スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

同性の結婚 - 結婚法からの性別規定の撤廃(2)

2007-10-29 08:02:29 | スウェーデン・その他の政治
前回の続きです。
この議論に関しては、私自身は普段あまり関心がないので、いろいろ調べて分かりやすくまとめようと努力しましたが、結構複雑で、どこまで分かりやすくできたか疑問が残ります。疑問、質問等あったらコメントのほうにください。
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前回の議論をもう一度整理しなおしてみよう。

論点は、同性の“結婚”も、これまで歴史的に使われてきた『結婚』という概念に含めるのか、それとも『結婚』という概念はあくまで異性同士の“結婚”だけを今後も指すようにするのか?

キリスト教関係者の一部やキリスト教民主党(kd)などは、後者の立場を取り続けてきた。「結婚法」とは別に「パートナー法」が制定され、現在では同性のカップルも異性カップルと同等の権利と義務を持ちえているのだから、それで十分ではないか!という意見だ。

そして、たとえ「結婚」と「パートナー」の垣根を取り払い、規定する法律を統一させるとしても、「パートナー」という概念によって異性・同性の“結婚”を法的に包括するべきだ、と彼らは考えている。そうすれば「結婚」という概念を一段高いところに置いて、その歴史的・宗教的な意味合いを維持できるからだ。(これが前回の選択肢①のほう)

一方、世論の大多数は選択肢②を支持しているようだ。つまり異性・同性を問わず「結婚」という概念で統一してしまおう! ということ。左党、社民党、環境党、中央党、自由党はこの路線を支持してきた。保守党は、保守的な価値観を持つ支持者を抱えているため、これまで党内で議論が続いていたが、今週末に行われた党大会で②の路線を正式に推し進めていくことが決まった。よって、同性の結婚に反対しているのは、キリスト教民主党だけとなった。

もちろん、教会関係者からの反発も予想される。「結婚式を挙げる法的権利(挙式権)(vigselrätt)」はこれまでは教会にもあったが、今後は同性の結婚式を教会で行うことを拒む神父も出てくる可能性が高い。ただ、一つ重要なことは、この「挙式権」は権利とともに義務でもあって、その教会で結婚を行いたいという人を神父が拒むことは難しい。もし、同性のカップルの挙式を教会が拒んだ場合、彼らは不当に差別されたとその教会を訴えるだろう。

そのようなイザコザを防ぐためには、これまで教会が持っていた「挙式権」を教会側が放棄するべきだ、という提案がある。結婚に伴う「法的な契約」の手続きは市役所が行い、その上で、宗教的な意味での結婚の祝福を受けたい人だけが、教会に行って儀式を行えばよい、という考えだ。そうすれば、そのような儀式を同性のカップルに対しても行うか否か、宗教的な意味での「結婚」を同性カップルにも認めるか否かは、各教会、各神父が決めればよいことになる。

教会の側から見れば、無難な選択肢だといえる。フランスやドイツでは、まさにこの方法が取られている

しかし、かつてはスウェーデンの国教会(プロテスタント派)であり、現在でも国内最大のキリスト教組織である「スウェーデン教会(Svenska Kyrkan)」は、先週の総会で「挙式権を今後も維持し、さらに、同性カップルの結婚を教会で行うことを認めようではないか!」という結論を下したのだ。教会組織の決定としては、世界的にも類を見ないという。

ただ「同性カップルの結婚を教会で行うことを認める」といっても、ここでも“結婚”が単に「法的な契約」という意味での結婚なのか、宗教的な意味を含めた結婚なのか、は未だ明確ではない。教会で同性の挙式を行うことに賛成の神父でも、それはあくまで「パートナー」としての挙式であって、本来の意味での「結婚」とは呼びたくない、という人も多い。

ともかく、教会組織というと、どの国でもたいていは保守層の集まり、と見られているが、面白いことに「スウェーデン教会」はリベラルな人が比較的多いことで知られているのだ。プロテスタントの影響かもしれないし、または、他のヨーロッパ諸国に比べかなり非宗教化(secularized)したスウェーデン社会を反映して、教会組織も現実的・理性的な視点を多く取り入れているせいかもしれない。スウェーデンでも人々の教会離れが進んでいる。その流れに歯止めを掛けるためには、教会自体が社会の流れや変革に適応して、一般の人々との接点を維持していかなければならない、と考えている教会関係者も多い。とはいえ、もちろん同性の結婚を教会で行うことには反対の人々もおり、今後も議論が続いていくものと見られている。

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政府の調査委員会は、法改正に向けた提案を今年の春に提出しているが、ここでも「教会に挙式権を残すべき」とされていた。教会側がOKを出し、さらに保守党が賛成に回ったことで、来年始めにも法改正される可能性が高い。

政府の調査委員会の報告書(スウェーデン語)