に変化してきたため、脂肪の摂取は多くなる一方で、EPAの摂取量は年々減ってきている。
また、1日の食生活におけるEPA・DHA量の調査によると、年齢によって異なるものの、全般的にEPA・DHA摂取量は必要量に足りていない。
ただ、以下参考の※1:「ニッスイHP」に、“いわし・さば・あじなどの青魚に多く含まれるEPAが脚光を浴びるようになったのは、1960年代にデンマークのダイアベルグ博士らが行った、デンマーク自治領であるグリーンランドのイヌイットの人々を対象に行った疫学調査がきっかけです。この調査では、n-3系脂肪酸の摂取量が多いイヌイットには、心疾患がほとんど認められませんでした。このことからEPAなどのn-3系脂肪酸が動脈硬化を予防すると考えられています。”・・・との記載があるが、このダイアベルグ博士らの研究を根拠として、魚油のサプリメントや魚を食べることを推奨する場面でよく引用される基本文献のひとつになっているが彼らの使用している統計が不完であり、その研究成果が信頼できないとする意見もあるのが気になるところではある(※6参照)。
しかし、青魚から採られる必須脂肪酸は、体内では他の脂肪酸から合成できないためにどうしても摂取する必要がある脂肪酸で、健康維持には欠かせない成分であり、食べ物から摂取する必要がある。
一時期、「おさかな天国」と呼ばれる歌が、全国のスーパー、百貨店などの鮮魚店コーナーのキャンペーンBGM用として流れていたのを思い出した。
サカナを食べると アタマが良くなる
サカナを食べると カラダにいいのさ
さあさ みんなでサカナを食べよう
正確な歌詞はここを参照→柴矢裕美/歌詞:おさかな天国/うたまっぷ
1991(平成3)年に水産庁の魚食普及事業の一環として全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)中央シーフードセンターのキャンペーンソングとして制作された楽曲あるが、健康への影響を考えるとあながち無根拠とも言えないところがある(魚介類100g中の主な脂肪酸については魚介類の脂肪酸を参照。又、2012(平成24)年消費者庁より出されている「食品の機能性評価モデル事業」の結果は以下参考※「7:DHA・EPA協議会HP」のn-3系脂肪酸の機能性の評価結果を参照)。
したがって、近年「調理や片付けに手間がかかる」「価格が肉より高い」「青魚が嫌い」などの理由で日本人の魚離れが進み、このまま魚を食べなくなったら、日本人の健康はいったいどうなってしまうのだろうか?高齢化の進んでいる日本。元気で長生きするためには、青魚を食べるよう努力はした方がよさそうだ。
だがどれくらい摂取したらよいのだろう?
厚生労働省はDHA・EPAを摂取量の50パーセンタイル値(中央値)より作成し、1日1000㎎(1g)以上のEPA・DHA摂取を推奨している。1日1000㎎は魚に換算すると、1日約90 g以上。クロマグロの刺身なら約8,5人前以上(1人前80gとして)マアジなら約150g以上摂取する必要があるそうだ。
また、DHAとEPAを魚で摂取しようとすると、魚の種類によってDHAやEPAの含有量が異なるので、効率良く摂取するには魚の種類を選ぶことが重要になるようだ(※※7のQ&A参照)。
私の場合、同じサバ科でもマグロや、白身魚は好きなのだが、青魚はあまり好きではない。鮮度の良いものなら寿司や刺身では食べるが、煮物や焼き物は弱い。今の生活スタイルでは、厚生労働省推奨の摂取量を毎日とるのはとなかなか大変だ。そうなると、サプリメントで捕捉するしかないということなのだろうか・・・・。家人にいろいろ工夫をしてもらわないといけないな~。
参考:
注1: 7つの海:時代によって指す場所は変化するが、現在は「北極海、南極海、インド洋、北大西洋、北太平洋、南大西洋、南太平洋」を指す。
※1:ニッスイHP:サラサラ生活向上委員会
http://sara2.jp/
※2:農林水産省-水産庁HP
http://www.jfa.maff.go.jp/index.html
※3:九十九里浜(くじゅうくりはま)あれこれ - 千葉県山武市公式ホームページ
http://www.city.sammu.lg.jp/site/kids/99.html
※4:「魚」と「さかな」は別のもの? - トクする日本語 - NHK アナウンスルーム
http://www.nhk.or.jp/kininaru-blog/103903.html
※5:厚生労働省:国民健康・栄養調査
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
※6:※6:エスキモーの死亡統計は不完全だった リンクDEダイエット 栄養のひろば
http://www.nutritio.net/linkdediet_kyu/FMPro?-db=NEWS.fp5&-format=news_detail.htm&-lay=lay&KibanID=44394&-find
※7:DHA・EPA協議会HP
http://www.dhaepa.org/index.html
かがわのお魚便利帳
http://www.pref.kagawa.jp/suisan/html/suisan/osakana/index.htm
魚肉の歴史
http://homepage3.nifty.com/onion/labo/fish.htm
やずやHP
http://www.yazuya.com/items/dhaepa/aozakana/index.html
エイコサペンタエン酸 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%82%B5%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%A8%E3%83%B3%E9%85%B8