スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

環境に優しい車の共同利用

2007-10-07 19:20:07 | スウェーデン・その他の環境政策
スウェーデンの多くの自治体では、職員が職務上で使う公用車に、エタノール車ハイブリッド車など環境に優しい車を購入したり、長期のリース契約をレンタカー企業と結んで利用している。しかし、それらの車も夜間や週末、夏休みはあまり使われず駐車場に置かれたまま。せっかく環境のための投資をしているのに、それではもったいない。一台あたりの利用度を高めることができないものか? そんな疑問から、自治体による新しい“ビジネス”が始まりつつある。

環境に優しい公用車を、自治体が職務で使わない時間帯に、一般の市民に貸し出すのだ。数世帯で車を共同所有し協同組合のように管理して、利用しあうシステムは以前からあり「bilpool」と呼ばれてきた。(poolは共同利用のための“溜め池”の意) それを地方自治体が一般市民に対して行う、という画期的なアイデアだ。しかも、普通の車ではなく環境に優しい車なので「miljöbilspool(環境車の共同利用)」と呼ばれている。

この制度を利用したい市民はまず毎月の固定料金を払って会員になる。そして、車が必要なときに予約を入れて借りる。使用した時間と走行距離に応じて料金を払うのだ。

例えばヨーテボリ市の南にあるメルンダール市(Mölndal)の場合はこうだ。
固定料金:月150クローナ(2600円)
予約料金:一回当たり10クローナ(175円)
利用一時間につき:20クローナ(350円)
走行距離10kmにつき:20クローナ(350円)(燃料費込み)

典型的な利用例と料金はこうだ。
土曜日にIKEAに家具を買いに行く。
3時間で30km走ったとして、時間料金60kr+距離料金60kr=120kr(2100円)

火曜日の夜に保護者会の集まりに参加する。
3時間で10km走ったとして、時間料金60kr+距離料金20kr=80kr(1400円)
(注:平日夜間はもっと安い場合もある)

週末にドライブに行く。
金曜18時から日曜20時まで借りて、300km走ったとする。
時間料金(26時間)520kr+距離料金600kr=1120kr(19600円)
(注:1日10時間を超える分は時間料金にカウントされない)

夏休みに旅行に出る。
2週間借りて1000km走ったとする。
時間料金(140時間)2800kr+距離料金2000kr=4800kr(84000円)

自治体にとっては、環境車の有効利用に加えて、新たな収入源になる。実際に貸し出し業務を担当するのは、自治体自身ではなくて、委託を受けた民間または公的企業。

市民にとっては、車を所有するよりも安上がり。また一般のレンタカーよりも若干料金が安い上、環境車であれば路上駐車料金が無料になる自治体が多いので、これまた安上がり。

社会全体にとっても、最近は環境車に対する需要が伸び続けており、供給が追いつかない状態なので、公用車の貸し出しによって、その供給が若干でも高められるのだ。

このアイデアはヨーテボリ市で始まった。ヨーテボリでは4年前から、自治体職員を対象にこの制度が実施されていたが、順調に行ったので、それなら一般市民にも開放しようじゃないか、ということになった。すると、リンショーピン(Linköping)市、メルンダール(Mölndal)市、ハッランド(Halland)県、クリファンスタード(Kristianstad)市、ストックホルム県、ストックホルム市、etcなど他の自治体もこの動きに連なり、続々と導入が進んでいるところだ。

ちなみに、ヨーテボリ市でこのアイデアを実現化させたのは、道路交通部の環境課長だった。彼は実はそれ以前にはNPOである自然保護協会(Naturskyddsföreningen)で活動していた。だから、このイニシアティブも彼の環境問題に対する関心から来たようだ。ヨーテボリ市では職員がなるべく自家用車で出勤しないようにするため、公共交通(バス・路面電車・船)の定期券を無料で支給したり、通勤用自転車の貸し出しを行ってもいる。

ビルマ関連

2007-10-05 05:57:07 | コラム
ビルマに関して少しだけ。

ヨーテボリ大学国際研究学部(School of Global Studies)に所属し、ビルマに詳しいスウェーデン人研究者Per Lundberg氏の講演が18:30からあったので聞きに行ったが、ビルマに政治的・経済的・軍事的利害関係を持つ中国との密接な関係のほかに、アメリカのUnocalやフランスのTotalといった石油会社がビルマに対して行ってきた多額の投資も大きな問題だという。投資のほとんどが軍事政権のふところへ収まり、彼らの独裁体制を強固なものにする一方だという。彼らの資源開発の過程で、軍事政権による自国民の強制労働が行われているという。

一方、日本との関係はどうなのか、彼に聞いてみると、日本はビルマにとっての最大の援助国だ、という答えが返ってきた。日本の援助の多くは、美術館建設や遺跡保存など、文化的プロジェクトが多いが、軍事政権側は日本からの援助をうまく利用し、あたかも自分たちの威光でそれらのプロジェクトが実行された形にしているという。そのため、いくら文化的援助とはいえ、軍事政権の正統性を国民に示すための道具にもなっている、との指摘をしていた。また、日本のこれらの援助もビルマの政権に対しては一定の範囲で大きな意味を持っており、日本の外交圧力によって軍事政権に影響力を及ぼすことも可能だ、との指摘があった。現に、かつてスー・チー女史が一時的に自宅軟禁を解かれた際には、日本政府の圧力が背後にあったという。

また、ビルマに対する経済制裁の是非についてだが、一口に経済制裁といっても、国家間の取引から、民間の企業による貿易や投資、さらには、人道的援助など幅広い分野がある。先日、頂いたコメントの中に「経済制裁は貧しい人々の人命に関わる」との指摘があった。しかし、先日のスウェーデン・ラジオのルポタージュが伝えるところでは、「ビルマに対する経済投資を凍結すること」むしろスー・チー女史を始めとする民主活動家やビルマ亡命政府などが諸外国に対して長い間、要求してきたことであったという。理由は、やはり軍事政権の経済的基盤を強固にするだけで、国民のためにもビルマの民主化のためにも、一切貢献しないからだという。だから、やはり投資取引や貿易取引の停止や、政府関係者の海外資産凍結などという形での経済制裁は、ビルマの人々にも支持される可能性が高い気がする。

またもやスキャンダル

2007-10-04 06:40:43 | スウェーデン・その他の政治
北欧有数の投資銀行の中に、Carnegie(カネーギェ)と呼ばれるストックホルムに本社を置く銀行がある。19世紀初頭にヨーテボリで創業した貿易および酒造会社が発祥だという。

(アメリカにカーネギー(Carnegie)財団があるが、これとは全く別組織。元を辿れば両者ともスコットランドの資本家の名前らしい。産業革命前後のスウェーデンには、スコットランド出身の資本家がいくらか移民して来て、主にヨーテボリを拠点に産業活動を始めたという歴史がある。)

この投資銀行は、ここ2年の間、オプション株の取引で生まれた利益や所有ポートフォリオの時価を水増しし、過大な会計報告を行っていた。そして、その会計報告に基づき、役員や従業員が多大なボーナスを引き出していたのだった。スウェーデンの金融監督庁(Finansinspektionen)は、先週、Carnegie投資銀行に法律で規定された最大の罰金額である5000万クローナ(8.8億円)を課した上に、取締役や役員の入れ替えを命じたのだった。

また今年の5月には、スウェーデンの経済犯罪特捜部(Ekobrottsmyndigheten)が、同じくこの投資銀行で行われたスウェーデン史上最大規模のインサイダー取引を告発し、立件したのだった。

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と、ここで終わればいいのだが、このスキャンダルにはさらなる続きがある。

昨年誕生した中道右派のラインフェルト政権の公約の一つは、国営企業の売却。どこの国もおそらくそうだが、スウェーデン政府もいくつかの企業を全体的、もしくは部分的に所有しており、業績のよい企業からは毎年、多額の利益が国庫を潤しているのだ。

ラインフェルト政権はそのうちの27社の随時売却を考えているが、まず手始めに以下の6つの企業の完全売却を行う方針を打ち出している。
OMX(ストックホルム株式市場):政府の所有率6.6%
Nordea(北欧最大規模の銀行):同19.9%
SBAB(住宅金融公庫):同100%
Vin och Sprit(酒造、Absolute Vodkaで有名):同100%
Vasakronan(不動産):同100%
TeliaSonera(電話通信、NTTに相当):同37.3%

これらの企業の売却は、財務省の中でも、財務大臣の下に設置された「地方自治体および金融市場担当大臣」Mats Odell(マッツ・オデル)(キリスト教民主党)の管轄である。

地方自治体および金融市場担当大臣・Mats Odell
トミー(富)とマッツ?

Mats Odellは企業売却のプロセスを進める上でのアドバイザーとして、民間から専門家を雇い入れていたのだが、これが実はCarnegieの元部長だったのだ。さらに、スウェーデンでは各省の事務方のトップである政務次官(statssekreterare)は政権によって任命されるため、政権が変わるごとに入れ替えられるのだが、Mats Odellの任命した政務次官も最近までCarnegieで勤務していたのだった。

というわけで、Carnegieの大きなスキャンダルを受けて、大臣Mats Odellに雇われていたこの二人も解雇された。

Mats Odellは経済界と太いパイプを持っているが、あまりに経済界にベッタリと引っ付いており、民間からの人選や民間企業との取引において冷静な判断ができない、と批判されてきた。1994年にストックホルム国際空港と市内を結ぶ特急(Arlanda Express)ができたときも、破格の値段と条件で民間委託を行い、激しい批判を受けた。

荒波の中を突き進むラインフェルト政権。次の大臣辞任も近いか・・・?

口内喫煙タバコ 「スヌース」

2007-10-02 07:19:33 | スウェーデン・その他の社会
世界中で女性の喫煙率が男性の喫煙率を上回っている国は、おそらくスウェーデンだけだろう。下は以前ここで紹介した統計だ。

以前の記事:男性よりも女性の喫煙率が高い国(2007-07-22)

その一番の理由は、おそらく「スヌース(snus)」と呼ばれる、口に含むタバコが普及しているためではないかと思う。タバコが、紅茶のテーパックの10分の1くらいの大きさの紙袋に入れられており、そのまま上唇と歯茎の間に挟む。すると袋からニコチンがジワジワと染み出てきて、それが歯茎から体内へ吸収されるのだ。


スウェーデンの大手・Swedish Matchのページ(日本のJTのようなもの)
(ここでは「嗅ぎタバコ」と書いてあるけれど、嗅ぐわけじゃなくて実際に口に入れるのだから訳がよくない。スモークレス・タバコ、無煙タバコ、口内喫煙タバコ・・・? 他によさそうな日本語ありますか?)

スウェーデンでは喫煙男性の多くがこのスヌースを使用している。時と場所を構わず、周りを気にせずにニコチンを摂取できるためだ。スヌース使用者は上の喫煙率に含まれていない。一方、それほどおしゃれだと思われないせいか、喫煙女性への普及は低い。これが、女性の喫煙率のほうが高い一つの原因ではないかと私は思う。

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スウェーデンへ来てからまだ1週間の頃に、スウェーデン人に勧められて試してみたけれど、タバコを吸わない人間にとっては味も臭いも異様で、すぐに口から出した。

私の第一印象は「あ、これ馬糞だ」。だったら、お前、馬糞を食べたことあるのか、って? 私の小学校の頃の通学路の周りには畑が広がっていて、あちこちに肥料用の馬糞が積み上げられていた。中のほうでは発酵が進んでいて、寒い冬の日でも湯気が立ち上がっていた。その異様な香りにそっくりだったし、そういえば、雪合戦のようにお互い投げ合って、たまに口に入ったこともあった覚えがある。そのときの味も、まさにスヌース・・・!? だから、そんな遠い過去の記憶が呼び戻されたのだ。

先日、日本から友達が訪ねてきた。タバコを吸わない彼も、このスヌースを口に入れて試していたが、3分くらいしてみると、ソファーの上でグッタリしていた。頭がクラクラして来たのだという。「吐き気がするほどではないけど、決して気持ちがいいものではなかった」と言っていた。これがニコチンの威力なのだろう・・・!

しかも彼が口にしていたのは、普通のスヌースではなくラクリス(licorice)味つきのスヌース。「ラクリス」とは、漢方の甘草(カンゾウ)でスウェーデンでは黒色のキャンディーに含まれている。それが苦手な彼にとっては、まさにダブルパンチだったのだ。(ラクリス=甘草の情報をくれたストックホルムのSさん、ありがとう)

煙を出さないので、吸う本人も肺を汚す心配がないし、副流煙で他人を困らすことがないスヌース。スウェーデンの新しい輸出産業か・・・? と思ったら、実際、日本でも買えるそうですよ。
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でも、口内癌のリスクはあるとのこと。

それから、小袋に入ったタイプのほかに、葉っぱ自体を指先で丸めて、上唇の下に入れるタイプもある。でも、しっかり指で固めないと、たまにボロボロになって、上唇からはみ出てくることも・・・。

いくらハンサムなスウェーデン人でも、こんな「お歯黒」でニヤッ、と微笑まれたら、やっぱり幻滅ですね!(これじゃ、まさに馬糞だ)

ビルマ動乱-中国の役割

2007-10-01 08:24:52 | コラム
ビルマの軍事政権に対する世界各国の圧力がカギとされている。

事態が深刻化する前から、国連では安保理が非難決議を発することが期待された。しかしロシア中国が拒否権を発動する構えを見せたため実現しなかった。また、武力行使が行われ犠牲者が出始めた今では、国連として経済制裁をすることが期待されたが、ここでもロシアと中国が反対している。

一方、EUアメリカは独自の対応を打ち出している。EUは火曜日の段階で「武力が行使された場合には、ビルマに対する経済制裁を行使する」と通告した。またアメリカは木曜日に、ビルマ政府高官の経済資産を凍結する決定を発表した。東南アジアのASEANも非難決議と同時に、すべての政治犯の釈放と民主体制への移行を要求している。

これらの国々のこうした動きも重要だが、それ以上にキャスティングボードを握っているのはやはり中国だ。ビルマの軍事政権に対して政治的・経済的、そして軍事的支援を行っているのは中国だからだ(大量の武器輸出を行っている)。しかし、ビルマ同様、民主主義や言論の自由を認めていない中国政府は、ビルマ政府に対して積極的な批判を行っていない。中国はビルマの石油資源に目をつけ、多額の経済投資を行ってきた。そのため、アフリカ・スーダンのダルフール地方の騒乱の時と同様、人命や人権よりも自国の経済的利益が損なわれることを最も恐れているのだ。

ただ、一つの期待がある。来年の北京オリンピックがあるため、中国は諸外国の批判に嫌でも耳を貸さなければならなくなってきている

北京が2008年五輪の開催地に選ばれたとき、少なくともヨーロッパでは「基本的人権や民主主義、言論の自由を認めない独裁政権に、またとないプロパガンダの晴れ舞台を用意するようなもの」だとか、1936年のベルリン・オリンピックや1980年のソ連でのオリンピックと並べて批判する声も聞かれていた。一方、「そんな晴れの舞台だからこそ、中国はそれを完璧に成し遂げたいとするだろう。だから、国としてのイメージ向上にも気を使うだろうし、外国の批判にも耳を貸し、人権を守るようになるだろう」というオプティミズムがむしろ多数だった。

実際、中国はイメージ向上に躍起だ。批判されていた死刑もずいぶん数を減らしているし、大気汚染の抑制や懸案である中国製品の安全性向上にも力を注ぐ。(一方で、イメージ悪化に繋がるものは物置に押し込めてしまえといわんばかりに、民主活動家や体制に批判的なジャーナリストの封じ込めを行っており、人権侵害の悪化も懸念されている)

だから、ビルマへの対応においても、欧米からの批判を極力避けたい。今のところ、ビルマに対しては消極的な関与しか打ち出していないが、もし欧米が中国に圧力をかけ続ければ、事態の好転を期待できるかもしれない。(ただ、彼らがビルマの民主化を要求することは考えられないが・・・。)

ロンドンを始め、ヨーロッパの大都市ではビルマの軍事政権を非難するデモが行われている。ストックホルムでも、ビルマからの難民を中心に集会を行っている。そして、中国大使館の前で抗議活動を行った。SVTの映像

また、ちょうど今、ヨーテボリで『本と図書館の見本市』が盛大に行われているが、ここに招かれた南アフリカの聖職者でノベール平和賞受賞者(1984年)の Desmond Tutuは基調講演の中で「中国よ、ビルマを救えるのはお前しかいない。もし行動を起こさないのなら、私は2008年五輪に対するボイコット活動に参加することも辞さない」とまで述べた。

もしかしたら、ビルマの騒乱のために北京オリンピックが危うくなるかもしれない…!?