スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンの霞ヶ関 『Rosenbad』の名前の由来

2007-10-24 05:29:20 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンの政治の中心は、ガムラスタン(旧市街地)の手前にある国会議事堂と、水路を挟んだ向かい側にある首相官邸および官庁街。官庁街には様々な省が所狭しとオフィスを構えている。前を通るドロットニング通りにはレストランや土産物屋、アトリエなども並んでいて、官庁街だとは思えない雰囲気がする。

さて、首相官邸や内閣府などの官庁がある一帯は「Rosenbad(ローセンバード)」と呼ばれており、これが内閣府の別称になっている。例えば、内閣による記者会見が行われるときは、報道記者が「Rosenbadからの生中継です」と言ったりする。日本で言う「霞ヶ関」と似た使い方だ。
(首相官邸の建物自体はSagerska palatset(サーゲシュカ・パラッツェット)と呼ばれる)


「Rosenbad」とはrosen(薔薇)bad(浴場)の意。では、なぜこの様な名前が官庁街についているのか? 政治と何か関連があるのか? 15世紀のイギリスで起こった「バラ戦争」との関連は? 1520年にデンマーク王がスウェーデンの反デンマーク・独立派を粛清した「Stockholms blodbad(ストックホルムの血浴)」という惨事があるが、血 → 赤 → バラ と 血浴 → 浴場 という連想で、こんな名前になったのか?

でも、ちょっと詮索しすぎ! 答えは実はもっと簡単なのだ。首相官邸や官庁街になる以前、ここに実際に『バラの浴場』があっただけのことだ。

ストックホルムの町は運河に囲まれており、水が豊富にあるものの、中世には清潔な街とはいえず、不衛生のために住民の死亡率、とくに幼児の死亡率が高かった。公衆浴場の数は少なく、その上、水に浸かって体を綺麗にする、という習慣があまり定着していなかった。人々は亜麻(リネン)の衣類を身につけ、定期的に洗っていたので、それで十分だと考えていたのだった。

この状況を何とかしたい、と考えたChristopher Thielという人は、今の官庁街の場所に土地を買い、大きな公共浴場を建設し1684年に完成した。この公共浴場、実は普通の浴場だけではなく、何と『癒しの浴場』も用意されていたのだった。

『癒しの浴場』は3区画に分かれ、一つはrosenbad(バラの浴場)、一つがliljebad(ユリの浴場)、もう一つがkamomillbad(カモミールの浴場)とされ、薔薇や百合、カモミールの花びらが心地よい香りを漂わせていた。ここは特に、結婚式を4日後に控えた新婦のための浴場としても使われた。新婚前の入浴をし、浴場に隣接するレストランで特別ディナーを食べるのが、ストックホルム中で人気を博し、当時のファッションになったとか。そして、特に人気のあった「薔薇の浴場」の名前を取って、この浴場全体が「Rosenbad」と呼ばれるようになった。その浴場も1780年代末に取り壊されるが、その名は、そのまま地名として残ったのだった。

現在の内閣府の建物は1902-04年にかけて建築された。

------
という、隠された歴史があったのです。でも、もし「バラの浴場」ではなく「カモミールの浴場」がより有名になっていれば、今頃、内閣府はKamomillbadと呼ばれ、首相の記者会見のときも、テレビでは「記者会見の行われる『カモミール浴場』からの生中継です」と、今頃言っていたとしたら、ちょっと滑稽かも。